噂を求めて



七番街の崩壊から、どことなくスラムの街には落ち着きがない。
あたしたちはエアリスを救出する為にプレートの上に行く方法を探しながら、街の様子を見て回っていた。

そうして伍番街スラムを歩いていると、ちょっと見覚えのある顔に声を掛けられた。





「あっ!なんでも屋さん、助手さん!いいところにいらっしゃった!」





振り返ると、そこにいたのは眼鏡を掛けたひとりの男性。
その男の人を、あたしとクラウドは知っていた。





「あなた、確か…」

「どうもどうも。自分、活力新聞で記者をやってる者でして」





確か、名前はデマンさん。
あたしが記憶を辿ると、ぺこっと頭を下げてきた。

その挨拶ははじめての顔であるバレットやティファにも向けられていた。
ちょっと自己紹介っぽかったのはそのせいだろう。





「なにが新聞だ!神羅の宣伝ばっかじゃねえか!」





活力新聞という単語を聞いたバレットは速攻で噛みついた。

ああ、やっぱり。
デマンさんに初めて会ったとき、バレットが会ったら絶対噛みつくだろうなあって思ってたんだよねー。

あまりに予想通り。
だからちょっと笑いそうになった。

いや、何笑ってやがるってこっちに飛んできても面倒だから抑えたけどね。





「ええ…、まあ。ただ、だからこそ手に入る情報もありまして。へへへへ…興味あります?」





デマンさんはちょっぴりにやりとしながらそう言った。

興味あります?って言うか、むしろ聞いて欲しそうだよね。
多分、頼み事に関係あることなんだろう。

その証拠に、こちらが反応を見せる前にデマンさんは話し始めた。





「実はですね、神羅の某部署がコルネオの財宝を押収することになったのですが、なんと、その財宝が隠されている部屋の鍵を何者かに奪われてしまったらしいんです。その鍵を奪ったのが、何を隠そうスラムエンジェルなんですよ!神羅やコルネオをつけ狙う、伍番街スラムの盗賊です!あのスラムエンジェルがまた現れたんです!」





ははあん。
まあ話の流れ的に途中でそうかなあとはちょっと思ってた。

前のデマンさんの依頼も、スラムエンジェルの正体を暴きたいっていう話だったから。

やっぱりスラムエンジェル絡みの話だったか。





「どうです?今度こそ興味ありません?」

「まあ、ねえこともねえな。でも、時間もねえ」

「興味ありですね!では、なんでも屋さん!助手さん!スラムエンジェルのアジトは覚えてますよね!」





バレットの微妙な返事の都合の良い部分だけ受けとって話を押し進めようとするデマンさん。
そんな彼は前回の依頼で探索したアジトの話をクラウドとあたしに振ってきた。

でもねえ…。

前回のことを思い出すと、クラウドとあたしにはまあ色々と思うこともあるわけで。





「そりゃ覚えてはいますけど…、いやいやいや…」

「…あんた、懲りてないのか?」





あたしとクラウドは顔をしかめて突っ込んだ。

いやだってさ、この人はそのスラムエンジェルに忠告されていたはずだ。
あまり嗅ぎまわるなってね。一歩間違ったら、相当痛い目も見ていたはず。





「いえね、前向きに考えようかと思いまして。スラムエンジェルに狙われるなら、それはそれでネタになるなと」





デマンさんはそう言って笑った。

ううん…。
まあそりゃ確かにそうかもだけど。

でもそういう考え方にいくということは、根っからの記者…ってことなのかもしれない。

あたしはちらっとクラウドを見た。
クラウドと目が合う。

まあ、クラウドがいいならあたしは別に手伝うよ〜っていうアイコンタクト。
そりゃボスがOKならあたしに異存はありませんもの。

するとその意味を汲んでくれたクラウドは息をつき、デマンさんに用件を聞いた。





「はあ…何をさせる気だ」

「盗まれた鍵を取り返したら、財宝は皆さんのもの。私はスラムエンジェルの正体が知りたいだけなんです。なので、なにかわかったら、ちょこーっと情報をいただければ…」





少しだけ謙虚さを見せるデマンさん。

財宝は皆さんのもの…ねえ。
まあコルネオの財宝って言うんなら、確かに結構な値打ちがあるものなのかもしれないけど。

ざっくり言えば、前回の続きって感じか。

ま、やれるだけはやってみてみようかと、そんな話になり、あたしたちは噂を追ってみることにした。





「おや、なんでも屋と助手。今日は友達と一緒かい」

「あ。ミレイユさん、こんにちは」





デマンさんに言われた通り、とりあえず以前見に行ったスラムエンジェルのアジトを訪れたあたしたちはそこでまた見知った顔であるミレイユさんと会った。

あたしが軽く会釈すると、ミレイユさんはバレットやティファにも名乗っていた。





「アタシはミレイユ。クラウドとナマエとは…ゆきずりの関係だね」

「何をしている」

「うん、ミレイユさん、こんなとこでどうしたんです?」

「たぶんアンタらと同じさ。コルネオの財宝目当てだろ?」





クラウドと一緒に何してるのかを尋ねると、ミレイユさんはコルネオの財宝の件を知っていた。

さ、さすが情報通…。
やっぱりミレイユさんは色々侮れない人な気がする。

言い当てられたことに初めて会うバレットも驚いていた。





「なんで知ってんだよ」

「アタシは街の噂が大好物でね。噂を確かめにきたんだけど…財宝はここには無いよ」

「スラムエンジェルが横取りしたんなら、もう配っちまったんだろうよ」

「そうかもねえ。でももうひとつ噂があるんだ。アンタたち、仮に…仮にだよ。もし財宝が手に入ったら何に使う?」





ミレイユさんは噂を聞かせてくれる前に、あたしたちに財宝の使い道を尋ねてきた。

もしも財宝が手に入ったとしたら…。
考えられる使い道は色々あるだろう。





「物資だな。スラムの生活を立て直すためにゃ物が必要だ。財宝売って、その金で物資を調達する」

「ふ〜ん」





物資か。それは確かに大事だね。
七番街を立て直すにも、それは必要だ。

力強く言ったバレットに、ミレイユさんは軽く頷いた。

…なんか、試されてる?
いや、聞かれた質問が質問なだけに…勘繰りすぎかな?

ミレイユさんは何故そんな質問をしたかは言わない。
でも、もうひとつの噂とやらについては教えてくれた。





「スラムエンジェルが鍵を盗んだって言うのは濡れ衣らしいんだよ。詳しいことはキリエから聞くといい。若いのになかなかの情報通だ。しましまの靴下を履いて、サイズの大きな帽子を被った子さ」

「どこにいる?」

「さあねえ。若い娘を追いかけるのは大変さ。そうだろ?」





クラウドが聞けばミレイユさんはそう言ってにやりと笑った。

はあ…。キリエという女の子を探せ…と。
まあミレイユさんが言うならその子も結構な情報通なのは間違いないんだろうな。

でも、しましまの靴下に大きな帽子…か。





「うーん…」





スラムエンジェルのアジトを離れ、ミレイユさんとも別れたその道中…あたしはちょっと唸ってた。
するとそれに気が付いたクラウドが声を掛けてくれる。





「ナマエ、どうした」

「クラウド…いやあなんかさぁ、さっき聞いた特徴、最近どっかで見たなあって思って…」





記憶の端っこで、ビミョーに引っかかってる感じ。

いやなんとなくその特徴を聞いたとき、どういう子か想像が出来たんだよね。
こうイメージが浮かんだというか、それはつまり見たことがあるからなわけで。

でも、こうぼやぼや〜ってしてるんだよね。
細かいこととか、どこで見たとかがポヤポヤなわけ。





「それは、記憶力がいいのか悪いのかわからないな」

「うーん…まあ、覚えてろって言われたら覚えておくけどさあ、そもそも物事注意深く見る性格じゃないし、覚えなくていいものは覚える気はないからね」

「あんたらしいな」





ちょっと笑われた。

でもそれは別に嫌な顔ではなく、むしろ面白そうと言うか、楽しそうと言うか。
クラウドが楽しそうならなんでもいいやとか思ってきてるあたりあたしも相当だなって感じだけど。

いやでもクラウドがあたしのことで笑ってくれるのは結構嬉しいぞ、本当!





「まあ、キリエ…探してみるか」

「うん。よっし、がんばろー!」





こくりと頷く。
ミレイユさんが言うなら、何かしらありそうだし。

こうしてあたしたちは噂の真偽を求め、キリエと言う女の子を探してみることになった。



END



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