誰かの手のひらの上



「お、どうでした!」

「ミレイユさん、わかる?最新の情報くれるって」





一度記者さんのところに戻ったあたしたち。
進捗をエアリスが説明すると、記者さんことデマンさんの目がカッと見開かれた。





「ミレイユさん!あの情報通!」





デマンさんはミレイユさんの名前に食いついた。
へーえ、記者さんがそこまで言うほどの情報通なんだ…。

あたしはこそっと隣にいたクラウドに小声で話しかけた。





「…ねえ、やっぱ、只者じゃない感じ?」

「…かもな。ただの噂好きってわけじゃなさそうだ」





クラウドも耳を寄せて、こっそり返してくれる。

エアリスの聞き方からしても、ちょっと有名な人なのかもしれない。
ミレイユさん、わかる?ってそういう聞き方だもんね。





「自分もしつこく食い下がったんですが、はぐらかされてしまって。どうやって口を割らせたんです?」

「なあに、年寄りの気まぐれだ」





そうして話しているとミレイユさんがやってきた。
情報の裏とやらは取れたのかな?

ミレイユさんを前にしたデマンさんは食い気味に尋ねた。




「気が変わらないうちに教えてください!新情報ってスラムエンジェルの目撃談ですか?それとも、残した痕跡が…!」

「いいや、やつらのアジトの情報さ」

「アジト…大スクープだ!場所はどこですか!」

「裏道を進んだ先にある物見の高台。もう、ずいぶん使われてない場所だ」

「物見の高台ですね!すぐに行ってみます!」





ミレイユさんの情報とはスラムエンジェルのアジトに関するモノらしい。
へえ、場所まではっきりしてるんだ。

スラムエンジェルについてそれなりの知識しかないあたしでもそれがすごい話なのはわかる。
そんな核心に近いような話、一度も聞いたことないもんね。




「けど、別の噂もある。近頃その高台にモンスターが住み着いたとか。かなり手強い奴らしい。それでも行くとは、見上げた記者根性だ!」





ミレイユさんは追加でアジトにモンスターがいるかもしれないという事も教えてくれた。
それを聞いた途端、デマンさんの意欲が少し萎んだのが見てとれた。





「え、えーっと…いや、軽率に踏み込むのは記者失格!裏付けをとって行動が記者の基本ですから」

「なら、うってつけがいるじゃないか。ねえ?」





そこでミレイユさんの視線がクラウドとあたしに向いた。

うん…?
うってつけ、という事は。





「なんでも屋さん、もう一仕事頼みます!高台の様子を探ってください」





デマンさんにも頼まれた。

あーうん、やっぱりだ。
そういうパターンかなぁとは思ってたけどね。

まぁ断る理由も特になし。
クラウドはそれを了承し、あたしたちはその高台まで足を運ぶことになった。




「よいしょ…と、て、うおおおう!?」




地図に記してもらい、訪れた物見の高台。

立ち入ってまず、声を上げてしまった。
いやだってなぜなら、そこにはドデカイ鉄の塊みたいなモンスターがいたから。

あ、こいつが噂のやつですか!?

なんか…思ってたよりデカイな…。





「おお…クラウドどうする?」

「…そうだな、あのタイプは一撃は重いが動きが大振りだ。ナマエ、あんたは俺と前に出てくれ。交代で囮になって片方が引き寄せてるうちにもう片方で叩く」

「お、了解!」

「エアリスは前に出ないでガ系魔法を撃ち続けてくれ。俺とナマエであんたの方には行かせないようにする」

「わかった、お願い」





役割分担は決めた。
クラウドの「ナマエ、行くぞ」という声と共にあたしは駆け出す。

読み通り、敵の動きは大振りだった。
当たったらヤバいけど、これなら隙も突きやすい!

無駄に頑丈だったからちょっと時間は掛かったけど、それでもこちらのペースは崩すことなく無事に倒すことが出来た。





「よっしゃい!たーおしたー!」





ガラガラドシャーンと崩れたソレ。
それを見たあたしはばんざーいと両手を上げて飛び跳ねた。





「一応、辺りを調べようか」

「はいはーい!エアリス、探そ!」

「うん!何かあるかなぁ」





辺りを見ようと言ったクラウドに頷き、あたしたちはその場所を調べて行くことにした。





「んー、なにこれ…ガラクタ?」





高台の奥の方には大きな壺や家具なんかが放置されていた。

うん、並べてあるっていうよりかは放置の方がニュアンス近いかなぁ…。
一応下にブルーシート引いてあるけどね。





「ナマエ、エアリス」





そうしてその家具や壺を覗いていると、クラウドに呼ばれた。

クラウドの手には何やら紙切れが握られている。
どうやら何か見つけたらしい。

あたしとエアリスはクラウドの両脇に立ち、その紙を覗き込んだ。





「貧しき人々へ援助の品、スラムエンジェルが頂きます」

「おお!スラムエンジェル!」

「スラムエンジェルの予告状!」





クラウドが読み上げてくれたその文面。
そこにあった名前に、あたしたちは思わず声を上げた。

それはエアリスの言う通り、スラムエンジェルの予告状のようだった。

おっと、これはアジトもしや大当たり?





「他には何もなさそうだ。戻って終了報告だ」

「あいあいさー」





クラウドの言葉にぴしっと敬礼の真似事。
まあざっと調べたけど、目ぼしいのは本当にその予告状くらい。

あたしたちはデマンさんとミレイユさんの元に戻ることにした。





「予告カードじゃないですか!!!間違いなくホンモノです!スラムエンジェルの予告カードです!!」





戻って報告し、置いてあった予告状を渡せば、デマンさんはそれはそれは興奮して喜んでくれた。
ふーむ。ここまで喜んでもらえると取りに行った甲斐があったかも。

それにデマンさんだけじゃなく、ミレイユさんの方も感心してくれてるみたいだった。





「へえ、これが有名な予告状かい」

「大発見です!他に手掛かりは…」

「おや?このカード、なんか書いてある…」





でもその時、カードを眺めていたミレイユさんは何か予告以外の文章を見つけたらしい。
ミレイユさんは目を凝らすと、それを読み上げていった。





「しつこき神羅の記者殿へ。おびき出して少々痛い目に合わせるつもりでしたが、なんでも屋と出会うとは幸運でしたね。しかし次はどうなることやら、ご用心あれ」

「スラムエンジェルからの、警告?」





読まれた文に、デマンさんの声が震えた。

おびき出す…?
それってつまり、あのデッカイのを用意したのはスラムエンジェルだったってこと?





「なんでも屋がいなければ、アンタはモンスターにやられてたってわけかい。悪かったね。情報通とか言われていい気になって、あやうくアンタを死なせるところだった」

「まあまあ、こうして無事だったわけですから。…これに懲りず、私にも新鮮なスラム情報を流してくださいね」





ミレイユさんはデマンさんに謝り、それに対しデマンさんはそんなことを気になさらずと首を振っていた。

でも、なんか、うーん…。
なんだか少し、引っかかるような…。

あたしがそうちょっとモヤを感じた時、街の方で騒ぎが聞こえた。





「スラムエンジェルの予告が出たぞ!次はウォール・マーケットのドン・コルネオだ!」

「待ってました!!」

「ドンは大物だ!これは大事件になるぞ!!」





えっ、早速新しい予告…!?
そしてそんな話を聞けば、ここにいる記者さんは勿論食い付くわけで。





「ちょっと!その情報詳しく!」





もう目の前の噂しか見えてない。
ダッと駆け出して行ってしまうデマンさん。

それを見たクラウドはむすっと小さく呟いた。






「…報酬を取り損ねた」

「あー…あはは、だねえ…」





その声にあたしも苦笑いした。

いやだって、そりゃあねえ。
ちょっと厄介なのとも戦ったし、頑張ったのにね。





「ほら、これを持っていきな」





するとミレイユさんがクラウドに何かを手渡してきた。

なんだろうと見てみれば、それはなんと2000ギル。
え、とミレイユさんの顔を伺えば、彼女はにやりと笑った。





「なに、遠慮はいらない。出所はあの記者のポケットだ。はっはっは、盗んだんじゃないよ。預かっただけさ。感心したよ、流石噂のなんでも屋だ」





ミレイユさんはそう言い残すと、軽く手を振ってその場を去っていった。

盗んだんじゃない…預かっただけ…。
い、いつの間に…?

いやまあ、報酬が貰えたなら良しかなあっていう部分は…まあ、あるんだけど…。

でもやっぱり、何かちょっと…引っかかる気がする。





「う、うーん…なんだろう、なーんか誰かの手の上でコロコロ〜っと踊らされていたような気がする」

「…そうだな」

「……クラウドも思う?」

「ああ…」





ぼそっと呟けば、クラウドも頷いてくれた。
どうやらクラウドも微妙な引っかかりを感じているらしい。

それはやり手のスラムエンジェルなのか…それとも。

なんにせよ、一先ず依頼は一段落。

ただ、なんだかちょっと、不思議な感覚が残ったのだった。



To be continued



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