色とりどりの飾り。
テーブルに並ぶ豪勢な料理。

その部屋には賑やかな声がたくさん溢れていた。





「よう、ライト。注いでやろうか」

「ああ、悪いな」

「ライトニング!ファング!これ美味しいよ!」





空いたグラスを手に持つライトと、ボトルを持ってくるファング。
デザートの甘さに頬を綻ばせながらふたりに駆け寄りそれを勧めるヴァニラ。





「ユール、なにか食べたいものあるか?取って来てやるよ」

「ありがとう、ノエル」





ソファに腰を下ろすユールにそう優しく声を掛けるノエル。





「お!うまいな!これ、セラが作ったんだろ?」

「うん。ほんと?良かった。それ、初めて作ったからちょっとドキドキしてたんだ」

「すげー、美味いぜ!な、おっさん!」

「ああ、料理、大半を嬢ちゃんが担当してくれたんだろ?」

「はい、レブロと一緒に!」

「大したもんだぜ!どれ、ドッジたちにもよそっていってやるかね」





料理を褒めるスノウとその言葉に顔を綻ばせるセラ。
傍にいたサッズもセラを褒めて、そして部屋の片隅に用意されたゲームに夢中になっている息子たちのところへ持って行こうと小皿にとりわけ始める。

そう言えば、この飾り付け…天井から下がる色紙を輪にして繋げた飾りはドッジくんとチョコリーナがやってくれたんだとか。

これがあると、パーティって感じ出てくるよね。
その可愛らしいその飾りつけを見て、私も頬を綻ばせた。

でも、頬が緩んだ理由はきっと…こうして響いてくる声たちが、何より幸せに思えるからでもあるんだろう。





「なんだか嬉しそうですね?」





その時、そう声を掛けられた。
私はその声の方に目を向ける。

そこにいたのはグラスを持ちこちらに歩み寄ってくるひとりの銀髪の男性の姿。





「うん、嬉しいよ」





私は彼に頷き、素直に笑ってそう答える。
すると彼は壁に寄り掛かっていた私の隣に来て同じように壁に背を預けた。

ここからは、この部屋の全体の様子が見渡せる。

私たちはふたりでこの部屋にいる皆の笑う顔を眺めた。

今日は、久しぶりに皆で集まってただ楽しい時を共有しようと催したパーティの日。
ただただ、皆で楽しんで、笑って、それだけを考えればいい時間。

それはずっとずっと、あの日から、あの時から見たくてたまらなかった光景だった。





「ルシだった時から…オーファンと戦った時からずっと、望んでた景色だから」

「皆が楽しそうに笑ってる未来…ですか。そんなヴィジョン、確かに見ましたよね」

「うん」





思い出しながら、頷く。

オーファンと戦った時、冷たくて暗い闇の中…そこに至るまでの出来事を思い返していって、その末に…その先が見えた。
皆が楽しそうに笑ってる、とてもとてもあたたかい未来。

彼は、その長い道のりをずっと共にしてきた掛けがえない存在だ。

私は彼を見上げて、ふっと微笑む。
すると彼…ホープも同じように優しい笑みを私に返してくれた。





「…ま、それから何百年もの歳月が流れた挙句、しかもその未来を見ることは叶わぬまま世界は終わってしまったわけだけど」

「はは…、その言い方をすると元も子ないですが…」





でもその優しい微笑みは私のそんな一言で苦笑いに変わった。

だって実際そうじゃないか。
私はクスッと笑った。

そう、それはまるで夢物語みたいな話。
それは…私達の、前世の記憶の話だ。





《ナマエさん、新しい世界に生まれ変わったら僕は、また貴女に逢いたい。貴女のこと…探してもいいですか?》

《うん…探して。迎えに来て》

《はいっ…必ず!》





私たちは世界の終わりに、ライトを筆頭に、人として戦い神を倒した。
新たな世界は万能の神の元を離れ、人が人らしく生きていく…そんな世界となった。

私はその最期に、彼と約束した。

また必ず逢おうと。

そしてこの世界に新たに生まれ変わり、私は君に逢える日を待ち続けた。
いや、自分からだって探した。手掛かりになりそうなことはなんだって手当たり次第に当たっていった。

再会出来た仲間たちにも話を聞いて、一緒に探してもらったりもして。
そして向こうも探してくれているって話を聞くことが出来て。

今私たちは、こうしてまた一緒にいることが出来ている。





「でも本当、皆に会えて良かった。前の世界の記憶があるって色々思う事もあるけど…でもやっぱり、こうやって皆と集まって笑ったりとかって、ずっと実現したいって思ってたことだから」

「そうですね」





ヴァニラとファングがクリスタルの柱になった。
ライトがパラドクスに呑みこまれた。
旅の果てにセラの命が削られて、世界に混沌が溢れて。
ホープが神隠しにあった。

皆が揃う事自体、夢のまた夢だった。





「僕も、ずっと見たかった景色です。そのために色々と研究して、希望を探してましたから」

「うん」

「…それに、こうしてまた貴女の隣に立つことも、僕は望んでた」





ホープはそう言うと、私を見て愛おしむように目を細めた。
それは自惚れでは無いとわかるほど、とてもとても優しい色をしていた。

目を合わせれば、なんだか照れそうになる。

ずっとは見ていられなくて、だから私は少し目を逸らした。





《ナマエさん…!》

《ホープ…》





思い出す。

あの日、この世界で再会した人のこと。
私はきっと忘れないと思う。

だってあの日は、あの瞬間を…私は何より何より、待ち望んでいたのだから。





《ナマエさん!》

《っ…》





姿が見えた瞬間、ホープはわき目も振らずに駆け寄ってきてくれた。
そして手が届く距離まで来ると腕を引かれ、ぎゅっと、きつく抱きしめられた。

あれは駅だった。勿論、周りには人がいた。
でもホープにはそんなの見えてないんじゃないかって思ってしまうほどで…。

本当に…私しか見えてないんじゃないかって、そんなこと馬鹿な事…思ってしまうくらいに。





《会いたかった…会いたかったです…!ずっと…ずっと!」





抱きしめられたまま、噛みしめる様にそんな言葉が聞こえた。

正直、色々不安はあったんだ。

また会おうと、探すと、そう約束した。
でもそれはあくまで生まれ変わる前の話であるのは確かで。

新しい人生が始まった。
あの頃とはまた違う、本当に新たなモノ。

だから気持ちだってあの頃と全く同じとは言えないわけで。

だけどそんな不安、あの瞬間に…嘘みたいに一気に吹き飛んでしまった。

でも、そういえばホープには不安とか無かったのかな。
そう思った私は彼を見上げた。





「ねえ…この世界で会ったらって考えた時、ホープは何か、不安とか無かったの?」

「ナマエさんも同じ気持ちでいてくれているかどうか考えなかったのかって事ですか?」

「…まあ、そういうこと、かな」





そんな事を聞いたのは、照れ隠しだっただろうか。
いやそれもあったのかもしれないけど、でも純粋に疑問に思った。

だって、嬉しいって気持ちをあんなに目一杯伝えて抱きしめてくれたから。





「ナマエさんは思ったんですか?」

「そりゃあ…まったく思わなかったって言ったら、嘘になるよ」

「そうですね…。僕も同じです」





ちらりとセラとスノウに目を向けて見る。

ふたりはどうだったのかな。
傍の目から見れば、とても幸せそうに笑ってる。

結婚を誓い合ったのに、ふたりはずっと…離ればなれのままだったから、今こうして笑っている姿を見られるのはこちらも嬉しく思う。

その光景を微笑ましく思っていると、ホープが言った。





「確かに不安はありましたけど、だけど、そんな気持ちより遥かに会いたい気持ちの方が強くて…。色んなことを調べて、試して、あはは…思い返して笑ってしまうくらいには必死でした」

「…ホープ」





照れくさそうに笑うホープ。
それを聞いて、ああ同じだって思う。

だから私は「うん」と、穏やかに頷いた。





「…ナマエさんは、どうですか?」

「…同じ。もう一度、どうしても会いたかった」





不安はあっても、それをはるかに上回るほどに、会いたい気持ちが強かった。
変な話、きっと会えるか死ぬまで、探し続けたんじゃないかなって。





「私、結構重いよ?」

「え?」

「だって私、ホープが行方不明になった後もずっと、一度だってホープのこと忘れた事無かった。169年間ね。それが生まれ変わった途端に心変わりなんて、ふふっ、ありえないね」

「…ナマエさん」





自分でも、ちょっと思う。
私、ホープのことこんなに好きだったんだって、何度も何度も…ふとした瞬間に思い知った。数えきれない程。

169年間だけじゃない。
ルシだった時から、ずっとずっと。

とんでもなく長い。

ほんと、重い。

でも、思ってしまう。
何度も何度も、何度生まれ変わっても会いたいなって、きっと。

よくあるベタな恋愛モノの台詞を、本気で。

私はホープを見てふっと笑った。





「…ナマエさん…」





するとホープが私の頬に手を伸ばしてきた。

…ああまた。
愛おしそうに…私を見つめて。

もう少しで、指先が触れる。

そんな時、ワッと声が響いてきた。





「あー!またホープとばっかり!!」

「えっ…」





ホープが戸惑ったように声を零して振り向く。
私も同じように視線を追えば、そこにはヴァニラとファングがいた。

声の正体はヴァニラ。

ヴァニラはつかつかと私に近付いて来て、ぎゅっと腕に抱き着いてくる。
そしてキッとホープを見上げた。





「も〜!ホープはずっとナマエといられるでしょ!私たちにも貸して!」

「えっ…あ、ちょ、ヴァニラさん…!?」

「ナマエ、あっちで一緒に話そうよ!今ね、ファングとライトニングとあの時の旅の話してるの!ガールズトーク!」

「あ、うん、する!あ、ごめんホープ…また後で」

「…いえ、楽しんでください…」





私はヴァニラに腕を引かれるがまま、特に抵抗はせずついていく。
いや、だって楽しそうだったし…、私もそれ混ざりたい。

ホープに一度振り返れば、彼は苦笑いしながら軽く手を振ってくれた。





「悪いな、ホープ。ちょっとナマエのこと借りるぜ?」

「いえ…確かに僕はしょっちゅう会ってますし、ゆっくりお話してください。僕もスノウたちと話してきますから」

「おう!お前もあとで話そうぜ」

「はい、是非」





引かれながらヴァニラと話していれば、後ろの方でホープとファングがそんな話をしてるのが聞こえた。

うん。もう、離ればなれでもなんでもない。
会いたいって思ったら、いつだって会える。

もう一度だけ振り返れば、スノウたちの方に向かおうとしていたホープも気が付いてくれて今度はまた微笑んで手を振ってくれた。私も微笑んで返す。

もう、何度も自然と笑っている。
もう、何の引っ掛かりも無く…心から笑うことが出来る。

あの時見た、夢見たヴィジョン。
今、それはここにあるのだから。



END


るい様リクエスト。

LRのラストの転生後に再会を果たす。そして主要メンバーでホームパーティしてワイワイな感じ…という内容で頂きました。

キャラを大勢一気に動かすっていうのが難しくてホームパーティ設定があまり活かせてない…!想像するだけで楽しい設定なのに申し訳ないです…。
転生後のお話って書いてみたいと思いつつなかなか機会が無かったので今回個人的にはやってみたかったことが出来て楽しかったです!

リクエストありがとうございました!
至らない部分が多くありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


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