共にあれる時間



腕の中ですやすやと聞こえる小さな寝息。
俺はそれを聞きながらため息をつき、横抱きにしていたその体をそっとベットの上に下ろした。





《あ…やば…》

《あー!!ナマエがスリプル喰らったッスー!!!》





散策も頃合い、そろそろ飛空艇に戻ろうかという話も出ていた直後の戦闘で、事は起きた。

魔物が唱えたスリプルの魔法がナマエに当たってしまった。

やばいと言いながら瞼の重みに耐えきれなくなったナマエ。
それを見てわっと叫ぶティーダ。

幸い、そう苦戦を強いられる戦闘では無く、その直後すぐに片はついた。
残るはナギ平原の風に吹かれ、すやすやと眠りこけているナマエ。





《随分気持ちよさそうに寝てるッスね〜》

《だよね〜。暢気〜》

《あはは、でもなんだかちょっと、起こすの可哀想だね》





顔を覗きこんだのは、歳の近いティーダ、リュック、ユウナだった。
そしてユウナの最後の一言に、他の面々も「確かに」と頷く。
誰も肩を揺らし、起こそうとはしない。
もともとこの戦闘が終わったら戻る予定だったという理由も手伝ったのだろう。






《アーロン、運んでやれよ》

《……。》





ティーダにそう言われ、俺は息をついた。

俺とナマエが互いをどう思っているのか。
あえて言う事でも無いと、それは周りには言っていない。

だが、そんな話を抜きにしても、ナマエを運ぶのであればそれが妥当なのは俺…ということになるのだろう。

まったく…面倒だ。
俺はしぶしぶとナマエに歩み寄り、その小さな体を抱き上げ飛空艇まで運んだ…というわけだった。





「……。」





俺は布をナマエの上に掛けた。

此処に来るまでまったく起きる気配を見せることの無かったナマエ。
見れば確かに、まさに気持ちよさそうに寝ているという言葉がしっくりくる。





「本当に暢気だな…」





先ほどリュックが言っていた言葉を思いだしながら、俺は思わずふっ…と笑った。

いや、暢気でいいんだ。
ただ、こんな風にお前が穏やかでいてくれたらと…。

俺はベッドそっと腰を下ろす。
そしてナマエの顔を見つめながら、ゆっくり手を伸ばしその前髪をさらりと撫でた。





「元の世界ならきっと、いつでもこうして穏やかに眠れるのだろうな…」





返事が来ない事を知りながら、そんなことを呟く。

こいつは言っていた。
元の世界にはシンは勿論、剣も魔法も、魔物もないと。

戦う必要が欠片も無い。
ナマエの生きていた場所は、そう言うところだと。

だが、この世界に来てナマエの常識は一変した。

シンがいて、自らも魔法を使い、魔物と戦う。

そして…。





《ねえ、アーロン…。あたし、アーロンのこと手伝いたい。アーロンの抱えてるもの、ちゃんと降ろしてあげたい》

《……。》

《だから、見送らせてよ。そして…残された時間の、最後の最後まで、一緒にいさせてください》

《…それで、いいのか?》

《いいよ。…これが、あたしの物語!》





そしてナマエは、そう言ってこのスピラを選んだ。

いや、ジェクトやブラスカのため…。
そして、ユウナや共に旅する仲間と最後まで。
そんな思いも、勿論あるだろう。

だが、俺の為に…と、こいつは確かに言ってくれたのだ。





「…本当に、敵う気がしないな」





俺はまた小さく笑った。

驚くほど、ここぞと言う時に強い。
真っ直ぐひたむきに、前を向く力をナマエは持っている。

凛と、前を見つめる。
その姿を俺は、本当に眩しく思う。





「……。」





そっと、髪を撫でる。
ゆるやかに、何度も撫でる。

だがそうしていると、少し、欲が出る。

…心から、愛しいと思う。
いつまでも見ていたいと、触れていたいと。

そんなことを考えながら、そっと滑らせ、頬からその唇にそっと指先を這わせた。





「……。」





…寝ているところに手を出すような真似は気が引ける。

だが、頭にもう少しという欲が浮かぶ。
まるで熱に浮かされているような。

…離し難い。

呆れる本音。
こんなにも、愛おしくて愛おしくて、仕方がない。





「…まったく」





まったく。自分に呆れる。

俺は軽く、ナマエの前髪を掻き分けた。すると白い額が晒される。
それと同時に口元を隠す己の襟をグッと下げ、俺はそのまま…そのなめらかな白に唇を押し当てた。





「……。」





ゆっくり離れて顔を覗く。
ナマエは変わらず眠りについたまま。





「ふっ…」





自然と笑みが零れる。

傍にいられる。
ああ…共にあれる時間を、こんなにも幸せに思う。

俺はそんな穏やかさを感じながらゆっくりとその場を立つ。

まあ…こうして休む機会もそうあるまい。
何かと気を張り続けているのは事実だろう。





「ゆっくり休め」





そうして俺はそう囁き、物音を立てぬ様に部屋を後にした。


END


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -