触れていたくて



小さな寝息が聞こえる。
すやすやと、安心しきった顔。

飛空艇の貨物の上。
積まれた木箱に座り、寄り掛かり、何もそんなところでと思わなくはないが…。

今、俺はそう眠ってしまっているナマエの姿を見つけた。





「まあ、さっき結構頑張ってたしな…」





俺はそっとナマエに近付いて、その顔を覗きこんだ。

空に浮かんでいるメテオ。俺たちはセフィロスに勝つために、そのために出来ることはなんでもしようと残された時間の中で強い武器やマテリアを求めて各地を巡っていた。

ついさっきも飛空艇を降りて散策をしていたところで、ただ今日は少しバトルをする機会が多かった。
戦闘を得意だと自負するナマエは張り切って、しかも調子が良かったらしくそれはもう大活躍をしてくれ…。
傷つかないか心配になりながらも、まったく頼もしい限りだなと…。
だけどそりゃ疲れるよなと、俺はすっかり眠りこけているナマエを見て小さく笑った。





「ナマエ…」





顔を覗きこんだまま、名前を呟く。
ナマエが起きることは無い。

いやそれがわかっていたから声にしたんだが。

小声なら起きないだろうとわかるくらい、眠っている。

なんだか心が疼く。
今目の前にいて、それがたまらなく愛おしくて。

だから俺はそっと手を伸ばした。
そしてその頭に触れて、ゆっくりとその柔らかな髪を撫でた。





「……。」





触れたまま、じっと見つめる。
そして髪から頬へ、手のひらをそっと滑らせる。

…こうしてあんたに触れたいと、俺は何度願ったんだろう。

手を伸ばして、触れたくて。
だけど、そうすることが怖くて、怯えていた。

でも。





《あたしも好きだよ…。クラウドが好き…》





ナマエはそう言ってくれた。

抱きしめる俺の腕を、それを受け入れてくれて。
ナマエの方からも、背中に手を回してぎゅっと力を返してくれて。

今、もし目を覚ましたとしても…ナマエはこの手を振り払わない。
そんな事実が、途方もなく嬉しい。

だから触れたくて、触れていたくて仕方なくなる。





「ふ…ベタ惚れ、だな…」





思わず自分に笑った。

ああ、本当に…あの時ナマエにも言ったけど。
どうしようもないくらいに、あんたが好きだ。

本当に…本当に。

これは小さな幸せなのだろうか。
でも俺にとっては、凄く大きな幸せだと思う。

あの日と、はじめてあった日と同じだな。

大袈裟なくらい、感謝をくれたあの日のナマエ。
ナマエはずっと覚えててくれて、俺もあの時のことはちょっと特別で。

他人から見ればくだらなくても、でも自分にとっては凄く大きい。

俺はナマエの頬から手を離し、今度は力の抜けている小さな手に触れた。
両手で包み、そして祈る様に自分の額に押し当てる。

…もっと、一緒にいたい。

願う。
だから、過去と決別して、…その隣に。
その時間を、もっと。

ナマエが笑ってくれる未来が、この先にもあるように。

俺は今、それを本気で願っている。




END


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