鑼牟
「ナマエ!」
「ナマエ!ナマエ!しっかりして!」
「ううーん…」
名前を呼ばれた。
なんだ…なんか、鈍く体が痛いぞ。
あたしは顔をしかめてゆっくりと目を開ける。
するとそこには心配そうにこちらを覗き込むエアリスとティファの顔が映った。
「あ!気が付いた!」
「はあ…よかった…!」
「うう…いてて…ふたりとも…ってここ?」
薄暗い、でもとても広い空間。
それを見て思い出した。
そうだ。ここ、宝条施設の研究施設だ。
だけど急に銀髪の…セフィロス?が現れて、足場が崩されて皆で落っこちて…。
そこまで思い出したところであたしはふたりに尋ねた。
「ねえ、クラウドとバレットとレッドは?」
「近くには居ないみたいなの」
「うん、この辺りにいたの、私とティファとナマエだけみたい」
「そうなんだ…」
ふたりに今の状況を教えて貰った。
どうやら男性陣は離れた場所に落ちてしまったらしい。
とりあえずティファとエアリスとは近くで良かった。
こんなところでひとりにされたらどうしていいかわかんなくなるわ。
まあとなればやることはまず皆と合流することだ。
あたしたちは立ち上がり、クラウド達を探していくことにした。
「あー…なんなんだここ、なんなんだ!」
「宝条博士の施設」
「わかってる!それはわかってるよエアリス!なにしてんの!あの博士!なんでこんな不気味なの!」
「さあ…でも、あの人は昔からずっとそう」
「ええ…ずっと昔から、くれいじー?」
「うんうん、くれいじー」
「…ふたりとも、緊張感あるのかないのか…。でも、確かにここは不気味だよね。早く出たいよ…」
話題はもっぱらここが不気味だとか宝条博士ってどういうアレなんだとかそういう感じだった。
満場一致で早くここから出たいという気持ち。
ひとまずは落ちたのだから元の場所に行くのが正解だろうと言うわけで、あたしたちは上を目指すように上り道を選んで進んでいた。
そうしてしばらく歩いていると、すぐ下の道にクラウドとバレットとレッドの姿を見つけた。
「あ、見て!ナマエ、エアリス!あそこ、クラウド達だよ!」
「ほんと!あ、すごいね、あの子」
「わ、レッドやる〜!」
見ていればレッドは壁にある金網を器用に伝い、人では到底飛び越えられない場所へも簡単に移動してみせていた。
流石の身体能力!!
レッドが移動した先にはレバーがある。
それを切り替えると、壁に埋め込まれた実験用ポッドが飛び出してきて、それを足場にして進むことが出来るという具合だ。
レバーはあたしたちも動かして進んでいたから、クラウドたちも同じようにしてここまで来たのだろう。
だけど、そうしてレッドがレバーを下ろそうとしたその時、宝条博士の実験サンプルがわらわらとレッドの方に向かっていっているのがあたしたちの場所からは見えた。
「あっ!ちょ、やば!?レッド!」
「大変!あ!ナマエ、エアリス!あれ!」
「カプセル!うん、あれ、落とそ!」
今いる場所の壁際には、ちょうどあたしたちが抱えられるくらいの大きさのカプセルが大量に積まれていた。
あれを落とせばレッドを助けられる!
あたしたちは急いでカプセルを上から落としてサンプルたちを妨害した。
目論見は大成功。
転がるカプセルに巻き込まれ、サンプルたちは足場から落ちていき、それを見たレッドはこちらを見上げた。
「レッド〜!!」
振り向いてくれたから、あたしはレッドに手を振った。
そして作戦大成功といわんばかりにエアリスとティファとハイタッチした。
その様子を見ていたクラウドとバレットもこちらに気がついてくれたから、あたしたちはクラウド達にも手を振って今そっち側に降りるから待ってて欲しいと伝えた。
「こっち、階段あったよね」
「うん、よかった、思ったよりすぐ合流できそうだね」
エアリスとティファは嬉しそうにそう話してる。
いや、あたしもホッとした。
だって全員の無事が確認出来たわけだし。
でも、一番最初に階段を下りたから、真っ先に気が付いてしまった。
この階段の先は、バリアのような壁でおおわれており、クラウド達の方へ出ることが出来なかった。
「もしもし、クラウド、聞こえてる?」
『ああ、そっちは無事か?』
「この通り。でも、どうしよう…この部屋、出られないみたい」
不幸中の幸い、なのかな。
この部屋の中とクラウド達のいる場所にはPHS Terminalと書かれた通信装置が置いてあった。
ティファが起動すれば、クラウドも意図に気がつき通信を繋げてくれる。
そうして互いの無事を確認していた時、施設内に宝条博士の声が響いてきた。
『あー、聞こえるかね?ふふふ、どうだね、私の実験場《鑼牟》。すなわち世界の最先端の居心地は。光栄に思いたまえ。私の大いなる仮説の検証に君たちも貢献させてやろう。準備が整い次第、第三研究室の扉を開ける。いや、そこにいるならちょうどいい。準備の方も手伝って貰おうか。有益なデータを期待しているよ』
なんだか好き勝手ひとりで喋ってる。
貢献?準備も手伝い?
あのマッドサイエンティスト…あたしたちに何かさせるつもりらしい。
『準備だあ?あの野郎、何を勝手に』
「無視して先に進めない?」
『奴の事だ。都合のいいデータが採れるまでここから出す気はないだろうな』
「なんちゅー迷惑な…」
レッドの言葉を聞いて唖然。
なんて自己中で迷惑なハナシだよ…。
「研究室って言ってたよね。さっき、上で扉を見た気がする。行ってみる?」
『手助けできないぞ。気を付けてな』
確かにあたしたちはここに来る途中で博士の言う第三研究室ってのを見てる。
来た道を戻ればその扉の前には行けるはずだ。
ティファが行ってみようかと言えば、クラウドはこちらを気遣ってくれた。
一先ずクラウド達は行けないからその場で待機してもらうことに。
そしてなにかあったらすぐにこの通信で連絡を取り合うことを決めた。
そんな話を聞きながら、あたしは少し壁の向こうのこの施設を見ていた。
鑼牟…。
宝条博士、ここを実験場って言ってた。
それに、データを採る…か。
それってつまり、サンプルたちとあたしたちを戦わせるつもりってことなんだろうか。
確かにそうすると、クラウド達の手助けが無いって痛いのかもしれない。
勿論、ティファも強いしエアリスのサポート力も絶大だけど。
頑張らないとな…。
そう、きゅっと拳を軽く握る。
「ナマエ。こっち来て。クラウドが呼んでるの」
「え?」
するとその時、ティファにそう呼ばれた。
クラウド?
見てみると壁の向こうでクラウドもこちらを見てる。
目が合うと、確かに機械の前に立てって促された。
はて…なんでしょう。
まあ、呼ばれてるなら勿論答えますけど。
あたしはクラウドと話すべくティファに場所を代わって貰った。
「はーい。なーに、クラウド」
『…ナマエ。あんた、怪我とかしてないか』
「え?いや別に…大丈夫だよ?」
なんか突然心配された。
いや嬉しいけど。ありがとうクラウド。
でも離れてからそこまで時間は経ってないし、さっきティファとも無事だって話してたのに。
『…あんたはなにかと無茶しそうだからな』
「ええー、また!しないったらー」
『頑張らないと、とか、変に気負ってないか?』
「へ」
どきりとした。
え、なに!クラウドエスパー!?
さっき確かに頑張らないとなとは思ったけども!
急に言い当てられてビックリする。
『ティファとエアリスを守らなきゃ…とか、無茶はするなよ』
「クラウド…」
なんか、見透かされてる?
別に気負ってたつもりはないけれど。
でもまあ、言い当てられた部分は確かで。
それにクラウドが心配してくれたのは嬉しいし。
ここまで結構長いこと一緒に戦ってるボスの忠告なので、心に留めておくようにはしよう。
「うん、わかった。気をつける。クラウドがいないの久しぶりだから、ちょっと緊張してたかもね」
『…気をつけろ。本当に、無茶はするな』
「了解!ボス!」
『ボスじゃない…』
そう話して、でも互いに小さく笑った。
そして通信を切る。
あたしはティファとエアリスに向き直った。
「よし、じゃあ行ってみようか!」
3人で頷く。
ここに来る途中、目にした研究室への扉。
一体何が待ち構えているのやら。
気をつけること。
意を決して、あたしたちは階段を戻った。
To be continued
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