列車墓場



下水道を歩き回ったあたしたちは何とか七番街側の出口を見つけることが出来た。

梯子を上り地上に出れば、外はまだ薄暗い。
ドブ水で淀んでいた空気からやっと解放されて、風がひんやりと気持ち良かった。





「あ…」





そんな時、パラパラパラパラ…というプロペラの音がした。
見上げればそこには神羅製のヘリが一機。

それは少し、あたしたちの不安を煽った。
もしかしたらやっぱり、作戦は本当なんじゃないか…って。





「ただの巡回だろう」

「行こう。七番街へ」





クラウドとエアリスは余計な事は言わず、そう言って気を紛らわせてくれた。
あたしも「きっとそうだよ」と頷き、ティファも「うん」と微笑んだ。

そうしてあたしたちは七番街スラムの街に戻るべく歩き出した。

でも、あたしたちが上がった出口は、ちょっと厄介な場所だった。





「まるで迷路だな」





クラウドが目の前の景色を見て呟いた。
そこには瓦礫…廃列車の山が広がり、歩きづらく道を塞いでいた。

この近くに住む人は、この地域の事をこう呼ぶ。





「通称、列車墓場。ジャンクパーツの宝庫」

「ここ、七番街スラムの外れなんだよ。えーっと…確か、ミッドガル建設当時の車両倉庫の跡地…だったっけ?」

「うん。そう。あそこに見えてる車両倉庫の向こうが七番街のはずだよ」





ティファとあたしは簡単にこの場所の事を説明した。

ここは、列車墓場と呼ばれる場所だ。

七番街の外れだから一応知ってはいる。
でも慣れた場所というわけではない。

というか正直わざわざ来るような場所じゃないんだよな…。
まさかよりによって列車墓場に出ちゃうとは…。

折角見つけられた出口。
だけどちょっと気が滅入って、あたしは「あーあ…」とため息をついた。





「人、全然いないね」





しん…とした暗い場所。
あまりの静けさにエアリスも疑問を覚えたようだった。

今は夜。
時間も時間ではある。

でも本当に、人っ子一人、あたしたち以外は誰の気配もない。





「普段は誰も近寄らないの。モンスターだけじゃなくて、怖い噂もあるし」

「うわさ?」

「あはは…ほら、アレだよ。ヒュ〜ドロドロ〜…みたいな?」





ティファの説明に合わせて、あたしは両手の甲をエアリスに見せながらブラブラとさせて笑った。
そう、ここにあるのは肝がヒヤ〜っとする感じの噂だ。





「列車墓場にはオバケが出るって…。夜の列車墓場に迷い込むと、二度と戻ってこられなくなるんだって」





ティファは寒気を押える様に自分の体を抱きしめた。
それを聞けばエアリスも納得したようで「うわあ〜…」と言っていた。





「オバケ?」





だけどクラウドだけは訝しそうに聞き返してきた。
まるでそんなもの信じてるのかとでも言いたげな感じ?





「子供だましだって思うよ、私も。でも…」

「まあ、わざわざ来るような場所じゃないって事だよ。薄気味悪いのは事実だしね」





非現実的だとわかっていながらも、やはり気分が良いモノでは無い。
怯え気味のティファをフォローするようにあたしも苦笑いした。

いや、実際なんか寒気するしね。
おかしいな…さっきはひんやり気持ちいいって思ってたけど列車墓場となると意味合い変わった気がするぞ。

あー…なんかゾゾッとした。

まあ不気味だと思うのは全員一致だろう。

とりあえず、灯りのついている列車を通って進んでいこう。
そう決めたあたしたちは車両倉庫を目指して廃列車の中を歩き出した。





「あ、扉だ…」





しばらく歩くと、区画みたいなものが変わるのか、ひとつの扉を見つけた。

車両倉庫へ行くには、あそこを通る感じかな…。
そんなことを考えながら扉に近づくと、それは急にガタガタとひとりでに動き出した。





「へ!?」

「うわ、なになに!?」





あたしは驚いて声を上げる。
ティファにガバッと腕にしがみつかれた。

うん、ちょっと力強い!!!

いやでも今なんで動いた!?
風!?いや風で扉って動くか!?

少し警戒していれば今度はバーンッ!!と扉が外れて吹っ飛んできた。

うおおう!?

結構ビビった。ビクッとした。
でも、扉が飛んだ理由はすぐにわかった。

扉を飛ばした犯人はここに棲みついているモンスターだった。

び、びっくりさせるんじゃねーですよ!

心臓がバクバクだ。
でもモンスターなら蹴散らすだけだ!

あたしたちはちゃちゃっと、出てきたモンスターを片付けた。





「さっき子供の声、聞こえたよね?」

「子供がうろつく時間じゃない」

「じゃあ…」





モンスターを倒した後、ティファは子供の声が聞こえたと言った。

確かに戦ってる時、何か声の様なものが聞こえた。
でもクラウドの言う通りこんな時間に、ましてや子供なんているわけがない。

ティファの顔を見れば青白くなっていた。

…予想以上に不気味だね、ここ。

もともと、列車墓場の噂は知っていた。

でも噂は噂。
今みたいにモンスターが扉を動かしただとか、そういうのが大袈裟になった話なんだろうと漠然と思ってた。

ていうか、怖い話ってだいたいそう言うものだとは思うしね。

だけどその後もちょいちょいおかしな現象が起こり始める。
地面に光の線で落書きが浮かび上がったりとか。

人間業じゃなさそうな感じ。

うーん、案外信憑性あるのかも…。
あー…なんかちょっと最初よりビビり始めてきたかもしれない…。

あたしもしょぼーんと気持ちが縮こまっていくのを感じた。
…それでも進むしかないから、進むけどさ。

そうしてまたしばらく歩いていると、今度ははっきりと子供の声が聞こえる瞬間があった。





「えっ、なに…!?」





ティファが怯えながら辺りを見渡す。

子供の声とともにガタガタと何かが揺れる音もする。
全員でその物音に警戒した。

もしかしてまたモンスター…?

このガタガタ、どっからしてるんだろう。
あたしも辺りを見渡した。

でもその瞬間、本当に見なきゃいけなかったのは足元だと気が付く。





「きゃあ!」

「ひゃ!」

「うわっ」

「ぎゃっ!?」





あたしたちが乗っていたのは横たわった列車の扉部分。

乗った時は軋む気配すらなかったのに。
その扉は急に外れて、あたしたちは列車の中にガシャーンッと落っことされてしまった。





「く…大丈夫か?」

「こっちは、なんとか」

「いたぁ…うん、平気!」





落ちてすぐ、クラウドはあたしたちを気遣い、声を掛けてくれた。
エアリスとティファはすぐに立ち上がって平気だと返す。

でも、あたしはちょっと…蹲って嘆いてた。





「うう…大丈夫…。…大丈夫だけどさ…もうさっきからこんなんばっかり…!」





だあんっ…と拳を床に叩く。

いやだって…!
コルネオの屋敷でも落とされて下水道でも足場崩れてさっきから一体なんだっていうんだ!

エアリスが「平気平気!」って腕を引いてくれたからとりあえず立ったけど、ぶつけた尻が痛いです。こんちくしょう。





「見て」





お尻を擦っていると、ティファが何かを指差した。
視線を向ければ、またさっきみたいな光の落書きが壁に浮かび上がる。


『Come on!』


その光は、矢印付きでそう書いてあった。





「調子に乗るな」





なんだかおちょくられているみたいで、クラウドは不機嫌そうに言った。
うん、でも確かにイラッとする気持ちはわかるかもだ。





「こっちにおいで…。私達、呼ばれてる?」





壁の文字を見たエアリスはそう呟く。

これは罠か、なんなのか…。
でも呼ばれている方向はあたしたちが目指す道と同じだ。

…なーんか嫌な予感はするけど。

それでも方向がそっちなら仕方ない。
あたしたちはCome on!と呼ばれている道の方へと進んでいくことにした。





「ここが車両倉庫か」





進むと、もうすぐそこに目指していた車両倉庫の扉があった。

大きな扉だ。
少し近づけば、その扉と壁一面がまた光の落書きで一杯になる。

そして聞こえた子供の笑い声と共に、その扉はゆっくりと少しずつ勝手に開いていった。





「これって…」





ティファが怯えながらあたしたちの顔を見る。

まあ、Come on!だったし。
ここに入ってこいって事だよね、これは…。





「うーん…素敵なご招待、だねえ…」





あたしも顔を引きつらせた。

それにクラウドも、流石にここまで続くと気味が悪いと思ったのか「う…」とちょっと引き気味だった。

というか…クラウドってこういうホラー系ってどうなんだろう。
聞いてもきっと「興味ないね」って言われちゃいそうだけど。

でも案外あんまり得意じゃなかったりして。
最初こそオバケ?なんて言ってたけどアレはちょっとした虚勢…だったりとか。

そんな想像をしたら、なんかちょっとほっこりした。
いや実際どうかは知らんけど。

でも今の反応を見ると、人並みに嫌だなとは思ってそうだ。





「ふーん、行ってみよ!」





そんな中、ひとりだけ声の明るい人物がいた。
エアリスだった。

そのあっけらかんぶりに思わず「「えっ」」とクラウドと声が重なる。

クラウドは一番怯えているティファに視線を向けた。





「でも…っ」





その視線に気が付いたティファは声を震わせて渋りを見せる。
だけどエアリスはそんな反応にも明るく笑っていた。

そして彼女は何を思ったのか。





「大丈夫!凄腕のボディーガード、いるから!」





エアリスはそう言いながらクラウドの腕にぎゅっと抱き着いた。

…って、うん!?

え、エアリス!?
なっ…だ、大胆…!?

エアリスは抱き着いたまま「ねっ!」とクラウドに聞く。
クラウドはエアリスから視線を逸らしつつ、ちょっと硬めの声で答えた。





「オバケは、専門外だ」

「え!?そーなの!?」





あたしは思わず聞き返した。

え!なんでも屋ってオバケ専門外だったの!?
何それ初耳!そりゃ覚えておかなくちゃと…!

初めて知った事実にマジかとなる。
いや助手としては聞き逃せないでしょ。

多分そこじゃねえって話なのは、まあ、わかるけど。





「そんなこと言わないで、なんとかして!」





するとティファもそう言いながら、エアリスと同じようにクラウドの腕に抱き着いた。

エアリスとティファがそれぞれクラウドの腕に抱き着いている。
あらやだ、これぞまさに両手に花である。

…って。

え、えええ!!?なにそれ!!?
クラウドモテモテ!?

いやでも…や、やっぱふたりともクラウドのこと好きなのかな…。
まあそりゃ悪く思ってはいないよね!?

そしてその状況にぽつんとするあたし。





「…………。」





え、あれ…なんだ…なんだこの状況…。
なんか…、なんか…ちょっと…。

目の前の光景になんだか耐えられなくなる。

限界がきたあたしは思わずワッと叫んでた。





「え…!ちょっ、なにそれ楽しそう!!あたしだけ仲間外れ!!?あたしもどっか抱き着きたい…っ!!」

「っ、な…」

「ちょ…ナマエ、そう言う反応…?」

「え?」





なんかめちゃくちゃ楽しそうじゃないか!!!
そう思ったことを素直に吐き出せば、クラウドは目を丸くしエアリスは何故か肩をガクっとさせていた。

…ん?

え、だってなんか普通に楽しそうじゃん!
しかもこれあれだよ、なかなかの疎外感だよこれ!?

いやそりゃ好きな人がこうなってるわけだから「うう…」とかなるのかもしれないよ?ていうかそりゃ多少はなってるよ?
けどさ、今抱きついてるふたりはさっきまであたしがクラウドの位置にいたりしてキャッキャしてたふたりなわけさ。

そうなるとあたしも混ぜてくれの方が勝ってしまったと言うか、何と言うか…。





「っ、わかったから、とにかく離れてくれ」





クラウドはそう言ってふたりの手からするりと腕を抜いた。

あ、抜いちゃった…。
うん、いやあたしも変な反応してる自覚はあるんだけどもさ。





「っ…行くぞ」

「あ、うん…」





ふたりから離れたクラウドは、あたしにそう声をかけ車両倉庫の扉に向かって行く。
あたしは頷き、その背中を追いかけた。

でもそうして、少し後ろを歩きながら思う。

うん…まあ、やっぱり羨ましい…のかも。

見つめたクラウドの腕。
そして己の手のひらもちらりと見る。

…でも、今更手を伸ばしてしがみ付く勇気は…あたしにはないのでした。



To be continued


prev next top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -