黒いスーツとスキンヘッド



なんでも屋の仕事は伍番街スラムでもなかなか上手くいったように思う。

魔晄炉の爆破で外に出てしまった兵器の破壊。
墓地に現れるモンスターの退治。
帰りの遅いリーフハウスの子供たちの捜索、などなど。

あと、スラムエンジェルの正体を突き止めたいっていう依頼もあった。

スラムエンジェルって言うのは、悪党からお金を奪いスラムの貧しい人達にばらまくという義賊のこと。
まあ、手掛かりを探しただけで正体を突き止めるまではいけてないけどね。

でも本当に色々、エアリスにも手伝って貰いながらなかなか良い数の依頼をこなせた。





「そろそろ、帰ろっか」

「うん!もう日も暮れてきたね」

「そんな時間か」





頃合いを見て切り上げを提案してくれたエアリス。
あたしが街の時計を見て頷けば、クラウドも一緒にその時計を見て時刻に驚いていた。

クラウド、全然依頼断らずに頼まれたもの全部受けてたもんな。




「クラウド、仕事受けすぎ」

「本当!あれもこれも全部受けたもんね!ほら!やっぱクラウド優しいじゃんか!」

「…報酬が低すぎるんだ」

「えー?そういう?」

「お試し期間、でしょ?我慢我慢。さあ、帰ろう」





夕暮れ時、歩きだしたエアリスを追い掛ける。

最初はお花を届けるだけの予定だったけど、すっかり長居してしまった。
エアリスのお母さん、心配してないだろうか。





「あっ、エアリス!どう、お花、なかなかいい感じに飾れてるでしょ」

「うん、とっても素敵!」





帰り道の途中、リーフハウスを通る。
リーフハウスではさっき届けたお花が綺麗なフラワーアートとして壁に立てかけてあった。





「わ、すっごい!チョコボだね」

「そうだな」





あたしはクラウドとフラワーアートを眺めた。

アートは黄色い花を活かしてチョコボが描かれていた。
なかなかの大作!

自分が選んで届けたものだからか、これはちょっと嬉しいかもしれない!





「あっ、そういえばさっきエアリスの家の方に神羅の人がいたわよ。ほら、黒いスーツのこわい感じの人」




エアリスは先生と少し話してた。
その会話はあたしとクラウドの耳にも届く。

ちょっと、不穏な会話。

神羅の人間で、黒いスーツ…。
あたしはアートからちらりと隣にいるクラウドに目を向けた。





「クラウド〜…」

「…だろうな」





名前呼んだだけだけ。
だけど彼はあたしの言わんとしてる事がわかったらしい。

いやまあわかるよね。

クラウドも今のを聞いて察したはずだ。
むしろあたしがそうだよねって確認したってだけで。

ふたりではあ…と溜め息をついた。

神羅に黒スーツ。
クラウドが教えてくれた、タークスの特徴。

赤髪の方だったら多分怖い感じっていう形容もされない気がする。
だからつまりはあたしたちが遠回りを選ぶ理由になったあっちのスキンヘッドのサングラスさんかな。

出来れば会いませんように〜、なんて願ってみる。
でもその願いはどうやら天には届かなかったようで。





「…うわ」





思わず声が出た。
リーフハウスを出て再び歩き出せば、その道の途中にしゃがんで鳩と戯れている黒いスーツの背中が一つ。
その背中はあたしたちの気配に気が付くと立ち上がり、ゆっくりとこちらに振り返った。





「ごきげんよう」





振り返りそう言ってきたのは、やっぱり街で見かけたスキンヘッドのサングラスタークスだった。
いや全然ごきげん麗しくないですね、はい。





「待ち伏せ?」





エアリスが嫌そうに聞く。
すると男はこちらに歩み寄って来た。





「エアリス、これが新しい友達か?」

「新しいって…人聞きが悪い」





会話こそエアリスとしているけど、視線の先はクラウドとあたし。
いや、主にはクラウドだ。赤髪の奴から情報は聞いていたのか、スキンヘッドさんはサングラスの奥からクラウドの瞳をじっと見ていた。





「なるほど。魔晄の目だ。レノをやったのはこいつか」





レノって…赤髪野郎のことだよね。

クラウドは対抗するようにスキンヘッドさんの前に出た。
互いに近付いて、睨みあう。





「俺だったらどうする」

「事実確認。上長に報告」





今いる小道は少し開けたスペースと面していた。
暴れるにはもってこいのちょっとした広場。

スキンヘッドさんは柵を開けてその広場に入っていった。
クラウドもそれに続こうとする。

それはつまり…え、ここでおっぱじめちゃう感じ!?





「え、エアリス…」

「う〜ん…」





あたしはそろっとエアリスの傍に寄ってクラウドたちを指差した。
いや、戦うのは別にいいんだけどさ…ボディーガードだし。

でもなんとなくエアリスは眉を下げてる気がして。
だからいいの?止める?みたいな。

ふたりで顔を見合わせれば、エアリスはクラウドを追いかけて腕をつかんで止めた。





「クラウド、いこ。ルード、悪い人じゃないから」





スキンヘッドさん、名前はルードと言うらしい。

悪い人じゃない…か。
正直説得力のない強面だけど。

あたしもふたりに駆け寄った。
するとスキンヘッドさん改め…ルードも足を止め、こちらに振り向いた。





「その通り。だがエアリス、俺たちはなめられたら終わりだ」





ルードはそう言いながら手に黒いグローブをはめていた。

あ、戦闘準備…。
どうやらこの人もティファと同じような格闘タイプの人らしい。

戦闘の意思を察したエアリスはクラウドの手を離し、距離を取る。
そしてあたしの傍に来て今度はあたしの手に触れた。

あたしも同じようにエアリスに触れ、ふたりで睨みあうクラウドとルードを見た。





「悪く思うな」





ルードはそう言うと素早く駆け出しクラウドに蹴りを繰り出した。
一方でクラウドは剣を構え、盾がわりにしてそれを受け止める。

うーん、もうこれはやるしかなさそうだ…。

あたしは「いい?」とエアリスを見た。
するとエアリスもその視線に気が付き、仕方ないと言うように頷いた。

よし、もうこうなったらさっさと片を付けてしまおう!
あたしとエアリスもクラウドに並ぶように武器を構えてルードに対峙した。

まあね、戦闘って避けられるならそれに越したことは無いと思う。
だけどやるってんなら全力でやりますとも!





「思った通りだな。タークスなんて、見かけ倒しだ」

「お前もな」





クラウドとルードはもうバッチバチのやる気満々だ。

二人は互いに駆け出す。
その瞬間、本格的な衝突となった。





「相棒の借り、返させてもらう」

「やってみろ」





戦いながら交わされる話を聞いている感じ、この人はあの赤髪の相棒なのだという。

ふーん…。
なんかタイプ違うように見えるけど、案外そう言う方が合うのだろうか。

そんな会話は探り合いにも似ている。しばらくはそうした伺うような動きも多かった。

流れが変わったのは、クラウドが隙を見つけて仕掛けたところ。
細かな動きが多かった中、大きく剣を振るい、その峰がルードの体を弾いた場面だ。

それは結構重たい一撃だった。

その衝撃でルードのサングラスが割れる。
そこから見えた彼の瞳は感心の色でクラウドを見ていた。





「やるな」





ルードの方も咄嗟の受け身でダメージを軽減していた。
なんというか、この辺は流石って感じがした。





「帰る気になった?」

「いや、楽しくなってきた」





エアリスが尋ねれば、予備で持っていたらしいサングラスを掛け替えて笑うルード。

楽しくなってきたって。
何で嬉しそうなんでしょ。

そんな姿を見ていると、なんだかちょっと思い出す。





「どんな仕事も楽しむのがプロフェッショナル…?」

「そうだ。なるほど、あんたがレノが言っていた娘か」

「…へ?」





ふいにあの赤髪が言っていた言葉を口にすれば、ルードはあたしを見て妙な納得していた。

いや!あいつが一体何を言ってたって!?
絶対ロクなことじゃなさそう…。

あたしは思いっきり顔をしかめた。





「相棒の借りは返せそうか?」

「ああ、順調だ」





クラウドをメインとし、しばらく続いた攻防戦。

ルードの言葉にはまだ強気さを感じられたけど、3対1だしこちらが優勢。
押せている手ごたえはあった。

だからエアリスはもう一度戦闘の中止を口にした。





「お願い、今日は帰って」

「そうもいかない」





けどルードも譲らない。彼はスーツの砂埃を掃いながら再び拳を構える。
クラウドやあたしもそれに対抗するように剣を構え直した。

だけどその時、突然、電子音と何やら軽快な音楽が辺りに響いた。

…携帯電話の、音?

聞こえるのはどうやらルードのポケットからだ。
彼はスーツのポケットから電話を取り出し、耳に押し当てた。

電話の内容は勿論聞こえない。でも多分お仕事のことなのだろう。
調子づいてきたところにコレだから「え、いや…」とルードも狼狽えてはいたけど、どうやら優先順位は電話の向こうな様子。





「事情が変わった?」

「…そんなところだ」





電話を切ったタイミングでエアリスが聞けばルードは頷く。
すると上からヘリの音が響いてきた。

え、迎え?早。
迅速すぎてちょっとビックリ。

ルードはヘリから下ろされた梯子に手を掛けた。





「しばらく家にいてくれ」

「それ、苦手なの!」





最後にルードはエアリスに家にいるように言ったけど、でもエアリスは聞く気まったくなし。

どうやら口下手らしい。
返す言葉に悩んだルードの気持ちを知ってか知らずか、ヘリはぶわっと飛び上がりその場から去って行った。





「悪い人じゃない…の意味、ちょっとわかったかも」

「あっ、でしょ?」





エアリスがさっき言っていた、悪い人じゃないと言う言葉。

いや結構な強面だなとかは思った。
でも今の電話口での困惑とかも含め、口下手な様子を見ていると根は悪い人ではないのかもしれない。

あたしが納得すれば、エアリスは楽しそうに笑っていた。

とりあえずこれでタークスに追われる心配はなくなっただろうか。少なくとも今日は。

もうこの小道を抜ければエアリスの家の庭の所に出られる。
だからこそルードも此処で待ち伏せしてたんだろうけど。

こうしてあたしたちはもうすぐそこであるエアリスの家へと再び歩き出した。





「はー、ついたねー!」





小道を抜けると、あたしはそこにある緑のみずみずしい空気を肺に吸い込んだ。

水と、お花の匂い。
初めて来たときも思ったけど、青々としたその空気は何だか気持ちがすっきりするような気がした。





「待ってて」





さてじゃあ家に…と思ったらエアリスはそう言って家とは逆の方、お花たちが咲き誇る庭の方に駆けて行ってしまった。





「エアリスどしたの?」

「さあな」





クラウドに聞けば肩をすくめられた。

まあそりゃクラウドもわからないよね。

でも「待ってて」と言われたからその場で見てる。
するとエアリスは足を止め、くるっとこちらに振り返った。





「やっぱり、来る?」





どうやら行っても良いらしい。

なら喜んでついていきますとも!
あたしはエアリスを追って駆け出した。

すると後ろから「あっ、ナマエ!」なんてクラウドの声がした。

あたしは振り返り、クラウドにも手招きした。
そうすればクラウドも来てくれる。やれやれって顔してたけどね。

そうしてふたりでエアリスの元に向かえば、彼女は黄色い花畑の真ん中にしゃがみこんでいた。

教会で見たのと同じ花。本当綺麗だなって、何度見ても思う。
今まで花なんてほとんど見た事なかったから、自分にもこういう感性があったんだなあと謎の感心。

あたしとクラウドはエアリスを見た。





「花と話して…」

「しーっ」





しゃがみこむエアリスにクラウドが声を掛ければ、静かにと言うように唇に指を立てて優しく微笑んだ。

…花と話してる?





「…という、そんな一日でした」





どうやら今日一日あったことをお花たちに報告していたらしい。
もしかしたら、一日の終わりにいつもこうしてるのかもしれない。

そうすると、エアリスは用は済んだというように立ち上がった。





「行こう。お母さん、待ってる」

「花、なんだって?」

「お疲れ様って」

「へえ〜。エアリスには花の声、聞こえるの?」





クラウドが尋ねるとそう答えてくれたから、あたしは花って労ってくれるんだな〜なんて思いながら腰をかがめた。
するとエアリスはふっと微笑み、ゆっくりと首を横に振った。





「嘘。ナマエ、ごめんね。何も聞こえない」

「え、あっ、そうなの?」

「うん。そんなにあっさり、信じてくれると思わなかった」

「うーん、まああたしには何も聞こえないけど、世界は広いし話せる人がいても不思議はないかなと」

「…そっか!」





そう言うとエアリスはなんだか嬉しそうに笑った。
そして再び、花たちに目を向ける。





「でもね、…ううん、なんでもない。普通は信じないから」

「…だろうな」





エアリスは何かを言い掛けて、でも口を噤んでしまった。
彼女がチラリと見たのはクラウド。クラウドもその言葉に頷いた。

まあ確かに、ちょっと現実離れした話はしてると思うけどね。

でもクラウドはそう言いながらもエアリスに話すよう促した。





「…だが、一応聞こう」

「ホント?」

「ああ。それに今は馬鹿正直に疑わない奴もいるし、な?」

「馬鹿…!まあ素直って事だよね。それなら褒められてるって受け取るからいいですよー」





馬鹿正直とは!
ま、否定はしないけど!

あたしはエアリスが話せるって言えば信じちゃうと思うから。
ていうか実際、今信じたしね。

でも、こういうクラウドもやっぱり優しい。

ふたりでエアリスを見れば、エアリスも頷いてぽつりぽつりと話し始めてくれた。





「あと少し、って気…するんだ。お花、何か話したがってる。何か、言いたい事がある。そんな気、するんだよね。でも、何か、足りない。あと一歩、届かない。だから、聞こえない。私、いつもそう。そして、諦めちゃうの」





なんだか少し意外に思った。
エアリスがこんな風にマイナスな事を言っているのが珍しく思えて。

だっていつも笑ってて、前向きで、こっちまで引っ張られるような…そんな感じの印象だったから。いや、実際そうだったよ。

多分クラウドもそう思ったのだろう。だから彼は言った。





「そんな風には見えない。諦めるようには」

「それはね、今日は、頑張ってるもん」





エアリスはそう言って笑った。

今日は…。
それはつまり。





「…何か、あったのか?」





それを聞いたクラウドは首を傾げる。
これは真面目にわかってない。

エアリスは吹き出すように笑ってた。
あたしも、笑った。

あたしは…エアリスの気持ちが何となくわかる気がした。

あたしも、初めてクラウドと行動することになった日、自分でも妙に張り切ってた気がするから。
なんだろう。認めて欲しいとか、頼りにして欲しいとか、そう言う感じかな?

一緒にいると、頑張りたくなる。





「ナマエも、だよ?」

「えっ?」





するとエアリスはまるであたしの頭の中を見透かしたみたいにそう言った。
クラウドは相変わらずきょとんとしてる。

あたしは頷いた。

うん、あたしも同じだ。今日も、頑張った。
クラウドと、エアリスと一緒だったから。





「うん、あたしも!エアリスも、だよ!」

「ふふっ、うんっ!さあ、行こう!」

「うん!」





エアリスはあたしの手を取り歩き出す。
あたしもエアリスの手を握り返し、一緒に。

ふたりだけで気持ちを共有して笑ってたから、クラウドはなんだか腑に落ちなさそうな顔をしてた。

でもね、あたしやエアリスがそう思うのは…クラウドの、その優しい部分に触れるから。





「…返事くらいしてやれ」





歩き出したあたしとエアリスを追う前に、一度花畑に振り返ったクラウド。
信じない、という言葉に頷いた彼は、お花たちにそんな言葉を掛ける。

ほら、やっぱり優しいんだ。
一緒にいると、そういう部分に沢山触れて、こっちも何かを返したくなる。

あたしとエアリスは足を止めて、クラウドに振り返った。





「クラウド〜」

「お花、なんて?」

「お疲れ…とか、なんとか」





尋ねれば、さっきのエアリスみたいなことを言うクラウド。
ああ、なんだか今、凄く柔らかい雰囲気だ。

あたたかくて、心地よくて。





「うん、お疲れ様」

「へへへ、お疲れ様でした!」





エアリスとあたしはそう言って、クラウドと、そしてお互いを労った。



To be continued


prev next top



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -