その声をいくらでも


「おお!大金!」

「ああ、結構貯まったな」





ショップにて。
アイテムを整理する目的も兼ねて売却していると、手持ちのギルがなかなかの良い額になった。

これにはクラウドも結構満足そう。

クールなフリしてるけど、案外こーゆーのわかりやすいよなぁなんて、ちょっぴりクスッと笑った。






「何か欲しいもの、あるか?」

「ん?」

「あるなら買ってもいいぞ」





するとクラウドはそんなことを聞いてきてくれた。

ふーむ。欲しいもの、ねえ。
そう言って貰えるのは有難い限り。

あたしは「うーん」と考え、ハッとひとつ閃いた。





「あ、じゃあアレ!ボイスレコーダー!」

「…は?」




ピーン!と浮かんがそれを告げれば、なんか凄く顔をしかめられた。

お前が欲しいもの聞いてきたんじゃろうがーいって言うツッコミはまぁ置いておいてあげよう。

多分クラウドが想像してたものはマテリアとかアクセサリーとかそういうものだったはず。
予想外なもの言われたんだろうなとは思うからね。





「ボイスレコーダー!ん?こっちもそういう呼び方でいいのかな?声とか音、録音出来るやつ!」

「…そんなものどうするんだ」

「そりゃ録音するんですよ」

「何を」





何を。そう聞かれてあたしはニンマリと笑った。
するとクラウドは多分ちょっと引いた。

でもそんなもんは慣れっこでい!

引かれようがなんだろうがぶっちゃけどうでもいいあたしはそのまま突き進んでいくことにした。





「そりゃあ勿論、クラウドのお声をですよお」

「俺…?」




クラウドの声。
そう言うと、クラウドは自分の喉元に触れた。

まあね、正直この世界に来てからずっと思ってたのさ。

あたし、この世界に本当身一つで来ちゃったんだよね。
で、まあ現代人ですから思ったわけさ。

なんで携帯ねぇんだよ!!!って。

そりゃあったところでさ、電話もメールも出来ないよ?
でもそれは別にいいわけ。

だって機能ってそれだけじゃないでしょ?





「だってさぁ、正直常日頃思ってる事なんだけどね?」

「常日頃…?」

「クラウドがさぁ、あたしの名前呼んだり話しかけてくるとかさぁ、もうとんでもない事起きちゃってるわけじゃん!」

「…は?」

「ありえない事象起きちゃってるわけ!わかる!?何度これが録音出来たらって思ったことか…!!」





好きなキャラクターの声とか何度だって聴きたいだろ!

くそう!録音してえ!ってこの世界に来てから腐るほど思ったわけさ。

で、しかもさ、こういう台詞言って!って頼む事も出来るわけじゃん。
目の前にいる、このクラウドくんに直接!

なんで携帯一緒にトリップしてねぇんだ馬鹿ぁあああ!!!ってそりゃ思うよね!?って!

そうなればここで登場するのがボイスレコーダーってわけですよ。

冷静に考えて携帯とか充電出来るか怪しいし、だったらこの世界で調達すれば解決じゃんってね!





「てことでクラウド、ボイスレコーダー買って」

「てことでってなんだ」

「クラウドに、ナマエ…愛してるよ、って言ってもらってそれを録音するの」

「なっ…」





クラウドが硬直した。
心なしか顔が赤くなっている。

ピュアだピュアですね!!
ごちそうさまです!!





「なっ、なんでそんなこと言わなきゃならないんだ!」

「聴きたいからだわよ!あ、シンプルに好きだ、とかでもいいよ?」

「っ、だから…」

「むしろ両パターンくれる?ちゃんと名前つけてね!」

「………。」

「クラウドー?」

「……言ったところであんたは」

「え?なに?」

「…何でもない」





なんかブツブツ言ってるクラウド。
まあでも、それだけじゃなくて言ってもらいたい台詞なんていくらでもあるわけで。






「まぁおはようとかおやすみとかでも良いわけよ。あとよくやった、とか褒めてくれるのもいいし、他にも色々、興味ないねとかそう言う口癖も頂きたいね!」

「……ほんとに何でも良いんだな」

「とにかく思いつくまま、色々録音させてください。んで、あたしはそれを繰り返し聴く!」

「…なんの辱めだ」






ノリノリなあたしとは対照的にテンションがだだ下がりしていくクラウド。
べっつに減るもんじゃないじゃんねえ。






「で、家宝にするわ」

「は?」

「その為には元の世界に絶対持って帰れるように肌身離さず持ち歩いてやるんだわよ!」

「………。」





携帯の二の舞は踏まなくてよ!

着てる服は一緒にこっち来てるんだもん。
つまりはちゃんと持っていれば一緒に持って帰れるって寸法よ!

あたしはそう抜かりない、完璧な計画を立てていく。

するとその一方で、それを聞いていたクラウドは何やら難しい顔で黙り込んでしまった。





「クラウド?」

「…帰る話は…」

「ん?」





あたしは笑みを崩さぬままクラウドに首を傾げる。
するとクラウドは一瞬だけ口を結び、そして緩やかに首を横に振った。






「…何でもない」

「ふーん」





こういう時、あたしはきっと意地が悪いのだろう。
そんなことをちらりと思う。

まあ、わかっててやってるし。

だってきっと、あたしはいつか帰るもの。






「まあさ、ボイスレコーダー買いに行こう!」

「…却下だ。絶対買わない」

「なんで!欲しいもの買っていいって言った!」

「旅に関係ないものはだめだ」

「横暴!」

「なんとでも言え」

「ティファとかエアリスにも言ってもらうんだからー!お疲れ様とか頑張れとか言ってもらんうんだあたしはー!!」

「(…俺だけじゃないのか。いや、わかってる、わかってたけどな)」

「クラウドってばー!!」

「はあ…」




ため息ついて、なんか微妙な顔をするクラウド。
あたしは歩きながら、ぐいぐいとクラウドの肩を揺らしていた。


END




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