言葉が届く奇跡


廊下に掛けてある時計を見れば、ちょうど0時を差している。
よし、それではいきましょうか。
そのタイミングを見計らって、あたしはトントンと目の前にある扉をノックした。





「ナマエ…?」





カチャリと開いた扉。
開けてくれたのはあたしを見て不思議そうな顔をしているクラウドだ。
オーケー。そんな顔もとっても素敵だぜ。いつでもどこでも何時だって絶好様な思考回路。
まあそれはよしとして、あたしはニッコリ彼に開口一番こう告げた。





「お誕生日おめでとう、クラウド!」

「え…」





8月11日。日付の変わった今日は、クラウドの誕生日だ。

実は結構昨日あたりからそわっそわしてたりしてね。
やっぱ言うなら0時に言いたいじゃんとか。

とりあえずミッションは成功だ。
やったね〜!と満足感を覚えているあたしとは対照的に、当のクラウドは顔をきょとんとさせていた。





「え、誕生日…。…そうか、今日…8月11日か」

「そうよー?って、自分の誕生日忘れてたわけ?」

「なにかとごたついてたからな…。というか俺、あんたに誕生日教えたか…?」

「ふっ、愚問だね!」

「…誕生日も知ってたのか」

「んふふ!」





この辺はいつものやりとりだ。
こんなことも知ってたのかってね。勿論、クラウドの誕生日も然りだ。

ふん。推しキャラの誕生日把握してないわけないじゃないの!

この世界に来てから何かとテンションがおかしいのは自分でも自覚してるんだけど今も結構きてる気がする。

だってさ、元の世界でだってやっぱクラウドの誕生日ってテンションが上がる日ではあったわけだよ。
それが今はどうだ。まさかFF7の世界に来て目の前に本物のクラウドがいるときてるんだぞ。そりゃワックワクしても仕方ないでしょって話だよ。うん。





「まあ誕生日ってもさ、あたしに出来ることって限られてるし、物のプレゼントとかはないんだけど」

「いや別にそんな気を回さなくていい」

「そう言う気もしたんだよな〜。本当は思いっきりワアッてお祝いしたい気持ちなんだけど」

「変なこと企てるのはやめてくれ」

「失敬だな」





本当は、何かしらプレゼントしようかってのも考えてた。

でもこう良いカンジのことが思いつかなかったんだよね。

クラウドが喜びそう、というか多分必要とするものってやっぱ今は旅関連のものでしょ?
そうするとマテリアとかアクセサリーとか。でもそういうのはクラウドと相談して買ってもらうものだからあたし個人が使えるお金も少しはあるけどちょっと違うよなって感じなんだよね。

もう少し未来だったらバイク関連のものとか、少しクラウドにも趣味を楽しむ時間が出来たりしてるのかもだけど。





「まあ、して欲しい事とかあったら言ってよ。ごめんね、それくらいしか思いつかないけど」

「…いや、ありがとう。そう言ってもらえるのは、有り難く思う」

「お?」





おやま?なんだかちょっと柔らかい反応だ。
そんな風に素直な言葉を返してくれるのは珍しいもんだなと。

でもそう言ってもらえるなら、言いに来て良かったかもって。

いやあたしが言いたい欲が凄かったってのがデカいけどさ。





「ふふ、でも起きててくれて良かったよ〜!時間が時間だし。返事なかったら普通に朝言うつもりだったけど」

「ああ…少し、マテリアの整理してたからな」

「そっか。いや〜、でも本当クラウドに直接おめでとう言える日が来るとね〜!やっばい、なんかじわじわと沁みてきた。物凄い嬉しいぞこれは…ふふふふふふ」

「…なんだ、その笑い」





笑みがこみ上げてきた。
こう、うふうふうふふと。

クラウドはいつもの引き顔です。

本日も実に絶好調でありますよ。いやもうすぐ寝るけどね。
でも起きた後も絶好調だという確信はあるよ。





「…本当に楽しそうだな、自分が誕生日でもあるまいし」

「めっちゃ楽しいよ。だってクラウドの誕生日だもん。あたしは君が大好きですから!」

「……。」

「ふふ!本当、おめでと、クラウド」

「…ああ」





また言葉にした。
やっぱりなんだか楽しくて仕方ないね!!

でも楽しいに決まっているよね。

目の前にいるクラウド。
本当、直接言える。伝えられる。

これは、奇跡の様な瞬間だから。



END


2019年。クラウドのお誕生日。
時期は不明です。深く考えちゃいけない。(爆)

でもトリックスターで誕生日も勿論知ってるよ〜っての書いてみたかったんですよね〜。




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