きみへの想い | ナノ

▽ 奪われていく輝き


「わー、コレすっごい便利だねー!」





風をきるホバー船。
ダムシアンにあったそれのおかげで、だいぶ移動が楽になった。

いいなーこれー。
気持ちの良い風に当たって、あたしは結構上機嫌。





「バロンには飛空艇があるだろう?そっちの方が便利じゃないかい?」

「んー、まあそうだけど。あたしは操縦出来ないし。少しの遠出とかなら、これ凄い良いよ!」

「ははっ、気に入ってもらえたなら何よりだな」





ダムシアンの王子、ギルバート。

気弱な彼だけど、話して見たらとても感じの良い人だった。
竪琴を奏でて、紡がれる詩。

綺麗な声はちょっと羨ましいかもしれない。





「やー、でも本当いいよー。帰りも洞窟通るもんだと思ってたし。ねー、リディア!」

「うん!」





こく、と頷いてくれたリディア。

あー、この子本当可愛いわー。
可愛くて可愛くて緑の髪をわしゃわしゃ撫でた。

すると嬉しそうな顔をしてくれる。
ああもう…ずっきゅーん!って感じだよね!


…まあ、それはともかくだ。
ギルバートの案内のおかげで、あたしたちは無事に砂漠の光を手に入れられた。

今はローザが居るカイポにホバー船で向かってる真っ最中。

ホバー船のおかげで行きに通った洞窟は軽ーくスルーだ。

…いやあ、本当にいいよ、これ。
あたしは大変このホバーが気にいったわ。





「でも…なぜアントリオンが…。アントリオンが人に危害を加えるなんて…」





あたしは能天気にうふふー、なんて笑ってた。

でも、それを見て最初は笑ってたギルバートは…少し難しい顔になった。

砂漠の光はアントリオンの分泌物から出来るもの。
そしてアントリオンはおとなしいはずの魔物。

でも、さっき…アントリオンは襲いかかってきた。





「最近魔物の数が増えた。いままで大人しかった獣達まで襲ってくる。やはり何かの前触れ…」





ギルバートに釣られるように、同じように難しい顔をしたセシル。

…まあ、確かに魔物の数に関してはあたしも感じてる事があった。

バロンからカイポに行く途中、妙に魔物多いなあって思ったし。
ていうか、ローザが高熱病にかかったのもそこに原因があるんだと思う。
立て続けに戦闘が続けばそりゃきついよねって話だもん。

…まあ、あたしはね。
ぶっちゃけ体力にもそこそこ自信あるかんね…。

子供の頃から走る走る。
だーっ、と犬みたいに駆けまわってはすっ転んで。
おかげで「ナマエ、落ち着け」をカインの口癖にしちゃったけども。

でもその甲斐あって持久力あるんだぜ!結果オーライ!





「ナマエ!カイポ見えて来たよ」

「うん!そーだね」





見えて来たオアシス。
身を乗り出してカイポを指さすリディアに頷きながら、あたしも見つめた。

セシルは、ぎゅっと大事そうに砂漠の光を握りしめていた。







「ローザ!ほらセシル、早く!」

「ああ!」





カイポに着くと、あたしたちは真っ直ぐローザが休ませて貰ってる民家に走った。

セシルはローザの額に砂漠の光を差し出す。
すると、光は満ちて、ローザの瞼が眩しそうに動いた。





「ううん…」





砂漠の光の効果は即効性らしい。
唸りから解放されて、ゆっくり目を開いてくローザ。

その瞳にセシルを映すと、ローザは途端に顔をほころばせた。






「…セシル…!」

「ローザ…」

「生きていたのね!良かった…。ミストの地震であなたは死んだと聞いて…。でも信じられなくて…」

「ああ、ナマエから聞いたよ。…すまない」





ふたりを包む空気は、とっても柔らかいものだった。

ううん、いいなあ。
やっぱこーゆー風なの。

こっちも釣られてほころんだ。

ローザとセシルは、あたしの憧れだもん。





「ローザー!」

「…ナマエ…、ごめんね。迷惑かけて…」

「ぜんぜん!」





あたしは両手を伸ばして、ローザにがばっと抱きついた。

そしたら、あたしにも綺麗な笑みをくれた。

ああ、ローザローザー!
だって安心したのはあたしも同じ。
それを噛みしめるみたく、あたしはぎゅうっとローザを抱きしめた。





「あ、でも、ギルバートやリディアに手伝って貰ったんだけどね」

「ギルバート?リディア?彼ら?」





首を傾げたローザは、後ろにいた2人に目を向けた。

うーん。
ちょっと説明遅れちゃったけど、多分気になってたんだと思う。





「彼はギルバート、ダムシアンの王子だ。彼のおかげで君を治す事が出来たんだ。この子はミストの…リディアだ」

「ギルバートです。無事で何よりだ」

「…大丈夫?」

「ええ、ありがとう。リディア、ギルバート」





セシルが2人を紹介すると、ローザは2人に頭を下げていた。

手短な自己紹介。
そのあとすぐに本題の話に入った。





「ところで…ゴルベーザのことなんだが…」





ローザを気遣いながら、セシルが切り出す。
ローザはそれに頷いて、バロンでの出来事と予想を整理をしてくれた。





「…ええ。彼が来てから、バロン王は…ますますおかしくなって…。きっと、ゴルベーザが王を操りクリスタルを集めているんだわ。あなたが取ってきたミシディアの水のクリスタル。ダムシアンの火のクリスタル。ファブールの風のクリスタル。それにトロイアの土のクリスタル…」

「…火のクリスタルはすでに彼の手の中です」





ギルバートが歯を食いしばった。

あたしはポン…と彼の肩を叩いた。
君のせいじゃないよ、って意味を込めて。

やっぱギルバートは…アンナさんの事もあるし、なあ…。
悔しい気持ち、誰よりも強いんだと思う。





「そうだったの…。でも…ダムシアンがすでに襲われたとしたら次はファブール…! こうしては…っ、ゴホ、ゴホッ!」

「ローザっ…。ローザ、無理をするな。ファブールへは僕らが行く!」





火のクリスタルは既にゴルベーザの手中。
それを聞いたローザは慌てたように立ち上がって、でも咳き込んでまたベットに逆戻り。

セシルはその背中をそっとさった。





「でもファブールへ行くホブスの山は厚い氷で…」

「氷?そんなのあたしに任せてよ!ファイアで一掃しちゃうって!」





ホブスの山のふもとには氷が張ってる。
ギルバートが思い出したように不安を溢したけど、あたしはポンポン、と自分の腕を叩いてニッと笑った。





「…ファイア…」

「…リディア?」





その時、くん…と服の裾をリディアに掴まれた。

どこか辛そうな、そんな顔。
…少し気になった。





「そうね…、ナマエがいれば平気だわ。…ゴホッ」

「ローザ!やはり君は待っていなきゃダメだ!」





咳き込みながら、また立ち上がろうとしたローザ。
セシルは諭すようにその肩を押さえた。

でもローザは首を振った。





「私なら大丈夫。それに私は白魔道士。足手纏いにはならないはずよ」

「……。」





セシルの言ってることはよくわかる。
ローザが心配だからこそ、連れて行けないって言ってる事。





「いーじゃん、セシル」





でもあたしは、未だ悩みを見せるセシルの肩に手を乗せた。

だって、逆もわかるもん。
ローザの気持ちだってよーくわかるんだよね。





「ローザの魔法あった方がこの先絶対いいよ!それに魔物も増えてるし、心配なら一緒にいるべき!」





ぴしっ、と言い切った。

バロン城で、不安そうにしてたローザの事思い出すと、その方がきっといい。

そもそもの話だよ。
ここで置いてったって、ローザならきっと追いかけてくるに一票だ。





「セシル…。ローザは君と一緒にいたいんだよ」





すると、ギルバートも味方してくれた。

まさにその通りの言葉。
それにそれは、ギルバートが言ったからこそ、重みがあった。

セシルはそこで折れたように、頷いた。





「わかった、ローザ…。一緒に行こう。もう夜だ…明日の朝、発とう。とにかく今夜はゆっくりお休み」

「セシル…。わかったわ」





ローザに見えるように「やったね!」って口パクでピースした。
するとローザも、嬉しそうに「ありがと」と口パクで返して笑った。

出発は明日の朝。

次に目指すは風のクリスタル。

ファブールへ。



To be continued

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