▽ さよならとありがとう
「我は…滅びぬ…生あるものに…邪悪な…心が…ある限り…グ…ズ…ギャアアアム!!」
ゼロムスは、滅んだ。
皆が貸してくれた力を手に、戦って…あたしたちは、勝った。
終わった…これで、終わったんだ…。
ホッとしたら、少し足がふらついた。
でもそんな肩にとん…と優しく触れてくれた手。
見上げたらそこにはカインの姿。
あはは、ラッキー。
カインてばカッコいー!
いつもの調子。
調子のいい頭。
でも、今は…それがすごくすごく、尊くて。
そんな幸せを感じながら、自分の手を見る。
全てに片が付いたという実感に、あたしはぎゅっと握りしめた。
「見事じゃった…!そなたらが、あれだけの力を秘めているとはな…青き星の民は、もう我ら月の民を超えたのかもしれん」
フースーヤが労いの声を掛けてくれた。
皆で振り返る。
そこで、全員の無事をしっかりと認識して、なんだか落ち着く。
するとエッジはいつもの明るい声でへらりと笑った。
「いやー、その通りかもな!」
「…しかし、ゼロムスが最後に残した言葉」
「邪悪な心がある限り…」
一方、カインとローザはゼロムスの最後の言葉を気に掛けていた。
我は滅びぬ。
生あるものに、邪悪な心がある限り。
「あんなの負け惜しみ、負け惜しみ!…なーんて、言っちゃうのは簡単だけどね」
あたしもふたりの不安に頷いた。
あれは、多分…。
そもそも、今回のことだって、そういうのが切っ掛けで…はじまりだ。
そういうの、この旅を通して…何度も見てきたから。
そんなあたしたちを見て、フースーヤは髭を撫でながら言う。
「ふむ。 邪悪な心は消えはしない…。どんなものでも、正なる心と邪悪な心を持っている。クリスタルも光と闇が、そなたらの青き星にも地上と地底があるように…。 しかし、邪悪な心がある限り、正なる心もまた存在する。ゼムスの邪悪に向かったそなたらが、正なる心を持っていたように」
フースーヤはそう笑ってくれた。
もし、また闇が大きくなったとしても…聖なる心さえ持っていれば、きっと。
すると、そう言われたエッジはまたへらりと笑った。
「いやー、そこまで誉められっと、さすがに照れるぜ!」
「何言ってんの、あんたなんかゼムスに利用されなかったのが不思議なくらいよ!」
「へへッ、俺は正義を愛しているからな!」
リディアに調子に乗りすぎだと怒られ、それでもへらへらと笑ってる。
言いあうふたりの姿。
うーん、喧嘩するほど何とやら?
いやま、基本的にリディアが注意してる感じだけど。
でもわりと仲いいよね、なんて。
それを見てあたしも思わず笑った。
「さて、そろそろ私も眠りにつかなければならない。 そなたらは?」
そして、訪れた別れの時。
眠りにつくというフースーヤに、セシルとローザが答える。
「僕らの星へ戻ります」
「みんなが待っているんです!」
「そうか。 素晴らしい仲間を持ったな。また会える日が来ることを、楽しみにしているぞ」
フースーヤはその答えに、微笑ましそうに頷いてくれた。
甥と、その仲間たち。
此処にいる仲間は勿論、青き星から支えてくれた皆も。
セシルのそんな姿は、きっとフースーヤにとっても喜ばしいものだったと思う。
「私も…一緒に行かせてはもらえませんか?」
そんな時、フースーヤと共にと…名乗りを上げる声がひとつあった。
視線がその声の元へと集まる。
それは、ゴルベーザの声だった。
「お主が…か?」
「ええ…。私は…戻れません。…あれほどの事をしてきたのですから…。それに、父クルーヤの同胞である月の民の人々に会ってみたいのです」
「そうか、お主にも月の民の血が流れておる。…だが、長い眠りになるぞ」
「ええ」
ゴルベーザの心はもう決まっているようだった。
確かに、彼のしてきたことを考えると…戻るのは難しいことなのかもしれない。
なにより今の彼自身、それをきっと良しとしないのだろう。
それは、なんとなくわかった。
もしかしたら…本当は、セシルとよく似て…真面目な人なのかもって。
そんなことが、頭に過るくらいには。
「…闇を消すなんて、不可能。でも、消す必要も…きっとないんだと思う。邪な気持ちも、誰だって持ってて当たり前だから。ただきっと、大切なのは…その気持ちに負けないと、何が正しいかを見失わずにいようとすることなんだと思う。それを大切に出来たら、きっと、必ず打ち勝てるよ」
「…ナマエ」
カインに呼ばれる。
あたしは見上げてふっと笑った。
なんか、語っちゃった?
でも今、言いたくて。
そしてゴルベーザは、最後にセシルに振り返った。
「兄と呼んでくれたな…セシル」
戦いの中、セシルは確かに…ゴルベーザを兄さんと呼んだ。
だけどその言葉に、セシルは俯いたまま。
「許してくれるはずもないか…。今までお前たちを、散々苦しめてきた私だ…」
そう言ったゴルベーザの声は…寂しそうだったように思う。
ゴルベーザは今、セシルの事…どう思っているんだろう。
ううん…こんなふうに声を掛けたのなら、きっと…。
たったひとりの、大切な弟だって…そう思っている。
なら、セシルは?
「では、我々は眠りにつく。青き星の平和を、願っておるぞ。さあ、参ろう」
「はい」
フースーヤに声を掛けられ、ゴルベーザは後を追う。
去って行く。
背中が、少しずつ遠ざかっていく。
「セシル」
「いいのか、行かせて」
「お兄さんよ!」
ローザ、カイン、リディア。
俯いたままのセシルに皆が声を掛ける。
「さらばだ」
振り向かぬまま、ゴルベーザは最後に一言残す。
前を歩くフースーヤの姿は消えた。
あと少し、ゴルベーザも…すぐに消えて行ってしまう。
「セシル!」
エッジも呼びかける。
その時、セシルの手が少し震えたのが見えた。
あたしは…。
あたしが今、思ったこと…ううん、思い出したのは。
「セシルたちのお父さんの願い、きっと叶えられたね」
「!…ナマエ」
あたしは、そう思った。
試練の山で、セシルのお父さんの声を聞いた。
セシルにパラディンの力を託した、セシルのお父さん。
それはもう一人の息子…ゴルベーザを止めて欲しかったから。
兄弟で戦う事、きっと悲しかったと思うけど…。
でも、最後は手を取り合って…戦うことが出来たよね。
そして、セシルは顔を上げた。
「…さよなら…兄さん…!」
たった、一言だった。
でも、きっといろんな思いがこもってる。
ゴルベーザは足を止めた。
そして、一度だけ振り返り…。
「…ありがとう、セシル…!」
あちらも、一言だけ。
でもそれも、たくさんたくさん…きっと、想いが詰まっていた。
To be continued
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