グラン=パルスの大地に、さあっと穏やかな風が吹いた。
心地良いその風は、さらっと彼女の髪を揺らす。
ほんの少しだけ乱れた髪。
それをそっと指で梳くって整える仕草が目に映った。
なんてことない仕草。
でも僕は、そんな小さなことに見惚れてた。
見ていたからだろう。
ふと、こちらを見た彼女と目が合った。
すると彼女はにこりと笑みを見せ、ちょいちょいと僕に手招きをした。
僕は小走りで近づいた。
その時の心は、多分ちょっと踊っていたように思う。
「どうしたんですか?」
「いーえ、特に用はないですよ〜」
「は…?」
近づいて尋ねたら、笑ったままそう言われた。
ちょっと楽しそうだ。僕はきょとんとしたけど。
「用は無い、ですか?」
「うん。目があったから手招きしてみただけ」
「ええ…」
「なんか呼んで来てくれるの気分いいよねえ〜」
「…なんですかそれ」
僕が目を細めれば彼女、ナマエさんはまた笑った。
…楽しそうで何よりだ。
いや、うん…本当、ナマエさんが楽しいならいいんだけど…。
僕自身、呼んでもらえると言うか…構ってもらえる事は嬉しいと思ってて。
そんなことを考えると、つくづく思い知ると言うか…。
「今日は風が気持ちいいよね。このままのんびーりしてたい感じ」
「そうですね…」
その時またさあっと風が吹いた。
ナマエさんは髪を軽く押さえて、心地よさにほんのり微笑む。
僕はその姿を見て、心にあたたかさが広がるのを感じた。
ねえ、知っていますか?
声を聞くこと。呼びかけてくれること。
微笑みかけてくれること。一緒に笑うこと。
傍にいること。頼りない手を、繋ぐこと。
色んなこと、ひとつひとつ、何気ない瞬間瞬間…僕が何を思うのか。
もう、何度目かなんて覚えてないや。
何度も何度も、つくづく思い知る。
「ナマエさん」
「なに?」
名前を呼んだら、こっちを見てくれた。
…ほら、それだけでまた。
首を傾げる貴女。
僕はふっと笑った。
「呼んだだけです」
そう言ってみれば、ナマエさんは目を丸くした。
その反応に僕は多分満足げな顔をしただろう。
「…仕返し?」
「ですね!」
ほら、また、思い知る。
END
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