「でさー、リュックはコツさえ掴んじゃえば別に誰でも出来るっていうわけ。ちょちょいのちょいだよ〜とかさあ。でもそのコツを掴むまでがまず長いでしょって話じゃん?」
「まあな」
「でもやってみたいな〜って気持ちはあるよね」
「お前、ジェクトにも聞いていなかったか」
「ああ〜聞いたねえ」
今、俺はナマエと話をしていた。
内容は水中での呼吸方法…まあ、これと言って大した意味も無い、ただの雑談だ。
それは、他愛のない時間。
よくあるありふれた時間だ。
そう、ふたりで話す事などこれといって珍しい事でもなんでもなかった。
「あれは確か、水中の幻光虫を使うのだろう?」
「うん、そうだって」
「なんだ、ブリッツでもしたいのか」
「いやそれは…ブリッツは見る専門でいいかなあ。あんなスイスイ泳げないし…」
「むしろ泳げるのか?」
「泳げるよ!!」
ボスッと、ナマエは軽く俺を叩いた。
何気ない会話は続いていく。
気が付けば話題が変わっていたりもする。
途中で途切れ、沈黙することもある。だが嫌な、気になる沈黙では無く、気が付けばまた会話が再開されていたりもする。
この調子は、10年前から同じだったように思う。
「ん〜、ただ水の中でも呼吸出来たら凄いなあ〜って思っただけだよ。水の中で戦闘は…手伝える気がしない…」
「水の中ではファイガも使えんしな」
「そこだよねえ…」
恐らくそれなりにウマが合うのだろう。
俺自身、ナマエとこうしている時間は嫌いではなかった。
…ああ、そうだな。
きっと、この何気ない一時に幸せを感じていただろう。
「ねえ、アーロンはさ」
向けられる落ち着いた色の瞳。
唇から当たり前に紡がれる俺の名。
自然と綻ぶその空気。
ただ、ナマエが隣にいて他愛のない言葉を交わす。
珍しくない景色の中に、ふと思う。
1秒でも長く、浸っていたいものだなと。
そんなことを考える程、確かな愛おしさを感じていた。
END
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