空を駆ける飛空艇ハイウィンド。
目的地に着くまで暇を持て余し、またなるべく酔わないようにするために俺は艇内を適当に歩きまわっていた。
すると積んである貨物の箱に腰をおろし、小さめのノートを眺めている彼女の姿を見つけた。
なかなか夢中になっているのか、まだ俺には気が付いていない様子。
俺は近づき、目の前まで行くと声を掛けた。
「ナマエ」
「あ、クラウド!」
名前を呼べば、ナマエは顔を上げた。
目が合うとにっこり笑ってくれる。それを見た俺はなんとなくあたたかな気持ちを覚えた。
「調合のノートか?」
「うん。そうだよ」
ナマエの持っているノートには心当たりがあった。
それは暇を見つけては開いて書き留めている調合のノートだった。
ナマエはぺらっとそのノートを俺に向かって見せた。
「見る?」
「…いや、遠慮しておく」
「ふふ、だろうね、酔っちゃうもんね!」
断るのをわかっていて聞いたのだろう。
首を振った俺を見てナマエはくすくすと笑った。
その顔を見ると、またあたたかさが広がった。
「隣、いいか?」
「どうぞ?」
聞けばナマエは少しずれてスペースを作ってくれた。
俺は許してもらえた隣に腰掛ける。
箱はそこまで大きい者じゃなく、座れば距離はすごく近くなった。
真横に、こんなにも近くにいられる。
その事が素直に嬉しかった。
「結構埋まったよな、そのノート」
「うん。自分でもこんなに書いたんだなあって見てたの」
「旅してきた証だな」
「だね」
ナマエはぱらぱらと自分が書き留めたページをめくって少し満足そうに笑った。
旅をしてきた証…。
自分で言った言葉に、少し感慨深くなった。
こうして距離が縮まった事も、また…その証だと思ったのだ。
色々あった。
辛い事も苦しい事も、迷惑も…たくさん掛けた。
でも、もがいて掴むことの出来たものもある。
「クラウド?」
名前を呼ばれた。
それは俺が、ナマエの肩に頭を寄せたから。
ナマエはそれを受け入れてくれる。
…ナマエは、大きな秘密を抱えていた。
でも、それを教えてくれて、そして力になりたいと言ってくれた。
そして同時に…俺のことを頼ってくれた。
頼りにしている。
頼って貰える。
本当はちっぽけで、俺なんか頼りになんかならないと自分で知ってる。
だけどそれでも信頼してくれる。それが嬉しくて、そして全力で力になりたいと思える。
そんな想いを実感する度に、俺はたまらなく幸せに思うんだ。
「もしかして、酔った…?」
「……いや」
浸る様に寄り掛かっていると、そう聞かれてしまった。
否定しようとして、でも状況的にそう思われても仕方ないかもな…。
そう思った時、ナマエはくすっとまた笑った。
「ふふ、冗談だよ」
「え…?」
「ふふふっ」
ナマエは楽しそうに笑っていた。
そしてナマエの方からもそっと寄り掛かられた。
「大好きだよ、クラウド」
囁かれた言葉。
ああ、また…あたたかい気持ちが広がった。
END
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