「ト〜ンベリ!」
明るく弾む、楽しそうな少女の声がした。
その声を聞くと、足元にいたトンベリがぴくりと反応する。
ぺたりと座り込んでいたにも関わらずすくっと立ち上がるっとその声のした方をじっと見つめた。
…随分と懐いたものだな。
もうすっかり慣れ親しんだ光景になりつつある。
トンベリのそんな姿にふとそう思った。
「トンベリ〜!隊長〜!」
私たちの姿を見つけ、大きく手を振る少女。
名前はナマエ。0組の候補生。
彼女は手を振るのとは逆の手に小包を抱えていた。
それもいつものことだ。
ナマエの姿にトンベリはこちらを見上げてきた。
いいぞ、という意味で頷くと小さな足でナマエの方へと駆けていく。
一方でナマエも同じようにこちらへと駆け寄ってきいた。
トンベリの目の前まで来るとその小さな視線を合わせるようにすとんとしゃがみこんだ。
「トンベリ!今日はタルトだよ〜!結構自信作!」
しゃがんだナマエはトンベリに持っていた包みを見せながらそう言った。
菓子作りが趣味だと言う彼女はよくこうして菓子を作っては持参してくる。
その出来は毎回なかなかのものでトンベリはすっかり胃袋を掴まれているようだ。
「隊長も!食べて下さいね!」
「…ああ」
…かくいう自分も、トンベリのことは言えんのかもしれんが。
味は確かだ。外れも無く見た目も良い。
こうして素直に受け取っているのだから、自分自身有難く思っているのだろう。
タルトを頬張るトンベリとその頭を撫でるナマエ。
それを横に見ながら、そっと口元のマスクを外した。
その下にあるのは古い火傷。
見ても気持ちのいいものではない。だが、魔法で消す気もない…痕。
まず基本的に人に晒すことはないが、気が付けばナマエの前でマスクを外す事にそう抵抗を感じていなかった。
「あ、そうだ、隊長。今度ある任務の地域下調べしてたんですけど氷魔法効きそうな魔物が多そうなんですよ」
「そうか」
「はい。だからちょっとお聞きしたいことがあるんですけどいいですか?」
「ああ。聞こう」
時折こうした質問も受けながら。
こうして過ごす午後はすっかりとありふれたものとなった。
「はー…なんかまったり。落ち着きます〜…」
それは穏やかな時間。
自らもタルトに手を伸ばしながらそう言うナマエの声には同意を覚える。
菓子に夢中になるトンベリ。
その姿を見て嬉しそうにするナマエ。
そんな光景を眺める心は穏やかだ。
すると、ナマエがこちらを見上げた。
目が合い、その瞬間にへらりと彼女は笑った。
そう…。この穏やかな時間に私はきっと、居心地の良さを感じている。
END
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