必要なのは少しの勇気



「あ!ナマエさん!」

「ホープ」




空の赤い黄昏時。
うちに帰ろうとひとり道を歩いていれば、ちょうど曲がり角で見知った顔と遭遇した。

ぱっと笑顔を見せてくれたのは年下の男の子、ホープだ。





「今、帰りなんですか?」

「うん。ホープも?」

「はい。偶然ですね」





ホープと私と言えば、結構仲良しではあると思う。

連絡も小まめにとるし、一緒に出掛けることもよくある。
歳は少し離れてるけれど、話していてとても気が楽な相手だ。





「もうすぐ暗くなりますし、送りますよ」





腕にしていた時計を見て、ホープはそう言ってくれた。

そんな姿になんて出来た子なんでしょ…なんてちょっとした感心を覚える。
言葉は素直に嬉しいんだけど、ついつい悪戯心も顔を覗かせて。

隣に立った彼に向かい、あたしはニヤリと笑って見せた。





「ふふ、それってどっちかっていうとこっちの台詞?お姉さんが送ってあげましょうか?」

「う…格好つかないんでやめてくださいよ…」

「あはは!ん、まあじゃあお願いしよっかな。一緒に帰りましょー」

「はい」




そうして、肩を並べて歩き出す。
その時間はいつものまま、何気ない会話をいくつも交わしながらふたりで歩幅を合わせていた。

ところで、あたしとホープの関係と言えば…まあ、分類するならお友達なのだろう。
見え方によっては仲の良い姉と弟、にもなるのか。

好かれているとも思うし、あたしもホープの事は好き。
あんたたち仲がいいね、なんて周りからもよく言われる。

仲は良好。
何の不満も無い。

でも、最近は少し…ちょっと思うこともある気がした。





「それでこないだの休みに買い物したんですけど…」

「うん」




何気ない会話。お互いに笑う。

そしてその彼の笑顔の中に時折、ちょっとした真意が見える気がする。

いや、ちょっと自惚れっぽい気もするんだけど…。
実際に前はそんなに気にしてなかった。

だけど最近、ヴァニラやセラにちょいちょい言われたりとか…。

だからってこっちから突っ込む話でもないわけで…。





「着きましたね」

「うん」





そんなことを考えていると、うちの前に辿りついた。
あたしは自宅の敷地に足を踏み入れ、ホープに振り返る。





「送ってくれてありがと」

「いいえ」

「ホープも気を付けて帰りなよ?」

「はい」





そして最後のお礼の会話。

そうしながらあたしは鞄に手を入れ鍵を探した。
がさごそとしていれば、その時また名前を呼ばれた。





「あの、ナマエさん」





その声と同時に鍵が見つかる。
取り出しながらあたしは顔を上げ、ホープの顔を見て首を傾げた。

でも、その時の表情を見てちょっと目を丸くする。

だってなんだか真剣だったから。





「どしたの?」

「いや…あの、多分もう気づいてるとは思うんですけど…言いたいなって事があって」

「うん…?」





きゅっと彼の手には力がこもってる。
少し震えてるようにも見えて、緊張が伝わる様な。

だけどすぐ意を決したように彼は口を開いた。





「僕、ナマエさんが好きです…!」





それを言った瞬間、彼の顔はかあっと一気に赤くなった。

あたしは何も言えなかった。
それはホープは必死で言葉を続けたからだ。





「と、突然すみません…。でも実際は突然じゃないっていうか…その、ずっと思ってたことで…」

「………。」

「年も少し離れてるので、なかなかそう言う風に見てもらいにくいだろうなって…思うんですけど、いや、だからこそ、頑張りたいなって思ったので…」





少しでも伝えようと、言葉を選んでいるのがわかる。

そこまで言うと、少し落ち着くためかホープは「はあ…」と息をついた。
その隙間に、あたしは彼の名を呼んだ。





「ホープ」

「っ、はい!」





するとホープはビクッとしてあたしの顔を見た。
大きなリアクション。ちょっと笑いそうになった。

でも、ああなんだろう。
すっごくドキドキしてる。

あたしもきっと思ってた。
年上だし、とか。

でも、こんなに嬉しい物なのかと…。

今更ながら、自覚する。




「ありがとう。あたしも君が大好きだよ」

「えっ…」




微笑んで、自分の気持ちをお返しする。

その時のホープの顔は、なんだか可愛くて。
でも同時に好きを改めて思い知った。



END


cherishで現パロ。

ちょっと台詞もcherishとResolution風味。
風味って言うか、ルシとかトリップとかそう言うのが全部無くなってる状態だったら多分凄く前向きに言えるのかなって言う話が書きたかった模様…。






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