名前を呼ぶ低い声
「うへえ〜…これでとりあえず一段落〜…」
パチン、と叩いたノートパソコンのエンターキー。
ここまで打った努力を消さない様に保存ボタンを押せば、そのままあたしはソファの上に倒れ込んだ。
「終わったのか」
すると、聞こえた低い声。
「んーん、まあひとまず大方は終わった。あとは最後のまとめだけね」
あたしはソファにうつ伏せ、ふかふかのクッションに顔をうずめたままそう答えた。
「…何故そこまでやって最後までやらん」
とんとん、と足音がした。
そしてさっきより近くなった低い声。
背中の方に人の気配。
顔をうずめたままだけどわかる。
多分、ソファの近くまで来てそこにうつぶせるあたしを見下ろしての一言だろう。
「休憩だよ。いままでずーっと向き合ってたんだから。いいんだよ、このレポートの提出期限明後日だし。ここまで来たら楽勝。最悪明日やっても良いもん」
「楽勝ならやってしまえばいいだろう」
「明日出来ることは明日やればいいんだよ」
「…ジェクトか、お前は」
「ふふふっ」
借りたジェクトさんの言葉。
それを言えば期待通りの突っ込みが来て、思わず笑みが零れた。
もふっとしたクッションが気持ちいい。
すると相変わらずソファにだらけたままのあたしの姿に、低い声は呆れたようだ。
「まったく…。おい、俺も座るぞ」
「んふー。ね、アーロン。やっぱこのクッション気持ちいよ!買って大正解!」
「驚くほど部屋に浮いているがな」
顔を上げ体を起こして座り直す。
そして顔を見上げ笑いながらクッションを抱きしめた。
確かに少し可愛らしいデザインのこのクッションは男の一人暮らしには似合わないかな。
座り直して空いた隣。
そこに例の低い声、アーロンもゆっくりと腰を沈めた。
「ね、アーロン明日はお休みなんだよね」
「ああ」
「いいなあ。あたしも休みたい」
「この間サボっていただろう。行け」
「よく覚えてるね…」
はー、やれやれ…なんて言いながらと小さく息をついた。
学生も色々疲れるんですよ〜なんてね。
《今日、アーロン家行っていい?》
特に意味はない。
ただなんとなく、そう電話してみたのがお昼のこと。
《構わんが、もしかしたら少し遅くなりそうだ》
《じゃあごはん作っててあげようか》
《…散らかしてくれるなよ》
《あたしをなんだと思ってるんですかね》
《フッ…、ああ、なら部屋で待っていろ》
そんな話をして、あたしは学校が終わった後、スーパーで適当に買い物してアーロンの家で帰りを待っていた。
アーロンの帰りは言っていた通り普段よりちょっと遅かった。
それが小一時間前ってところだろうか。
その間にあたしはレポートをある程度仕上げ、アーロンも落ち着いて。
今、やっとこさっとこのんびりできる時間になったと言うわけです。
「明日は何時終わりだったか」
「うん?んーと、5時くらいかな」
「なら、迎えに行ってやるから飯でも行くか」
「ほんと!?」
「その後、しっかりレポートを書け」
「…今そういう事言いますか」
小言のうるさいおじさんめ…。
前に比べて丸くなった、なんて言ってもやっぱカタブツだよね、カタブツ〜。
まあ、構ってくれるのは嬉しいんだけど…。
なんて、言わないけどね。
「…でも、忙しかったんでしょ?休めば?」
ただ、まあその辺は多少は気になるかなあ、ってね。
あたしがそんなことを言えば、アーロンは目を丸くした。
む。なんだその反応は。
すると、ぽんっと大きな手が頭に触れた。
「ほう。遠慮という概念がお前にもあったか」
「…しっつれいな事言うねえ」
「フッ…。気にするな。お前に遣う気は持ち合わせておらん」
「ひっど!」
そう言いながらアーロンはあたしの反応を見てくつくつと笑っていた。
そしてその大きな手で頭を撫でている。
その手の感覚が心地よくて、なんだかちょっと悔しく思う。
「ナマエ」
低い声。
この名前を呼んでくれる声も、たまらなく好きだと思う。
「ん…」
軽く返事をして、あたしはその心地良さに目を閉じる。
するとその声を閉じ込める様にあたたかなぬくもりを唇に感じた。
END
凛と前を見つめてで現パロ。
1周年の時と設定は同じです。
大学生と社会人。
現パロだったらこんなかな〜って設定が一番はっきりしてるのが凛と〜だったりします。
私だけが凄く楽しい。(笑)
アーロンはやっぱり本編だと未来のことをどうしても考えられないんですが現パロならそれが出来ますからねって言うのがやりたい感じ。
合鍵ですよ、いええええー!!みたいな。
卒業したら結婚とか…!まで私の頭が繰り広げてる。(笑)