心に通ったまっすぐな想い


こちらの話を全然聞いてくれない銀髪の彼。
知らないと言っているのに、それを信じず無理に言葉を吐かせようと刃を構えてくる。

あたしたちはそんな彼を落ち着かせるため、一度剣を交えた。

こちらはまあまあの人数が揃ってる。
だから押さえつける事が出来たけど、でもその戦闘能力はかなり高かったように感じた。





「もう一度言う。俺はあんたなんて知らないし、セフィロスは敵だ」





膝をつき、蹲る銀髪の彼。
クラウドは彼の前に立ち、見下ろしてそう淡々と告げた。





「…ふうん。わかったよ。そういうことにしておいてあげる」





彼は手負いの体のまま、ゆっくりと立ち上がった。

その顔は笑っている。

でもいや、しておいてあげるて…。
全然納得してないし…。

思い込みが激しいタイプ…?

これは納得させるの骨折れるなあ…。
正直無理かもとちょっと諦めも感じてきてた。






「そうだ、名前教えてくれよ。そしたら本当の家族を探してやれるかも!」





そんな中で、ザックスだけは彼に明るい声を掛けていた。

はあー、流石ザックス。優しいなあ。
この空気を変えていく力は本当流石だなあって思う。

でも確かに名前はそろそろ知りたいところかもしれない。
それに兄さんって、クラウドを誰かと勘違いしてるとかそういう事なのかな。





「家族?だったら…」





すると彼の方も家族と言うワードには反応してくれた。
もしその家族の手掛かりがあたしたちの中にあったなら、色々と見えてくることもあるかも。

そう話が動こうとしたその時、ちょうど見回りに行っていたタークスのふたりが戻ってきた。





「おう、クラウド。あっちは異様なしだったぞ、と…」





いつものレノの軽い口調が聞こえる。
振り返ると目が合って「よう、ナマエ〜」とひらりと手を振ってきた。

でも、そのあたしの先にいる例の彼。

それを見た瞬間、レノとルードの顔色が変わった。





「ま、待て!レノ!あいつは…!」

「カダージュだと!?なんであいつまでここに!」

「…カダージュ?」





レノが口にした名前らしきものをあたしは聞き返した。

カダージュって、彼の名前?
ていうかタークスのふたりがここまで驚くのってすっごく珍しいような…。





「くそっ!やっぱりお前らといると面倒ごとばっかだな!」





そしてレノは心底面倒くさそうな顔をした。
いや、ルードの方も眉間にしわ寄せてるな…。

レノとルードは、彼のことを知っている…?

色々な疑問が頭を飛び交いながら、再び彼に視線を向ける。

すると彼はタークスの反応を見て薄く笑っていた。





「…へえ。あんたたちは僕がわかるんだ。まさかとは思うけど社長もいるの?また母さんをどこかに隠してる?」





社長って…。
そう言われてパッと浮かぶのはルーファウスだ。

彼も、ルーファウスを知ってる?
ということはやっぱりあたしたちと同じ、あの星から来てるってことだよね?

それに母さんって…。





「またジェノバの首かよ。悪いが何にも知らないぞ、と」





うんざりとしたように答えたレノ。
でも、今の発言は聞き逃せなかった。

ジェノバ、って…。





「ジェノバの首だと?」

「おい!タークスは何を知ってる!」





レノの発言にヴィンセントとザックスが詰め寄った。

でもそれはタークス的にも失言だったようで「レノ!」とルードにも軽く咎められていた。
レノの方もその自覚はあるらしく、やっちまったという顔をしながら息を吐いた。





「とにかくジェノ…母さんについては無実だ。何せここは好き勝手出来ない世界だからな」

「未知の力が働いている。俺達でも情報を集めきれん。本当だ」





レノとルードはそう弁解した。

母さん…。ジェノバの首…。
いや本当マジであんまり無視できない単語なんだけど…。

でも、この世界においてはタークスも不自由が多いはず。
だから今のレノとルードはきっと無関係…。

なんとなく、そこは信じてもいい気がした。





「…まあ、その辺は多分、嘘は言ってないんだと思う」





だからあたしはそう少しフォローした。
でもレノに「お〜、さっすがナマエ。見る目あるぞ、と」とか言われたからちょっと目を睨んでおいたけど。

だけど彼を見た時、レノとルードが驚いたのは演技じゃなかったと思うから。





「カダージュだ」





その時、彼があたしたちにそう名乗ってきた。

カダージュ。
さっきレノが口にした名前。

どうやら本当にその名前で合ってるらしい。





「僕も連れて行ってよ。兄さんたちの邪魔はしないからさ」





そしてカダージュはあたしたちにそう頼んできた。

連れてって…。
え、ついてくると!?

その展開は予想外なんだけど…!

あたし困惑しながらついクラウドを見た。

だって、ど、どうしよう…。
でもクラウドだって予想外だったはずだ。

だからクラウドはあたしの困惑も受け取りつつ、カダージュに聞いてくれた。





「どういうつもりだ」

「さっき言ったよね?名前を教えたら家族を探してくれるって」





カダージュが持ち出したのはさっきザックスが言った話だった。

確かにザックスは探してやれるかも、とは言ったけど…。
探してやれるかも、だよ…?

なんかちょっとニュアンス違う気がするのはあたしだけ?

いや大まかな意味は同じなんだけどさ…。





「僕は母さんを見つけたいんだ。セフィロスを倒すなら兄さんも手伝ってくれるだろ?」

「それとこれとどういう関係が?」

「きっとセフィロスが母さんを独り占めしてるんだ。僕がいるのに許せないよ…!彼の存在は今の僕を否定する…。見つけ出して、抹殺しないとね」





主に言葉を交わすクラウドは顔をしかめていた。
いやでもその気持ちはよくわかる。

母さんって、ジェノバの事なんでしょ?
そしてカダージュの言い分だとセフィロスがジェノバを独り占め…。

さっきのレノじゃないけど、なんだかすっごい面倒なニオイがぷんぷんする…。

それに、聞いてもわからないことが多すぎる。

セフィロスの存在がカダージュを否定する?
クラウドを兄さんって呼ぶ意味だっていまだにわからないまま。





「…付き合ってられるか。あんたひとりで勝手にやってくれ」

「あっ、クラウド…」





クラウドはカダージュに背を向けて歩き出してしまった。

え、ええと、放置…!?
いや確かに関わらなくていいならそれが一番な気もするけど…。

あたしは咄嗟にその背中を追いかけた。





「じゃあ勝手についてくよ。あとで嫌がったって知らないからね」





するとその背中に向かいそう言ったカダージュの声が聞こえた。

クラウドにも聞こえてる。
でもクラウドは振り返ることも足を止めることもしなかった。





「ねえ、クラウド…」





あたしはクラウドに追いつき、その肩を並べた。
するとクラウドも視線をこちらに向けてくれる。

そして彼は心底面倒くさそうにため息をついた。





「…厄介事のニオイしかしない」

「う、うん。それはあたしも思った。ねえ、でも一応確認。カダージュのこと、あたしたち知らないよね?」

「ああ、知らない」

「でもレノたちは知ってた」

「…俺たちの記憶が足りない、か」





この世界に来てだいぶ経つ。
そして記憶の欠落や、それを取り戻す仲間たちの姿を何度も見た。

ザックスだって、取り戻したひとりだ。

あたしやクラウドも、自分たちの記憶が曖昧であること、その自覚は正直なところあった。
そしてレノやルードの方が、記憶がはっきりしてるらしいという事も。





「んー、カダージュもジェノバを母さんって呼んでるとか…それってむしろセフィロスがお兄さんだよねえ?」

「さあな…。俺は知らない」

「でもジェノバだってセフィロスの母親っていうのは例えなワケで…。もしかして、クラウドを兄さんって言うのも、何かの例え?」

「…例え、か。…気になるか?あいつのこと」

「まあそりゃ、なんか色々引っかかりはするし。うー…でも無理だな。足りない頭ひねったところで考えてもわからないのでやめよっか」





ちょっとは考えた。
でもどう考えても解けないからあたしは疑問を投げ捨てた。

ていうか!こーゆー頭使う作業はあたしの専門外だから!うん!





「ああ。それでいいと思う。…まあ、いつか俺たちも記憶を取り戻す日が来るかもしれないしな」

「記憶を取り戻すかあ…」





自分の記憶。
それは不完全で、曖昧で。

なんだかちょっと変な感覚。

でも、そこまで不安はなかったと思う。

それはきっと…。





「ナマエ?」

「ううん」





じっと見たクラウドの顔。
その視線に気が付いたクラウドに不思議そうな顔をされたけど、あたしは笑って首を横に振った。

傍にいよう。
大切にしよう。

…信じよう。

ひとつ、スッと…心に通ったまっすぐなもの。

あたしはそれを、その想いだけは、失ってはいなかったから。



END
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -