兄さんと呼ぶ声
壊れた街。
薄暗くて、どこかひんやりとした空気が漂う。
「ナマエ」
風景を見ていると、名前を呼ばれた。
それは絶対の信頼を置いている声。
あたしはくるっと振り返った。
「クラウド」
「どうかしたか。誰かいたのか?」
「ううん、だーれもいない。ただ街の景色見てただけ」
「そうか。本当に、誰もいないな」
歩み寄ってきてくれたクラウドは、そう言ってあたりを見渡した。
するとそこに、またふたつばかり足音が近づいてきた。
「おっ!他の仲間が心配か?心配いらないって。みんな強いんだからな」
「まずはおめぇの心配だろうが。ったく、何があったんだかわかりゃしねえ!」
大きめな声、ふたつ。
それはザックスとバレットだった。
あたしたちは、安息の大地を守るために戦った。
だけど結果虚しく…闇のクリスタルは神龍に喰われてしまった。
でも、あたしたちはまだ、この異世界にいる。
ただ、元いたあの大地とはどこか違っている…。
そんな感じはしていた。
色々確かめなきゃならない。
でも、ともに旅していた仲間たち散り散りに…離れ離れになってしまった。
だた、幸いだったのは、星の…元の世界から一緒の仲間たちとはすぐに再会できていることだった。
「ねえクラウド、元の世界の仲間は皆いるし、少しこの世界のこと調べてみる?それって多分別の世界の皆と再会出来た時もきっと無駄にはならないと思うんだ」
「ああ、そうだな。まずはこの世界がどうなているのか…」
元の世界の仲間だけでもそれなりの人数はいるし、とちょっと提案したらクラウドは頷いてくれた。
でもそう話していた時、近くでドオンッ!という大きな衝撃音が響いてきた。
とんでもなく大きな音。
もしかして、誰か戦ってる?
とりあえずただ事ではない。
だからあたしたちは咄嗟に音のした方へと駆け出した。
見知った仲間だったら助けなきゃならない。
でも、走ったその先にいたのは…。
「セフィロス!?」
そこにいた人物の名をクラウドが叫んだ。
なびく長い銀髪。
げえっ!?
まさかセフィロスまで近くにいるなんて!?
でも、衝撃音の理由。
セフィロスには対峙する相手がいた。
「逃がさないよ!!」
また、なびいた銀髪。
でもそれはセフィロスより短い。
「おいおいおい!セフィロスと…誰だ、ありゃ!?」
バレットが叫ぶ。
そうして近づいたあたしたちはその相手の顔をまじまじと見た。
セフィロスと見紛う銀の髪。
服装も真っ黒で、双刃を手にした青年。
「見たことない人…!クラウドは?」
「知らない奴だ。ザックス、あんたは?」
「いや」
あたしは知らない人。
クラウドとザックスも首を横に振った。
「んじゃどっちなんだ?敵か?味方か?セフィロスと戦ってるってことは…」
「えと…敵の敵は、み、味方…?」
バレットの問いに困惑気味に返す。
セフィロスは敵!
それは間違いない、揺るがない事実だ。
それと戦っているなら…。
って、それ言うと神羅も味方ですかって話になってくるんだけど。
いや、今はタークスとも手を組んでるし、ってもうなんかややこしくなってきたな!?
お前が勝手にややこしくしただけだって突っ込みは受け付けません!
ともかく一概に味方とは言えない。
そう思ったのは、セフィロスとよく似た容姿のせいもあったかもしれないけど…。
でも、そうしているとその青年がこちらに気が付いた。
「あっ!兄さんだ!」
振り向き、彼はそう言ってひとりを指さす。
兄さん、て…。
そうしてその視線の先を追えば、それは隣に立っているクラウド。
…うん!?
「え、クラウド!?」
「兄さん!?」
あたしとバレットは驚きの声を上げてクラウドを見る。
ザックスも目を丸くしていた。
クラウドが、兄さん!?
クラウド弟いたの!?
そんなん聞いた事ないけど!!!
え!?いなくね弟!!
「…俺が?」
するとクラウド自身も驚き、そう戸惑いを口にした。
あたしの記憶は確かだった。
そうだよ!クラウド、俺は一人っ子だって前言ってたもん!
へー、そうなんだねーって話したもん!
あたしがクラウドから教えてもらったこと間違えるわけないだろ!!
謎の自信。
でもやっぱり好きな人の事ならちゃんと覚えてるよ。
だけどそうなると、セフィロスと対峙する彼は何を言っているのかって話になる。
「兄さん、手伝ってよ。一緒にセフィロスを倒そう。あいつがいるなんておかしいと思わない?今度こそ協力してくれるよね?」
彼は変わらず、クラウドのことを兄と呼ぶ。
一緒にセフィロスを倒そう…。
やっぱり彼にとってもセフィロスは倒すべきモノらしい。
でもその理由があたしたちにはわからない。
わからない以上、その手を簡単にとるなど出来るわけがなかった。
「断る。俺には手伝う理由がない。それに…あんたからはセフィロスと同じ気配を感じる」
クラウドは誘いを拒否した。
それどころか、むしろ彼に対して警戒を見せる。
でも、それには同意だった。
銀色の髪。あの、冷たい瞳。
それが彷彿させるのは…。
兄と言うのなら…それはむしろ、クラウドよりセフィロスに当てはまるような。
「あんだと!?セフィロスと戦ってたのに同じ気配!つまり…ああ!全然わかんねえ!」
バレットは叫んで頭を抱える。
でも、セフィロスと同じ気配と言うなら…やっぱりこちらは警戒が強くなる。
「…また僕たちを裏切るんだね、兄さん。もしかしてセフィロスと手を組んでるの?」
拒否を示したクラウドに冷たい視線を向けてくる彼。
また?また裏切る?
会ったこともないのに何の話?
それにセフィロスと手を組むとかそんなことあるわけないだろ!
言ってることが意味不明すぎる…!
これじゃ埒が明かないと判断したのだろう。
ザックスはその視線をセフィロスへと向けた。
「おい、セフィロス…って、あいつ逃げやがった!」
ザックスが声を掛けようとした、その時。
あたしも目を向けたけど、その瞬間セフィロスはその場から消え去ってしまった。
…なんか、面倒くさそうだから退散したいみたいな…。
セフィロスが消えたところでまだ気は抜けないけど。
「悪いが教えてやれることはない」
改めてクラウドは彼に向き直った。
クラウドの答えは変わらない。
知らないものは、知らない。
クラウドがそんな嘘をつく理由はない。
だからあたしはクラウドの傍に寄り、肯定するように頷いた。
でも、彼はそれを認めなかった。
「なら、いいよ。無理矢理聞かせてもらうからさ」
「ええ…っ、もう!だから教えられることなんて無いんだってば!」
「クラウドは知らないって言ってるだろ!」
話が通じない…!!
ザックスとふたりでクラウド嘘つかないから!!と庇う。
でも彼は聞く耳なし。
ねえやっぱりこいつ絶対クラウドの弟じゃないでしょ!!
「ったく、とりあえず落ち着かせるしかないな」
「…ああ。でなきゃ、無事に済むとは思えない」
ザックスとクラウドが剣を構える。
それは無理矢理聞くと双刃を光らせた彼を止めるため。
ああもう…やっぱり戦うことになった…。
セフィロスと同じ気配って聞いた時からなんとなくそんな気はしてたけど…。
ううん、でも、こうなったらザックスの言う通り落ち着かせるしかない。
だってこっちは何一つ嘘なんて言ってないんだから。
「ナマエ」
「おっけい。任せて」
クラウドに声を掛けられる。
あたしも頷き、そして剣をちゃき…と構えた。
ああもう本当、世界といい、こいつといい、何から何までわからないことだらけ!
そんな現状に戸惑いを感じながら、とにかく今は目の前の刃に集中した。
END