乾杯
「そんなところでなーに黄昏てるんですか、オジサン♪」
「…ナマエ」
異世界の空。夜の飛空艇
あたしは甲板でひとり空を見上げていた赤い背中にそっと近づいて、ぬっと隣から顔を覗き込んだ。
「探しちゃったじゃんよー、まったく」
「…風に当たっていただけだ。何か用か」
「うん、ちょっと良いこと思いついて」
「良いこと?」
「そうそう、良いこと!ま、ひとりだったのは好都合かなー!」
「…なんだ?」
ちょっと、良いこと。
この間、ふっと思いついたこと。
あたしは今、背中にあるものを隠し持っていた。
それをぱっとアーロンの前に差し出した。
「じゃじゃーん!お酒で〜す!」
「酒?」
「うん!一緒に飲もう?」
「…は?」
お酒のお誘い。
にこーっと笑ったあたしに、アーロンはちょっと怪訝そうな顔をした。
「…一緒に、だと?」
「そーよ。アーロンさん、あたし、貴方の知るあたしよりプラス2歳なワケですよ?」
「…成る程」
「ふふふ、ご納得いただけました?」
そんな話をすれば、アーロンもあたしが言っていることを理解したようだった。
あたしはパインがこの世界に来たことをきっかけに、2年分の記憶を取り戻した。
ユウナのガードとして旅をした頃より2年後、スフィアハンターカモメ団としてスピラ中を飛び回っていたその記憶。
まあ、簡単な話だ。
その2年の月日で、あたしはお酒が飲める年齢になりましたってことだ。
「そうか…酒が飲めるんだな」
「うん!で、この世界を楽しもうって決めたし。だから、この世界だからこそ出来る事。ね、一緒に飲みませんか」
「…そうだな。飲むか」
改めて誘えば、アーロンもフッと笑う。
そして一緒に持ってきたグラスを手に取ってくれた。
「お前と飲める日が来るとはな」
「この世界ならではでしょ?」
「ああ」
お酒を注いで、カチンと互いのグラスを合わせた。
この間、ふっと思いついたんだよね。
そうだ。この世界ならアーロンと一緒に一杯なんてことが出来るんだなって。
ちょっと思いつくのが遅かったのは、スピラではあまり飲む機会がなかったからかもしれない。
「よく飲んでいたのか」
「ううん、一緒にいたのがユウナやリュック、パインだからね。あんまり普段は飲まなかったな。でもたまーに、リュックのお兄ちゃん…アニキさんとかその友達のダチさんとは飲んだことあるかな。そこは成人してるし。本当にたまに混ぜてもらってた感じ」
「そうか」
アニキさんは、アーロンも覚えてるよね。
ダチさんも2年前の旅の時、居たって話だけど…申し訳ないことにあたしもユウナも覚えてなかったんだよね。
だとすると多分…アーロンも覚えてはいないんだろうな…。哀れダチさん…。
「………。」
そんな話をしていると、アーロンの反応が少し薄くなった事に気が付く。
いや、薄いというか、これは…。
その時ポンと頭に浮かんだ単語。
あたしは口にしてみた。
「あれ。もしかして妬いてます?」
「…いや。…まあ、羨ましくは思ったかもな」
「え?」
にひっと笑ってふざけ気味に。
きっと、阿呆とか言われると思ってた。
でも、それに対する答えは意外だったから、ちょっと目を丸くした。
「羨ましく?」
「ああ。お前と酒を飲むなど、想像したこともなかった。起こりえない事だったからな」
「あー、まあ…でもそれなら、今こうして実現したよ」
「そうだな」
「でもさ、飲んでるのに付きあったことはあるじゃない?あたしは隣でおつまみ食べてただけだけど」
「ああ」
「やっぱり一緒に飲む相手、欲しかった?」
「いや、お前がいればそれで良かった」
何だかすごくストレート。
思わずこっちが照れた。
アーロンはわりと平然としてたけど…。
「…おじさん、もしかして酔ってます?」
「饒舌か?まあ、多少はな」
「…そう。ああ、でもそうだ、サシ飲みは初めてだよ」
「そうか」
1対1で誰かとっていうのは、考えてみれば無かったな。
アニキさんとダチさんと。
ああ、ビサイドに行った時はワッカとも飲んだなぁ。
ルールーは妊婦さんだったから話だけ参加する感じで。
「今度はジェクトさんとかも誘ってみよっか」
「ああ」
「でも、時々はふたりで飲もうね」
「フッ…そうだな」
END
歳の差設定なのでオペオムで再会した時に一緒にお酒飲めたりしたらちょっといいなーと思って。
元の連載の時点でははっきりと何歳とは書いてないんですが。ティーダたちと同年代にしたいなーくらいだったので。
あとスキンの話を書いたりしたのでアレなんですが、精神年齢が大人でも体が未成年だとお酒の話とかどうかなー?なんてちょっと思ってたんですが、内容自体は気に入ってるのでもうUPしてしまいます。(笑)
例えばホープとか精神的には大人だけど体は14歳なわけじゃないですか。飲ませていいのかしら、みたいな。(笑)
実はパイン加入くらいから考えてた話です。
なので2部4章以降ならいつでも。