その手を失う既視感


「お姉ちゃん!」





セラが手を振りながら声を上げる。

スノウの持つ光の羅針盤を頼りに歩いたあたしたちは、その先でライトとレイルを見つけることが出来た。





「セラ!無事だったか」





あたしたちが駆け寄れば、妹の無事を確認出来たライトの表情が柔らかくなる。
恐らくライトの方もレイルと合流し、こちら側を探してくれていたのだろう。

レイルを見つけられたことも、アミダテリオン達にとって大きいはず。





「これでまた仲間が集合だ!」





スノウが拳を上げて喜ぶ。
順調に仲間が集まってきて、確かに嬉しい。

あたしも素直にほっとしていた。

だけど、そんな中で…一つだけ気になること。





「……。」





あたしがちらりと見たのは、隣で俯いているホープ。

ホープは、相変わらず元気がない。
折角ライトに会えてもその表情が晴れることがない。





「ホープ…」





あたしは小さく、また声を掛けた。
するとホープは顔を上げ、先にいるライトを見た。





「ライトさん…」

「どうした、ホープ。お前も無事でよかった」





声を掛けられたライトはホープに微笑みながらそう答える。

でもやっぱり、ホープの下を向いたまま。
そんなホープの様子にライトも少し首を傾げる。

そんな、直後だった。





「感動の再会だね」





突然聞こえた子供の声。

その声に、あたしはぞくりとした。
だって、この声は…!

皆もハッと声のした方に振り向く。





「お前はエルドナーシュ!」





スノウが声を上げる。
あたしたちの前に突如として現れたのは、さっきホープが会ったと言っていたエルドナーシュだった。





「仲間ごっこは楽しんだかい?」

「何の話だ」





エルドナーシュの投げ掛けてきた言葉にライトは彼を睨む。

仲間ごっこ。
ライトの言うように、何の話、だ。

だってここにいるのは皆、信頼のおける仲間たちだ。

でも…。

その時、あたしはふっと…隣から気配が離れるのを感じた。
え…、と自分の心が揺れる。

エルドナーシュの元に歩き出したのは、ホープ。





「僕は…」

「ホープ?一体どうしたんだ?」





位置的にエルドナーシュの一番近くにいたライトの隣まで、ホープは進む。
様子のおかしいホープにライトはその顔を覗きこむように声を掛けた。

離れた…。

そう感じたのは、ホープが歩き出したから。

でも、今のは…なんだか…。

なんだろう。凄く違和感。
離れたの、それだけじゃなくて…。

なんだか精神的というか、…心?そういう距離まで出来た様な。





「っ、ホープ!!」





だからあたしは彼の名前を咄嗟に叫んだ。

なんだか、呼ばないとどこかにいってしまいそうで。
手が、離れてしまう気がして。

するとその声を聞いたホープは頭に片手で頭を押え、また俯いた。

そして、重苦しそうにぽつりぽつりと話し出した。





「…少しずつ思い出してきたんです。僕が、ライトさんに…ナマエさんに、何をしたか」

「何だって?」





ホープがあたしやライトに、何かした?
全く身に覚えのない話。

ライトが聞き返すと、ホープは顔を上げてはっきりと言った。





「今のライトさんやナマエさんは知りません。記憶を取り戻していないから。でも、だからこそ…僕は今のうちに離れなきゃいけない…。もう、ライトさんや…ナマエさんと、一緒にはいられません」

「おい!何処へ行く気だ!?」

「エルドナーシュと一緒に行くの!?」





ホープは歩き出す。
スノウやセラも止めたけど、その足をエルドナーシュの方へと向ける。

その様子を見たライトはエルドナーシュにデュアルウェポンを構えた。





「説明しろ!ホープに何を吹き込んだ!」

「淀みの断片。彼が元々持っていた闇の片鱗さ。僕はそれを返してやると約束しただけだよ」

「戯言を言うな!ホープに闇なんてない!」

「皆が覚えていないだけです。だから、今のうちに離れます。皆を…ライトさんを、傷つけないように…。ナマエさんを…守る、ために…」





ホープは苦しそうに呟く。

あたしたちが、覚えていないだけ。

ホープには、闇がある?
だから今のうちに離れる?

皆やライトを傷つけないため。
あたしを…守る、ために…。





「ホープ!しっかりしろ!ひとりで思いつめるな!」





ライトが思いとどまらせようと強く言う。

そうだ。
止めなきゃ。

そう思うのに、混乱して、喉が詰まったみたいに上手く声が出ない…。

あれ…。
こんなこと、なんだか前にもあったような…。





「さよなら、ライトさん」





ホープは振り向き、止めるライトにそう告げる。

待って…ダメ、ダメ…。
頭の中で、繰り返してる。

だって、このままじゃ…ホープがどこかに行ってしまう。

また、喉が震える。
何を言えばいいか、わからなくて。

何を言えばいい、何をすればいい。

混乱して、焦りが募って…。

そして同時に、感じる違和感。

この感情、あたし…知ってる…?
前にも、同じような事があった気がする。





「…ナマエさん」

「!」





その時、ホープに名前を呼ばれた。
思わずびくりとする。

ホープは自分の掌を見つめ、そしてぎゅっと握りしめる。





「…手、離してごめんなさい」

「…あ…」






そして言われた言葉に、震えた喉から声が漏れた。

ぐしゃり。
心臓が、潰されたみたいな感覚を覚える。

絶対離さないって、約束した…互いの手。

それが離れる。
その瞬間が、今、目前に迫って…。

さっき言われた言葉が頭にこだまする。

いつでも僕よりも自分の心配をしてくださいね。
僕は、貴女が一番だから。
貴女を守る、貴女が無事でいること…それが一番大事なんです。

違う…、違うよ。

あたしにとっての一番は、ホープが手を握っていてくれることだよ。

そうはっきりと、自分の気持ちを自覚する。
決して間違う事の無い、自分の大切な気持ち。

それだけを想えば、体がふっと動き出す。





「ホープ!!」





あたしは駆け出して、握りしめてるホープの手を掴もうとした。

…でも、その指先は…宙を仰ぐ。





「あっ…」





ふっ…と、触れる直前にそこにいた存在が消える。

嘘…嘘…っ!
いくら否定しようとしても、目の前にはいない。

目の奥が熱くなって、喉の奥から何かこみあげてくる。





「ホープーーーーっ!!!」





叫んだ名前がアカデミアに響く。

響き方、どこか違う。
…何と?いつと?

でも…また、その時感じた変な既視感…。

なに…これ…。

色んな感情でぐちゃぐちゃになる。

あたしはへた…と、力が抜け落ちたみたいに、その場に崩れ落ちていた。



END
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