この世界だからこそ


少し探索をして、飛空艇に戻ってきた。

ご飯が食べたいなあ。
色気もへったくれも無いが、戻ってきて真っ先に思ったのはそんなこと。

だからあたしはそのまま真っ直ぐ食堂に向かった。

誰かいるかな。
そう席の方を覗けば、黒い髪とソルジャー服の背中を見つける。

あっ、と思ったあたしはその背中に近付いて声を掛けた。





「ザックス!」

「ん?おー、ナマエ!」





名前を呼べば、振り返ってくれる。

だけどその時、あたしは気が付いた。
今はそこに近付くべきでは無かったと言う事を。





「よー、ナマエ。お疲れだぞ、と」

「げっ」

「今、げっつったかお前」





ザックスの向かいに座っていたのは元の世界にいた時から見知った赤髪。
ひょうひょうとした笑みでひらりと手を振ってきたそいつにあたしは思わず心の声を漏らしてしまった。





「ん?あ、そっか、ナマエとレノも知り合いかー」





あたしたちの顔を見比べて、ひとり納得しているザックス。

ザックスの向かいに座っていたのはレノ。

レノはまだこの世界に来たばっかだし、まさか一緒にご飯食べてるなんて思わなかった!不覚…!
まあザックスはソルジャーなんだし神羅同士で色々話も合ったのかもしれんけども…!





「ナマエも飯?座れよ!一緒に食おうぜ!」

「…ウン」





ぱあっとした太陽の様なザックスの笑顔には断れない。
だからあたしはおずっと頷く。

いや、ザックスとならむしろ一緒に食べたい。

だがしかし、人には相性というものがあってだな!





「おー、ナマエ。隣空いてるぞ、と」

「結構!ザックスの隣も空いてるんで!」

「相変わらずつれないぞ、と」





ぽんぽん隣の席を叩いてきたレノを無視してさっさとザックスの隣に座る。
そんなあたしの様子にくつくつ笑うレノ。

なにが面白いってんだこの赤髪め!

そんな様子を見ていたザックスはなんだか不思議そうな顔をしてる。





「へえ、ナマエとレノって仲良かったんだな」

「おう、大の仲良しだぞ〜」

「どこが?!」

「あはは!でも、ナマエがそういう反応すんの珍しいよな〜」

「ザックス。人には誰だって相性というものがあるのですよ」

「そうそう、俺とナマエは相性抜群なんだぞー、と」

「黙れこの赤髪ー!!」

「あっはっは!!」





ニコニコとしてるザックス。
まずい!なんか変な誤解をされている!

もう、なんでこんなことに!!

あたしはううう…と頭を抱えた。





「…でも、なんでザックスとレノ一緒にご飯食べてんの。神羅繋がり?」

「ま、そんなとこだぞ、と」

「おう。夕食の時にでも話そうぜって言っててさ」

「ふーん…」





ソルジャーのザックスはタークスにも知り合いがいた。
ツォンあたりとも一緒の任務に出たこともあるのだとか。

その辺ってあんまりあたしの知りえない部分だから、この世界だからこそだよなあとは思う。

神羅側の裏話。
もっとも、レノは重要な事は言わないだろうから、多分表面的な話ではあるだろうけど。

でも、そういうのを聞けるのは、わりと面白かったかもしれない。

そうこう色々話してると、ザックスが突然何か思い出したように席を立った。





「あ、悪い。俺、飯のあと約束あったんだ。ちょっと先行くな」

「え」

「じゃあな、ナマエ、レノ!」

「え!あ、ちょ、ザックスー!?」





ザックスはすくっと立ち上がり、サッとその場を後にしてしまう。

は、早い…。
引き止める間もない…。

去っていく彼の背を見つめ、くるりと正面に向き直る。

するとニコーッとしたレノの笑顔が映った。





「…なにその笑顔」

「ふたりきりだなあ」

「さっさと食べよう」

「本当つれないぞ、と」






レノはまたくつくつ笑ってる。
絶対楽しんでるよね、こいつホント。

あたしは「はあ…」と息をつく。

するとレノはぽつっと少し声のトーンを変えて呟いた。





「しかしまあ、ザックスまでいるとは流石に驚いたな」

「え?あ…ああ…」





それだけでレノが何を言っているかをだいたい察する。

そっか。
レノもザックスが元の世界でどうなったかは、知ってるのか…。





「レノ、ザックスのこと知ってたんだね」

「まあな」

「…最初はさ、記憶無かったんだよ」

「ん?」

「うん。最後までの。マーテリアがね。その辺は聞いてるでしょ?あたしとかも、多分まだ欠けてる気がするし」

「ああ…女神さんの話な」

「そ。…で、ザックスは、思い出したの。それで、受け止めた」

「成る程だぞ、と」





あの時の事…計り知れない。

ザックスはいつも明るくて、笑ってる。
でも…思い出して、その心は。

そうだったのかー、って静かに受け止めてた。

もしあたしがザックスの立場だったら、そんな風に受け止められるかな。
想像なんて出来ない。出来るわけない。





「俯いてるのが似合わないのは、お前も同じだぞ、と」

「え?」





その時、そう言われて顔をあげた。
それで自分が俯いていた事に気が付く。

目の前にあるレノの顔は、にぃっと笑ってる。

するとその瞬間、その笑みを割る様にダンッとひとつの腕がテーブルを叩いた。





「何してるんだ」

「クラウド!」





ハッと目の前に現れた腕を追えばそこにいたのはクラウドだった。

クラウドはレノをちらりと睨む。
するとレノは「おっと」とか言いながら両手を挙げてやれやれと首を横に振った。

クラウドはさっきまでザックスが座っていたあたしの隣に腰を下ろした。





「クラウド、見回り終わったの?」

「…ああ。ナマエは帰ってるって聞いたから、探してた」

「そっか、おかえりなさい」

「…ただいま」





クラウドも今日は探索に出ていた。
でもあたしとは違う方面で、今日はちょっと別行動してた。




「最初はザックスもいたんだよ」

「ザックスは?」

「ちょっと約束あるって」

「…そうか」




どうやら彼は戻ってきて、あたしの事を探してくれてたらしい。

あ、それはちょっと嬉しいな。
おかえり、ただいま、なんてやり取りと、くれた笑みに少しほっこりする。




「…異世界に来ても嫉妬深いぞ、と」





そしてレノはぼそっと何か呟いていた。



END
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