その過去に思いを


階段の上から見下ろす広間。
ゆっくりと、一段一段降りていく。

その景色に思う。

あの人は、これをどんな思いで見ていたのだろう。





「ナマエ」





すると後ろから名前を呼ばれた。
あたしは振り返る。

そこにいたのは、サングラスを掛けたひとりの男。





「なにをしている」

「アーロン」





この階段の上から繋がる摩天。
アーロンはジェクトさんとそこにいたはずなのに、どうやら出てきたらしい。

いやそれはあたしもなんだけど。

アーロンは上から見下ろしている。
あたしは質問に答えた。





「ユウナレスカ様ごっこ」

「は…?」





アーロンは疑問符を返してきた。
そんな反応にあたしは軽く笑い、ちょっと大げさに腕を広げて記憶の中にある台詞を口にした。





「ようこそ、ザナルカンドへー。大いなる祝福を今こそ授けましょう〜…だっけ?」

「…なにが、だっけ、だ」





もう一度振り返ると呆れ顔をされた。
見慣れた反応。こんな反応見慣れるとか本当失礼なおっさんだ。

あたしは腕をおろし、ふんだ、と目を細める。
まあわかるけど。

そしてまた一段一段、階段を下りて行った。





「考えてたの。ユウナレスカはここでどんな気持ちで訪れる召喚士とガードを見下ろしてたのか」

「…ユウナレスカの、気持ち?」





そしてその行動の意味を話す。

ユウナレスカ。
スピラ史上、はじめてシンを倒した召喚士。

そしてその死後も、最果てザナルカンドで訪れた召喚士たちに究極召喚を与える存在として留まり続けた。
ユウナレスカはユウナレスカなりに、スピラの事を思っていた…。

でも、その心は歪んでいたと思う。

シンを本当の意味で倒すことが出来ないと知りながら、究極召喚を希望と謳った。
希望は慰めだと、定めを諦め、受け入れるための力とする。





「ま、考えたところでやっぱ理解出来る気なんてしないんだけど。それに、ユウナレスカに対する気持ちは、きっと一生整理付かない気がする」

「………。」





タン…と最後はジャンプして降りる。
一番下の、広間まで辿りついた。

ユウナレスカ。
ブラスカさんにまやかしの希望を囁いて、ジェクトさんを祈り子にした。
そして、アーロンを…。

悲しみと憎しみと苦しみと、前向きな感情が…正直ひとつも出てこない。

そうして今度は、その階段を見上げた。

スピラで初めて来たときも、こんな風に見上げたな…。

だけど、今馳せるのは、あたしが辿りつく事が出来なかったあの日の時間。
ここはブラスカさんと旅した頃が元になっているから。





「あとは、まあ…自分がそれをどう見上げたか」

「?、見上げただろう」

「あ、ううん。そうじゃなくて10年前に此処にいたら。此処がアーロンの呼び出した過去のザナルカンドなら…まあ、もし自分が此処にいたらどうしただろうって言うのは、考えるよね」

「…お前があの時ここにいたら、か」





アーロンも階段を下りてくる。
その姿を見ながら、あたしは10年前のアーロンがここで叫んでいた事を思い出した。





「うーん…まあ、あたしもアーロンと一緒に、帰ろう、やめましょうってそれは言ったと思うんだ」

「…ああ」

「でも、それ以上はわからない。今じっくり考えてもどんな言葉が相応しいかってわからないから、あの時だったらもっと思いつかないと思う」

「そうか…」





あの時、アーロンはきっと思いつくままにブラスカさんとジェクトさんを止めた。

他にも方法があるはず。こんなの無駄死にだ。
生きていれば無限の可能性が待っている。

アーロンが必死になって叫んだ以上の言葉、今のあたしも思いつかない。

でも、色々と振り返って…思う事。





「でも、アーロンはさっき此処を失敗の地って言ってたけど…失敗だったとも、失敗じゃなかったとも、言うの難しい…かも」

「どういう意味だ?」

「だってまあ…犠牲が正しかったとは、言いたくないよね」

「…ああ」

「でも、その選択のおかげで、あたしたちはシンを倒せた。その選択は決して無駄なんかじゃなかった。だから、間違いでも無かった」

「……。」

「難しいね。でも両方とも、言いたい言葉…なんだよね」

「…矛盾してるな」

「うん。そうだね。確かに10年前だけ見たら失敗になっちゃうのかもしれないけど、でも、選択の意味って、後からでも変えられるんだよね。それを変えられたのは、やっぱりアーロンのおかげだと思う」

「……。」

「アーロンが頑張ったから、無限の可能性が開けた」

「…お前や、ティーダにユウナ、それに皆の力だろう」

「勿論。でも、きっかけはやっぱりアーロンだよ」





アーロンが子供たちにふたりの想いを託したから。
多くは語らずも、何もかも見せて、導き手となったから。

うん、なんだか色々振り返れた。

あたしだって思う事は色々とあるのさ。
ここが10年前の記憶から造り出されたザナルカンドならば。

やっぱり、何度でも思う。
此処に立っている感覚は、とても不思議なモノだって。





「さあてと、じゃあ戻ろうかな。ていうかなんでアーロンここ来てんのさ。ジェクトさんのお目付け役なのにひとりにするなんて」

「お前もだろう。というか…お前がいないから探しに来たんだが?」

「えー、ジェクトさんは気づいてたよー。ちょっくらあっち行ってきます〜ってジェスチャーしたら、おうよって片手上げてくれたもん」

「…ああ。ジェクトに聞いたから追いかけたんだ」

「聞いてるんじゃん」





ここに来る前、あたしはジェクトさんにそれとなくその意思を伝えた。

どこにいるかわかってるなら、探しに来ることも無いじゃないか。

ていうか別に勝手にフラフラしたりしないぞ。
だからこそジェクトさんには伝えたんだし。





「というかアーロンがいるからいっかと思ってちょっと見に来たんだけどな」

「…ジェクトが見てこいと言ったんだ」

「えー?ほんとー?」

「隣の部屋だ。異変があればすぐわかる」

「ま、それはそうだけど。んじゃ、戻ろ」





本当に少しこのドームを見たかっただけだ。
もう大丈夫。満足した。

だからあたしは来た階段をまた上り始めた。

だけどそこで、アーロンが足を動かさないことに気がつく。
あたしはくるりと振り向いた。





「アーロン?どしたの、戻らないの?」

「いや…」





声を掛ければアーロンも階段を上り出した。

あたしは足を止めてそれを少し待つ。
すると追いついたところでアーロンがぽつりと呟いた。





「…自分でも、少し自覚はある」

「ん?」

「おかしなものだな…。だが妙に、今はお前を視界に入れておきたくてな…」

「…え?」

「…引きずっているな。すまん、少しの間は許してくれ」





素直な言葉。

引きずっている、とは…まあ、感情云々の話だろう。

自分が召喚してしまったかもしれない過去のザナルカンド。
かつての感情が蘇って、どこか心が不安定になって。

そんな時、力になりたいって言ったら、アーロンは頼ってくれた。

つまりは色々と踏ん切りをつけた今も、それを少し引きずっていると…。

そんな事を言われると、少し照れる。
でも今はこちらの方が優位に立っているからか、ちょっとだけ悪戯心が疼いた。






「ねえ、アーロンってさ」

「なんだ?」

「あたしのこと大好きなんだね」

「……。」





にこりと笑って言ってみる。

するとゴンッと頭をグーで殴られた。痛い。

なにすんだ、といつものように文句を言おうとする。
でも今はそれを言う前に…。





「ああ、そうだ」

「へ…」





さらりと言ってのけるアーロン。
こっちが目を丸くした。

そしてスタスタと上っていく。





「行くぞ」

「あ、ちょ、待って待って!」





いつの間にか形勢逆転。
あたしはパタパタと、先ゆくアーロンを追いかけた。



END


ひとつ前のLDのお話がヒロイン→アーロンっぽい話だったので、今回は逆でアーロン→ヒロイン要素の話。

というか前回のLDは別に3部4章ってつもりで書いたわけでも無く(登場人物がアーロンとジェクトだけなのでそれっぽく見えてしまうんですけど)、こっちが正統な続き。

3部4章のストーリー沿いが終わったところで続きを書きたいと言っていた話がコレです。
消すことにならないと良いな。(笑)

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