君に縁ある街で
あたしたちは闇のクリスタルを守りきれなかった。
クリスタルコアは神竜に食われた。
でも、食われたクリスタルコアは別の何かに生まれ変わり、あたしたちをまだこの異説の世界に留めていた。
そう。あたしたちは今もこの異世界にいる。
しかしそこは、あたしたちが今まで旅してきた世界とはまた少し違っていた。
それは…生まれ変わった新たな大地だった。
「新都、アカデミア…」
目の前にある景色に、あたしは記憶の中にあるその都市の名前を呟いた。
今、あたしは新都アカデミアに立っていた。
それは13の…あの世界にある都市。
ホープに深く縁のある場所。
そしてセラとノエルと一緒に立ち向かった…カイアスとの決戦の地。
まあ…そうはいっても、今いるこの場所はこの世界の意志の力で召喚されたよく似た紛い物なのだろうけどね。
「アカデミア…誰かの意志の力で呼び出したのかな?…ホープ?でもこの景色は決戦の時みたい」
少し、考えてみる。
このアカデミアはあたしの記憶の中のモノとはちょっと地形が違ったから本物じゃない事はすぐに察しがついた。
アカデミアを呼び出すのなら、あたしたちの中で一番可能性が高いのはホープだ。
セラとノエルの可能性も無くはないけど、でもしっくりくるのはホープだろう。
ただ、今立っているアカデミアは、カイアスと戦った時と近いような気がした。
そうするとカイアスの可能性もあるのかも…。
「ううん…」
唸る。
うーん、ひとりで考えたところで答えなんて出るはずないよな。
あたしは今、たったひとりきりだった。
え、もしかしてあたしの可能性?
自分で呼び出してひとりで彷徨ってる?
いやそれは違うでしょって気はするけど。
でもだから呼び出した誰かか、同じように彷徨ってる誰かがこの街にいるんじゃないかな〜って思うんだけどな。
「…ホープー」
ひとつ、名前を呼んでみる。
こういう時、いつも隣にいて一緒に考えてくれる彼の名前。
だけどそんな彼も、今は傍にいない。
同じように、この街で彷徨ってたりするのかな。
ライトやセラにノエル。
ヴァニラ、スノウ、ファング、サッズもいるかもしれない。
それに、違う世界の皆だって。
「探してみますか」
うん、と少し体を伸ばしてそう決める。
ここでぼんやりしてても始まらないし。
状況も分からず、見知らぬ世界でひとりきり。
不安はあるけど、でもわりと意欲的だ。
探索してみようって、そんな気持ちになってる。
「よし」
この世界では意志の力が働くのなら、会いたいって思って歩けばきっと大丈夫。
根拠のない自信。
でも前向きなのはきっと悪い事じゃないから。
あたしはその気持ちに正直に、アカデミアの地形を散策してみることにした。
「あ」
歩きはじめて、多分そんなに経ってない。
見つからないって嘆く間もなく、気合を保ったままにあたしはひとつの人影を見つけた。
しかもそれは一番気になっていた彼のもの。
立ち尽くす、銀髪の小さな背中。
ホープ、見つけた!
「ホープ!」
あたしは彼の名前を呼びながら、タッとその場を駆けだした。
トントン、と軽快に段差も飛び越えて、どんどんと近づいていく。
するとそれに気が付き、ホープもこちらに振り返ってくれた。
「ナマエ…さん」
「ホープ見っけた!」
目の前までやってくる。
そしてあたしはニコリと笑った。
だって会えて嬉しいもん。
それに素直に、安心したから。
「ナマエさん、無事だったんですね、…良かった」
「うん、ホープもね!目覚めたらアカデミアだったから、何事かと思ったよ」
「はは…、そうですね。僕も驚きました」
「でも、本物じゃないよね」
「はい…。僕たちはまだ、元の世界に帰れてはいない…。あ、でも、ナマエさんの無事が確認出来たのは大きいな。本当に、良かった…」
「…ホープ?」
ホープは無事でよかったって微笑んでくれた。
でも、なんだろう。
その顔、それに声音もかな…?
なんだかよくわからないけど、なんとなくちょっと元気が無いように感じる。
「ホープ?どうしたの?」
「え…?」
「なんかあった?」
「え…あ、えと、いえ…今、ナマエさんが来る前にエルドナーシュがいたので…」
「は?エルドナーシュ!?」
気にかけてみると、出てきた名前に驚いた。
エルドナーシュがここにいた!?
よりによって、またちょっとややこしくなりそうな奴じゃん…。
ホープの様子とか、地形とか見て戦ったって感じではなさそうだけど。
「戦っては無い…よね?でも何かあった?大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。戦っても無いですし」
何事も無いと、ホープは言う。
でもその顔色を見れば万全そうじゃない。
青白くて、気分が悪そうな感じ。
「…エルドナーシュと何か話したの?」
「…ええ。やはり、よからぬことを考えている様でした。ナマエさんの方は、誰かに会ったりとかは」
「ううん。あたしは敵味方合わせてホープが一番最初」
「なら、良かったです。じゃあ、そうですね…とりあえず、辺りを歩いてみましょうか。他の皆も近くにいるかもしれませんから、出来るだけ早めに合流したいです」
「あたしたちふたりだけここにいるってよりは、皆もいるかもって考える方が自然だよね。ね、でもあたしは誰とも会ってないから、エルドナーシュの話も聞きたいな。状況把握っていうかさ」
「はい…。じゃあ皆を探しながらでも…、うっ…」
「あっ、ホープ…!」
そう話していると、ホープは頭を押さえて蹲ってしまった。
あたしも合わせてしゃがみ、肩に触れる。
「ごめんなさい、大丈夫です…ちょっと頭痛がして」
「頭痛…?」
「平気ですよ、そんなに気にしないで」
「……。」
ホープは大丈夫だとあたしに笑う。
あたしはそんなホープをじっと見つめてた。
…ホープ、やっぱり何か様子変…。
思いつくのは、やっぱりエルドナーシュの仕業…?
それは、小さな引っ掛かりだった。
でもこれが、この手が離れてしまう種になることなど。
…この時のあたしには知る由もなかった。
END