陣風
「ファイガ!!」
掌に魔力を込め、炎を放つ。
それはイメージ通りに、目の前にいたモンスターを退けた。
決まった。
あとは背後にいる一体を倒して終わり。
そいつとはだいぶ距離があったはず。
その位置を把握しているからこそ、まずは比較的に距離が近かった前方の敵を優先した。
振り向いて、もう一発放ったらそれでトドメ!
あたしは魔力を込めながら、後ろに振り返った。
だけどその時、ひとつ誤算があったことに気が付いた。
「へっ」
距離、結構合ったはず。
いや、それはあった。
でも問題は、そのスピード。
「え、ちょ、ちょ…!」
予想してたより凄いスピードで迫ってくるモンスター。
ちょ!追い詰められると加速するとか聞いてない…!
驚いたのもあって反応が余計遅れる。
や、やばい…!
だけどそう思った時、ふわっ…と赤い衣がなびいた。
「え…」
赤い衣と、目の前に映った大きな背中。
それはあたしに爪を立てようとしていたモンスターを大剣でいとも簡単に食い止めた。
「じゃあな」
そして軽く弾き返し、怯んだところにザンッと大剣を振り下ろす。
トドメは刺された。
モンスターはすべて倒し終わり、あたしたちは無事にこの場に来た目的を果たすことが出来た。
「おーい!大丈夫かあ〜?」
終わるともう一体別の個体を見てくれていたジェクトさんがこちらに駆け寄ってくる声がした。
あ…と、それを聞いてなんとなく我に返ったような感覚。
すると目の前にあった大きな背中も振り向いた。
「大丈夫だったか」
「へ、え、あ…う、うん」
振り向いた、アーロン。
あたしは咄嗟にこくんと頷く。
だけどその時、なんだかちょっと変だった。
あ、あれ…。
なんか目が、合わせづらい…。
それに胸の奥がとくんとくんと妙に鳴り響いてる。
「ナマエ…?」
「あ、い、いや…あ、ありがとアーロン」
とりあえずお礼は言おう。
そう思って口にしたけど、やっぱり目は合わせにくくて伏せたり横を見たり、なんだかちょっと泳がせてしまう。
そんなあたしの反応にアーロンは顔をしかめていた。
「…どうした」
「な、なんでもない…うん、なんでもない」
そう。別になんでもない。
怪我もしてないし、何事も無い。
だから、そんなにこっち見ないでほしい。
ただ今思うのは、そのサングラスの奥の視線から逃げたいと言うこと。
「おー、ナマエちゃん、怪我しなかったか。アーロンよく間に合ったじゃねえか」
「まあな」
「ん?ナマエちゃんなんか顔赤くねえか?」
「へっ!」
ジェクトさんがまじまじと顔を見てきた。
思わず声が裏返る。
するとジェクトさんは何か悪戯でも思いついたようににやりとして言った。
「なんだあ、庇って貰ってときめいちまったか?」
「はいっ!?」
ジェクトさんのその言葉がドスッと突き刺さった。
そしてその反動で思わずビクリ。
はうっ…し、しまった…。
そんな反応をしてしまえば、それは図星だと言ってしまっているようなもので…。
ジェクトさんは大口を開けて笑い出した。
「がっはっは!!なぁんだ図星かよ?ま、今のは確かにサマんなってたもんあ!見てたこっちもおおって思ったぜー」
「じぇ、ジェクトさん!違…っ」
「んじゃ、邪魔モンは先に戻ってるかねえ」
「ジェクトさんッ!!」
言いたい事だけ言ってひらりと手を振りながらひとり先に来た方に戻って行ってしまうジェクトさん。
な、なんて人!
空気引っ掻き回すだけ引っ掛けまわしてさっさとひとりだけ…!
「ナマエ」
「ッ…!」
すると後ろからアーロンの声がした。
ぴゃっ、と肩が跳ねる。
図星。
そう、ジェクトさんに言われたのは図星だった。
モンスターが迫ってきて、サッと血の気が引いた。
まずい。やられる。そう思った時、目の前に現れた大きな背中。
それを見たとき、とく…と心臓が跳ねた。
庇ってもらった事なんて何度もある。
なのに、なんでだろう。
なぜだか今は、妙に心臓が動いて…気恥ずかしくなる。
「あ、あたしたちも戻ろ!全部倒したし!」
と、とにかく今はここから逃げ出したいっ!!
そう思い、あたしはアーロンにそう言ってジェクトさんを追うように道を戻ろうとした。
けど。
「待て」
「!」
だけどその時、なぜかアーロンはガシッとあたしの腕を掴んできた。
「っ、な…に」
「……。」
ぐっと振り向かされる。
するとアーロンはにやりと笑って顔を覗きこんできた。
「どれ、顔を良く見せてみろ」
「っな、なん…!」
大きな手が頬に触れて、顔を向かされる。
逸らせなくなって、かあっ…と顔に熱が集まるのを感じた。
な、なんで!
見せてみろって何さ!!?
ていうかなんで今こんなに自分を色々とコントロール出来ない!?
胸の奥が締め付けられる。
頬が熱くなる。
するとアーロンはふっと笑った。
「ほう…良い顔をしているじゃないか」
「ななな、なにがっ…!」
物凄くどもる。
だって掴まれてるから逃げられないし…!
するとそんなあたふたするあたしを見てアーロンはまた笑った。
「そんな反応をされるとは、予想外だったな」
「…あたしも予想外だよ…」
手が離れた。
解放されて、視線から逃げる。
うう…本当、予想外だ。
というか相手にばれるとか何の拷問だ…!
アーロンはなんだか楽しそうだった。
あたしはもうその場にしゃがんで頭を抱えた。
「あああああ…もうなんなんだ…なんなんだコレぇ…」
「なんなんだと言われてもな」
「わかってるよ!こんなの今更だし!なんでこんなドキドキしてるのか意味わからん!」
「…お前、何を言っているのか自分でわかっているか」
「墓穴…!!」
混乱しすぎて意味わかんなくなってきた!
ちょっと待って、なんであたし今自分で暴露した…!
もうやだ…穴があったら入りたいってこの事だ…。
「…フッ、お前が俺に対してそんな反応をするとはな」
「…え?」
すると、アーロンはそんなことを呟いた。
あたしはしゃがんだまま、ちらりと見上げる。
アーロンは機嫌が良さそうだった。
…でも、なんだか気になる言い方。
「…なんで?」
あたしは尋ねた。
いや、何度も庇って貰ったことあって今更何だよってのはあたしも思ってるよ。
でも今のってそういうんじゃなくてドキドキしてること自体に言ってる感じだったから。
…それだって今更な気がするけど。
するとアーロンはあたしに手を差し出してきた。
しゃがんでるから、そろそろ立ったらどうだみたいな。
あたしは素直にその手を取り、引いて立たせてもらった。
そして手を握ったまま、アーロンを見る。
だって、こんな風に胸が高鳴るのはアーロンでしかありえないわけで。
「…お前がこちらを見るという想像が出来なかったからだ。10年、な」
「……。」
すると、アーロンはそう言った。
あたしが、アーロンの方を見るという想像…。
…確かに、10年前の旅の時は…この人とどうとか、考えたことは無かった。
いや、正確には何かきっかけがあれば気にしたのだろうけど…。
きっと、自覚するギリギリのところで止まってた感じ。
「…ふうん」
軽く、そう言う。
やっぱり…なんだか気恥ずかしくて仕方ない。
でも、アーロンが少し嬉しそうだから。
まあいいか…なんて、思った。
END
アーロンのLD遂に来ましたね〜!
レポートに記載が無い予告なしだったのでもう前日にあわあわでした。(笑)
まあいつ来てもいいように天井まで回す準備はしてましたが。
でも無料で来てくれたので大喜びでした〜。
技はまあ陣風かなとは思ってましたがやっぱりですね。
一応性能に沿った内容にはしましたが陣風と言うより鉄壁ですねコレ。