自分に素直に正直に


「手加減なしだな、全くよ」





意志を発散させるためのぶつかり合い。
ジェクトさんは膝をついた。





「ナマエ」

「はいはーい」





アーロンに回復してやれと言う意味で名前を呼ばれた。
だからあたしは頷き、さっきアーロンにしたようにジェクトさんにもケアルガを唱えた。

うん、癒しの光は傷を癒していく。

ジェクトさんは「ありがとよ」とお礼を言ってくれたから、あたしは「いえいえ」と笑った。





「思い切りやった方が発散できるだろ?」

「まあな。しかし…」





ジェクトさんは立ち上がり、ティーダの声に頷いた。

でもその顔にはまだ何か少し気掛かりがある様な。
ジェクトさんは辺りを見渡した。





「…このザナルカンドには異常なし、か」

「悪しきものを呼び寄せることを心配していたが、杞憂だったようだな」





ジェクトさんの気掛かりに答えたのはアーロンだった。

アーロンは言っていた。不安だって。
ここが自分の思い出のザナルカンドなら何が起こるかわからないからと。

でも、今なお、この場所に大きな変化はない。

ジェクトさんもここで目覚めた時、アーロンの不安そうな様子は見ていただろう。
でも今、その顔が晴れやかになっている事に気が付いたようだった。





「なんでえ、アーロン。よく見りゃスッキリした顔してんじゃねえか」

「戦いで迷いを断ち切ったのはお前だけでは無いと言う事だ」

「へっ、そうかよ」





ふたりはそう言って笑ってた。

うん、ふたりともさっきより表情は明るくなってる。
胸の中にあるモヤ、少しでも晴らせたのなら…純粋に良かったなって思った。





「ふたりとも揃ったね。体に異変はない?」

「それを心配してるんだが、今のところは平気だ」





迎えに来てくれたオニオンナイトが尋ね、ジェクトさんも大丈夫だと言う。

不安だったのは、ジェクトさんがまた究極召喚にならないかということ。
アーロンの気がかりや、ジェクトさんがひとりになった理由の大部分もそこにあるのだろう。

ジェクトさんの返事を聞いたオニオンナイトは今の自分たちの状況を簡潔にふたりに説明してくれる。





「僕たちは今、飛空艇を手に入れて仲間を迎えに行ってるところなんだ。ふたりが合流してくれたら心強いんだけど」

「私からもお願いします」

「託した後のもう一仕事じゃ。この世界は人遣いが荒いからのう」





ユウナも頼み、ガラフもそう言ってくれた。
そしてティーダも父親に言う。





「一緒に来いよ。その方が安心だ」

「そうさなあ…」





でも、ジェクトさんの答えはどこか煮え切らない。

別に、普通に頷いてくれるかと思ってたけど…。

そしてジェクトさんは少し考えると、ゆっくり首を横に振った。





「…いや、俺は行けねえ」

「どうして!」

「さっきも言ったが身体の事だ。異変はねえ。だが、今んとこだ。やな予感がすんだよ。このザナルカンドに来てから言う事をきかねえ感じがしてる。そんな状態で皆と一緒にいたら、暴れ出した時に危ねえだろ」





行けないと言うジェクトさん。
ティーダが何故かと聞けば、ジェクトさんは理由をそう語った。

今のところ…。
それに、予感…か。

でもそれを聞けば、なおのことって、こっちとしては思う。





「それなら余計に、一緒にいたいんですけど」

「はい。その時は皆で止めます。それでも駄目ですか」

「いくらナマエちゃんやユウナちゃんの頼みでもこればっかしは譲れねえ。俺は俺で元の世界に帰る方法を探しておくからよ。お前らはそっちで上手くやってくれや」





ユウナと一緒に頼んでも、その答えは揺らがなかった。

どうやらジェクトさんの意志は固いらしい。
ひとりで暴走するかもしれないのを抑えるなんて…。
そんな寂しいこと言わないでほしいのに…。





「心配してやっと見つけたのに、単独行動って…」

「お?泣くか?皆の前で泣くか?」

「泣かない!」





俯いたティーダをからかうのはいつもの調子のジェクトさんだ。

この調子を見ていると、大丈夫そうって思うのに…。

ティーダは顔を上げ、ジェクトさんを睨んでた。
でも、その表情はやっぱり心配そうだ。





「単独行動にはさせまい。俺もついて行こう」





するとその時、ひとりジェクトさんに歩み寄った人物がいた。
それはアーロンだった。

その言葉に皆は驚いた様子。





「アーロンさんまで!?」

「目付け役がいた方が、何かと安心だろう」





声を上げたユウナにそう返したアーロン。

あたしは…あまり驚いてなかったのかもしれない。
いや、その選択を、意外には思わなかったから。





「おい、アーロン。おめえ、大事なモン、放っておいていいのかよ」

「……。」





その時、ジェクトさんがあたしを見ながらアーロンにそう言った。
その視線と言葉であたしに皆の視線が集まる。

なんかちょっと…う。
いやそんな注目されても…っていうか。

すると、ふっ…とアーロンと目が合った。





「ナマエ…」

「……。」





名前を呼ばれる。

まあでも、あたしもちょっと考えてた。
だって、あたしもジェクトさんの事は心配で…それでアーロンが残ると言うのなら。





「あたしも、残る…」





あたしはそう口にした。
すると、また皆は驚きの声を上げた。





「え!ナマエ…!?」

「ナマエも残るッスか!?」





ユウナとティーダが一番驚いてた。
いや、ジェクトさんもぎょっとしてたかも。

アーロンは、そうでもなかったのかもしれない。

あたしはアーロンとジェクトさんに歩み寄った。





「あたしもジェクトさんの事、心配ですもん。それに、今の今までどんよりしてたふたりだから、正直ちっとも安心できないです」

「お前…」

「言ってくれるぜ…、まあちと今だと否定できねえのが悔しいけどよ…」

「ふふっ」





ふたりに何とも言えない顔をされた。
その顔が面白かったから、あたしは笑った。

でも、それで自分の気持ちもちゃんと伝えた。





「ジェクトさん。あたしも、後悔してるんです。旅、最後まで一緒に出来なかったこと。だから、やり直しです」

「やり直し?」

「はい。あの日、あたしはひとりで全然関係の無いところにいて、何も出来なかった。だけど今、ジェクトさんやアーロンの為に何か出来ることがあるならしたい。実際はやり直しとまではいけないの、わかってるけど…、だけど、あの時出来なかったこと、してみたいんです」

「ナマエちゃん…」

「ふふ、それに、ひとりくらい魔法タイプがいるのも悪くないと思いますよ?なんだかんだ、この中でふたりと戦い慣れてるのもあたしだと思います。あの時より役に立つ自信はありますよ?」





ニコリと笑う。
すると、後ろからガラフが肯定してくれた。





「したいようにすればいい。自分の気持ちには正直に、じゃよ」





振り向けば、ガラフは頷いて笑ってくれていた。
その笑みにお礼を言うようにあたしも頷けば、ぽん…と頭に大きな手が触れた。

もう一度向き直る。それはアーロンの手だった。





「…もし、お前が良ければ…と、俺も言うつもりだった」

「アーロン」

「ジェクト。俺とナマエがあんたの目付け役だ。こいつは前向きだからな、いることで風向きが変わる事もあるだろう」

「ったく、自分が傍にいてえって言ってやれよ」





ジェクトさんはガシガシと後ろ頭を掻く。
でも、そうしてジェクトさんは笑ってくれた。





「まあ、そうさな…。へっ、続きみてえでいいかもな。何も悪い記憶だけじゃねえしな。んじゃ、思い出話に花を咲かせますかねえ」





じゃあこれで決まりだね。
あたしたちはティーダやユウナ達に改めて向き直った。





「じゃあ、またね。ティーダ、ユウナ」

「ナマエ…」

「…ナマエ…」





ティーダやユウナ。
同じ未来を生きる友たちは、少し不安そうな顔をする。

父親の事だから、ティーダは特に…かな。

するとそんな様子を見たアーロンやジェクトさんも口を開く。





「大丈夫だ。一生の別れでも無い」

「時が来たら、その光の羅針盤とやらが俺たちの事も見つけるんだろ」

「そうだけど…勝手だ」





ティーダはやっぱり、腑に落ちてはいなさそう。
でもそこでオニオンナイトやガラフがこちらの意見を汲んでくれた。





「僕は、3人の意思を尊重するよ。光の羅針盤で繋がっているしね」

「ひとときの別れじゃ。また必ず会える」

「ま!そういうことだからよ!飛空艇にはお前らだけで乗りな。見送ってやるよ」





そう言われればティーダも納得する。
ティーダはジェクトさんにはっきりと告げた。





「今度会った時は連れて行くからな」

「それで構わねえよ」





ジェクトさんも頷く。
うん、次に会った時にはきっと。

あたしもユウナと別れを惜しんだ。
ちょっと抱き合ったりもして。

あたしはブラスカさんのガードとして、旅をした。
アーロンとジェクトさんの仲間だった。

でも、一緒に未来を歩く…ユウナたちの仲間でもある。

そのどれも、全部あたし自身だから。





「また必ず会おう、それまで元気で」





オニオンナイト言葉に手を振る。
こうしてあたしたちは、飛空艇で飛び去る皆を見送ったのだった。



To be continued


正直残すかどうか悩みました。
まだ先のストーリーが見えてないので。

もし今後の展開的に別行動してた方がいい場合もあるかもしれないよなあと。

でもやっぱり一緒の方がいいよなあというのと折角書いたのでUPしてしまいます。

今後、ストーリーが動いた時にもし別行動の方が良ければ直す…かも。(笑)
そうならないことを願います…!!

正直この続きもちょっと書きたいなとか思ってたりしますし…!(それはまだ未定ですが)
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