不器用な男たち


アーロンのモヤを晴らしたあたしたちは、逸れたもうひとりジェクトさんを迎えに行くべくエボン=ドームの中へと向かった。

エボン=ドーム。
召喚士がその旅の目的である究極召喚を手に入れる場所…。

ジェクトさんが、祈り子になった場所…。





「親父!」





摩天。ユウナレスカと戦ったその場所にひとり立ちつくしていたジェクトさん。
ティーダが声を掛ければ、その背はゆっくりとこちらに振り返った。





「ジェクトさん!やっと見つけた!」

「ジェクトさん!探したんですよ」





駆け寄って、見えた顔にあたしとユウナもそう言う。
するとジェクトさんの方も申し訳なさそうな顔をした。





「すまねえな。合わせる顔が無くてよ」

「今更なんだよ!」





ティーダはわりと強めに言った。
そうするといつもはジェクトさんの方も張り合ったりするものだけど…でも今回は少し違う。
その顔は先ほどのアーロン同様、どこか浮かない色をしていた。





「この土地で俺が究極召喚になったのは知ってるよな?ブラスカの命を賭けてよ…。まだ小さかったユウナちゃんから父親を奪っちまった。…悪かった」





ジェクトさんはそう言って頭を下げた。

あたしたちはスピラでこの場所に来たとき、溢れる幻光虫に触れ…当時の記憶を見た。

究極召喚の真実を知り、アーロンが止めても究極召喚を手にする意思を曲げなかったブラスカさんと、そして祈り子になる覚悟を決めたジェクトさんの過去。





《だからよ、俺は祈り子ってやつになってみるぜ。ブラスカと一緒にシンと戦ってやらあ。そうすれば俺の人生にも意味が出来るってもんよ》





かつて、ジェクトさんはそう言っていた。

私が帰ったら誰がシンを倒す。
他の召喚士とガードに同じ想いを同じ思いを味あわせろと?
そう言ったブラスカさんの想いを肯定した。

もしかすると、今度は復活しないかもしれない。
そんな想いを賭けて…ふたりはユウナレスカの言葉を飲んだ。

でも、結果は何も変わらなかった。
究極召喚のその仕組み通りに、ブラスカさんは死に、ジェクトさんはシンになった。

ブラスカさんもジェクトさんも、自らの意思を貫き、前を向いていた。
だけど色々とここで振り返って見て、結果…自分の言葉がブラスカさんを後押しする形になったと、ジェクトさんは後悔しているのかもしれない。





「単独行動が必要なほど思い詰めておったか…」

「私、ジェクトさんを恨んだことなんて一度もありません。確かに父さんがいなくなったのはすごく寂しいけど…究極召喚の仕組みそのものが間違っていたんです」





ガラフが気遣い、ユウナは首を横に振った。
だけど、ジェクトさんは顔を俯かせたままだ。





「間違った仕組みにのっかって無駄死にだったとは思わねえか?」

「究極召喚をしたのが父さんで、祈り子がジェクトさんだったからこそ…私達、シンを倒せました」

「親父があの歌に反応しなかったら捕まえられなかった。俺たちはあんたたちの選択を恨んだりしてない」




ユウナとティーダが言う。
仲間の娘と己の息子の言葉は、何より説得力があるはずだけど。





「無限の可能性、ですよ。ジェクトさんも言ってましたよね?ジェクトさんとブラスカさんが決断してくれたから、その可能性が開けたんですよ?」

「どうやら世代交代は俺たちが考えるより、ずっと進んでいる。選択を振り返って立ち止まるときではなさそうだぞ」

「わかってる。頭ではわかってんだ。けどよ…心残りはそう簡単に消えねえんだよ」




あたしやアーロンも加わってジェクトさんに言葉を掛ける。
でもやっぱり、その後悔は根深いようで。

そうしたら、さっきアーロンが望んだことを思い出す。
もしかしたら…ジェクトさんも。

そう思った時、隣でふっと、アーロンが小さく笑った。





「なら、戦ってみるか?意志の力を発散させれば、想いもはっきりするかもしれん」

「あ、やっぱりだ」

「またやるのかよ」





あたしとティーダは突っ込んだ。

ほら、また同じ解決方法。
でもきっと、そうなるかもって思ってた。





「不器用なんだ。他に方法を知らんのだ」





アーロンはまた小さく笑う。

そう。うん、知ってる。
どうしようもなく不器用な人達。





「どうだ、ジェクト?俺たちと戦う気はあるか?」

「意志の力の発散ねえ…。確かに、一理あるかもしれねえ。それに、わかりやすくて俺好みだ」





アーロンが問えば、ジェクトさんも乗り気になった。

まあ、そんな気はしてたし。
あたしは異存なしだけど。





「戦いなら受けて立つぞい」

「ああ!モヤモヤをふっとばしてやる!」

「それでジェクトさんの気が晴れるなら、私達全力で戦います!」





ガラフや、そしてティーダやユウナもその意見に乗った。
それぞれが武器を構えれば、ジェクトさんもモヤを晴らすことに前を向いてくれる。





「戦いでしか発散できんとは、お互い不器用な事だな」

「本当、ふたりして面倒な性格ですね!」

「うるせえやい、これが手っ取り早いんだよ!」





アーロンに合わせる様にそう言って笑えば、ジェクトさんもちょっと笑ってくれる。

うん、でもこういうやりとりが嫌いじゃなくて。

ねえ、ジェクトさん。
はじめてスピラに来たとき、あたしが途方に暮れずに済んだのは…貴方のおかげだから。

その恩、あたしは忘れたことなんて無い。
だから…貴方が何かに迷うのなら、手伝えたらいいって思うんですよ。





「手っ取り早く思いを片付けてやるッス!」





ティーダが叫んで走り出せば、それが戦闘開始の合図。

成長した息子がそれを見せつける様に剣を振るう。
父親はそれを受け止め、そして噛みしめるのだった。



END

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