託した世代


「ぐっ…容赦ないな」





アーロンが膝から崩れ落ちる。
そして少し笑いながらそう呟いた。





「そっちがそうしろって言ったッス!」

「そーそ。こっちはそれに応えたまでですけどってね」





ティーダと一緒にそんな風に言いながら、あたしはアーロンに近付く。
そして合わせる様に膝をついて、その肩に触れながらケアルガを唱えた。

癒しの光がアーロンを包み込む。

うん、完璧。
ちゃんと癒えた傷に満足した。





「ごめんなさい、やりすぎちゃった!?」

「いや…これでいい」





クルルは全力でやり過ぎたかと気にしてた。いい子だ。

でも自分がやれって言ったんだし、それに手加減なんてアーロンは望んでいない。
全力でやるからこそ意味があって、だからこれで正解だ。

アーロンが立ち上がろうとしたから、あたしも腕を掴んで支える様に一緒に立ちあがった。





「憑き物が落ちたような顔をしておるのう」

「気持ちは晴れましたか?」





ガラフとユウナが微笑みながらアーロンに尋ねる。
あたしもアーロンの顔を見上げた。

確かにアーロンの顔は先ほどよりすっきりしているように見えた。





「これからはお前たちの時代だと言ったことがあるだろう?世代交代出来ているのが分かって安心した」





戦ったことでアーロンが感じられたのは次の世代が強く育っている事。
力をぶつけ合った事で、それを目一杯感じることが出来ただろう。

やり方、ド直球すぎたけどね。





「俺はこの場で力及ばなかった弱い存在だ。ブラスカもジェクトも救えなかった…」

「アーロンが責任感じる事じゃない。その時はそれしかなかった」

「そう割り切れないのが性でな」





ティーダの言葉に薄く笑いながら割れきれないと言う。
それを聞いて、あたしは隣で笑った。





「そーゆーとこほーんと。ふふ、やっぱまだちょっとどっかカタブツだよね」

「…嫌か?」

「ううん、そーゆー堅さは良いと思う。前も言ったよね?」

「…そうだな」





ああうん、やっぱり真面目。
不器用で、根の堅さはちょっと残ってる。

でも、そういう堅さは…やっぱり好きかなって思う。





「しかし、ここで戦ってみて少し安心した。次の世代を育てた事で、俺たちは無駄死ににはならなかった」

「アーロンさんがいなければ、私たち決断出来なかったかもしれません。真実を突き付けて選択を迫るその姿にも心動かされたんです」





ユウナがあの時を振り返り、そう語る。

さあ、どうする。
今こそ決断する時だ。

あの時、アーロンがそう叫んだ時…あの場にいた全員がきっと心動かされたよ。

自分の心で感じたままに、物語を動かす時。
感じたまま、思うまま…突き進みたいって、そう決意出来た。





「託されたものをきちんと次の世代に託したんだね」

「おぬしは立派な男じゃよ」

「出来ることをやったまでだ」

「なかなか出来ることではあるまいて。そう謙遜するな」





別世界のクルルやガラフもアーロンのその姿勢には感心していた。
アーロンは少しだけ卑下していたけど、年長者のガラフに言われればその言葉を素直に飲んでいた。





「おーい、話は一段落したか?ジェクトの行方がまだわからない。心当たりを知りたいんだ」





その時、話の途中で少しその場を外し辺りを見てくれていたバッツが戻ってきた。

この場で逸れていたのはアーロンだけじゃない。
ジェクトさんもだ。

きっと、この場所はジェクトさんにとっても思う事が色々あるはず。

もし…ジェクトさんは向かうとするならば。
そう考えた時、アーロンは先にある建物を指差した。





「それなら、この先だろう。エボン=ドームと言ってな。何かと思い出深い場所だ」

「親父の奴、思い出に浸ってるのかよ」

「そうなってもおかしくない。ここは、俺の記憶のザナルカンドだ。ジェクトにとっても思い出深いことも多くあるだろう。だが、そろそろいいだろう。踏ん切りもついた頃だ。迎えに行ってやろう」

「思い出に浸ってアーロンみたいにこじらせてないか?」





バッツの言葉にちょっとだけ笑った。

こじらせ…確かにね!
気にする事なんかないのに、もつれさせちゃってね。

でも、ジェクトさんもそうかもしれない。
単独行動してるのが、何よりの証拠だ。

振り返って、思う事はきっとあった。

でも、その選択は無駄なんかじゃないって、ちゃんとジェクトさんにも伝えたいよね。





「そうしたらまた戦うまでッス!」

「ほっほ…、頼もしいの」





明るい息子に、ガラフは頷きながら笑ってた。
ほんと、さっすがエースだよね。

そうして全員でエボン=ドームの方を見た。

でもその時、アーロンがその話の腰を折った。





「だが、その前に…すまんが少しだけ、時間を貰えるか。ナマエと話がしたい」

「へっ?」





突然そう言われ、あたしは思わず間抜けな声が出た。

あ、そういや手、腕に回したままだ。
そんな事にもちょっと気が付いたけど、まあそれはいいだろう。

それよりも、えと…話?
今自分が行こうって言ったのに?

いやだからこそすまんって言ったんだろうけど。

あたしはまばたきしながらアーロンを見上げた。

でも他の皆は、あんまり驚いていなかった。





「構わんよ。話してくると良い」

「了解ッス〜」

「はい、いってらっしゃい。ナマエ、アーロンさん」





あっけらかんとお見送りされる。

え、なんか、え?

だって今さ、よーしじゃあ行くぞ〜って感じだったじゃん。
なのに、え、そんなサラッとした感じなの?





「…すまん。数分でいい。ナマエ」

「えっ」





アーロンに呼ばれる。
サングラスの奥と目が合った。

まだちょっと驚いてる。

でも拒否する理由は、別に無いわけで。
まあ、うん…。話したいって言ってくれてるなら。

あたしはこくんと頷いた。





「わかった。うん、それなら、あたしもアーロンに言いたい事あるし、言う」

「フッ…ああ、聞こう」





ジェクトさんも気になるし、早く行って互いにさくっと言いたい事を言ってこよう。

こうして再びあたしはアーロンと一緒に少しだけ皆の傍を離れたのだった。



END
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