その気持ちを分かち合いたい


「相変わらずしけたツラしてますね、オジサン?」

「…放っておけ」





並べた足。ひょこっと横から顔を覗けば、そこにあるのは相変わらずの浮かない顔。
いつもならこの辺でガンッて拳骨の一つでも飛んできそうなものだけど、今回はそれもなく返ってきたのは短い言葉だけだった。





「ひとりになりたかった?」





覗き込んだまま、あたしは尋ねる。
するとアーロンの足がぴたりと止まったので、あたしも合わせて止まった。

今、この場にはあたしとアーロンしかいない。





「…わからない」





アーロンはまた短くそう言った。

皆と一緒に歩いていたはずなのに、なぜふたりなのか。
それはアーロンが進む速度を緩め、ばれない様にそっと脇道に逸れたから。

まるで少しだけ、皆とは距離を置くように。





「…いや、皆と少し距離を置きたい気分だったのは事実だろう。だが…」

「だが?」

「お前の事は、どうなのだろうな…」





なんだか曖昧。
自分の事なのに、ふわふわした答えだ。

それにやっぱり、なんだか沈んだ声だった。

皆から離れていくアーロンの姿に、あたしだけ気が付いた。
というか、隣を歩いてて気が付かないわけがない。

どうなのだろうな…か。

ひとりになりたい、少し静かに考えたい気持ちだった。
だけど、あたしには隠さないでいてくれた。

それは、ついていくこと、許してくれていたのか、もしくは…望んでくれたのか。

曖昧なのは、アーロン自身にもわからないからなのかもしれない。

ひとりで考えたい気持ちだった。
でも、心のどこかで望んでくれていた…。

そう言う気持ちを抱いてくれたの、凄く嬉しく思う。
それに今、あたしはアーロンの傍にいたいから。





「ね、アーロン。少し、お話しようか」





あたしはそう微笑み、そして手頃な岩を見つけるとそこに駆け寄り腰を下ろした。
するとアーロンも異存はないらしく、大人しく傍へと歩み寄って来てくれた。





「ねえ、そんなに不安?ザナルカンドにいる事」

「…この場所では何が起こるかわからないからな」

「まあねえ。でも、なんか今はちょっと色々気にし過ぎな気もするけど」

「笑うか?」

「まさか。思う事いっぱいあるのはわかるもん。だからあたし、アーロンのこと探してた。アーロンがザナルカンドにいるなら傍にいたいって、そう思ったから」

「……。」





素直な気持ちを伝えた。
飛空艇からこのザナルカンドを見つけた時、あたしはそう思った。

だから早く捜さなきゃって、そう思ったのだ。





「ここ、本当にアーロンの意志の力が呼び出したザナルカンドなのかな?」

「どういう意味だ?」

「ん?案外あたしかもよ?だってあたしも後悔してるもん。あの時、あたしだけ此処に来られなかったから」

「…それはないだろう。お前は飛空艇から此処にたどり着いたんだろう。外から来たのなら、呼び出したのはお前じゃない。それに俺は、まどろむ中でザナルカンドの夢を見ていた」

「ふーん?まあでも、後悔してるのはあたしも同じだよ。だから別に、アーロンがひとりで抱え込むようなものでは無いと思うんだ」





この場所でのこと、後悔しているのはアーロンだけじゃない。
あたしも、きっとジェクトさんも少なからず色々と思う事はあるだろう。

アーロンにしてもジェクトさんにしても、あたしはその痛みを誰かにひとりにだけ背負って欲しくない。
分かち合えるのなら、一緒に持ちたいと思う。





「ねえ、アーロン。あたし、あの時アーロンの傍にいたかった…。いたって何も出来なかったかもしれないけど、それでも傍にいたかった。それはあたしの後悔なんだ。でも、だからね、今ちょっと嬉しかったりもするんだ」

「嬉しい?」

「うん。ここがアーロンの思い出のザナルカンドなら、傍にいられなかった時のザナルカンドってことだよね。やり直しじゃないけど、その場所で傍にいられるの、嬉しいなって」

「……。」

「一緒に考えたり、支えたり…ただ、そうすることだけでも、したかった。その痛み、一緒に抱えたかった…。だからね、今も、そうしたいの」





見つめて、そう話す。

一度、それは伝えた事がある。
ただ、傍にいたかったって。

あの時は、色々溢れて泣いちゃったけど。

でもいつだって本心。
あたし、アーロンの力になりたい。

だから今改めて、もう一度言いたかった。





「…お前は、本当に俺を甘やかすな」

「ん?」





すると、アーロンはそう呟いた。
聞えたけど、あんまり小さくいうからちょっと聞き返してしまった。

でもまあ、元気づけたいなとは思って話してるよ。

あたしはアーロンに励まされた事、たくさんあるから。
こっちだって、それを返したいって思う。

だけど、寄り添いたいって思っても、相応しい言葉探すのって難しいよね。

さて、あたしがアーロンに出来ることって何だろう。
どんな言葉がその光になるだろう。

すると、そんな風に考えていた時あたしたちはこちらに駆け寄ってくる足音に気がついた。





「あっ」

「………。」





足音はひとつ。
軽い、それは女の子のもの。




「クルル!」




あたしは彼女の名前を呼び、手を振った。
すると向こうも大きく振り返してくれる。





「えへへ、追いついちゃった!」





これは、少し空気を変える良い切っ掛けが来てくれたかも。

笑顔で駆け寄ってくるひとりの女の子。
足音の正体。やってきてくれたのはクルルだった。



END
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