傍にいない理由はない


セッツァーに飛空艇を下ろしてもらい、辿りついた見覚えのある地形。

本物じゃない。
だけど、本物と瓜二つ。

そこは、どこからどう見てもザナルカンド遺跡だった。

あたしたちは光の羅針盤を頼りに仲間たちの姿を探した。

どうやら向こうにも光の羅針盤はあるようで、引かれ合うように互いで歩み寄った。





「バッツ!アーロン!」





ティーダが叫ぶ。
光の羅針盤のおかげで、この地に降り立ってから再会まではそう時間を取らなかったように思う。





「ティーダにユウナにナマエ!それに皆も!」





駆け寄るあたしたちに手を振ってくれたのはバッツだった。
傍にはバッツの世界の仲間たちに、そしてアーロンの姿もある。

良かった、無事だった…。
姿が見られて、ほっとする。





「おーっす、アーロン」

「…ああ」





あたしは手を上げ、いつも通りに笑った。
アーロンも返してくれる。

でも、アーロンの様子はやっぱりどこか沈んでいるような…そんな印象を受けた。





「どうやってここへ来たの?まさか、歩いて?」

「僕たちは飛空艇を手に入れたんだ。そこに仲間を集めて回ってる」

「みんなのことも拾ってあげて、合流しようと思ってたんだ」





レナの質問を切っ掛けに、オニオンナイトやユウナがこちら側の状況を簡潔に皆に説明してくれた。

飛空艇があるから、出ようと思えばすぐにここから出ることは出来る。
ただ、此処を探索したいというのなら話は別だけれど。

そう言ったこちらの話に、今度はバッツとアーロンが今の状況を教えてくれた。





「ジェクトと逸れたんだ。置いてはいけない」

「それにこの地形…ただで帰るわけにはいかない」





アーロンは表情だけじゃなく、声もちょっと重苦しそうだった。
普段から別にハツラツと話すわけじゃないけど、今はそれがよくわかる。

というか、まあそりゃここでじゃあ退散〜って話にはならないよねって。

それは案の定というか、予想通りって感じだった。





「やっぱりここザナルカンドだよな?」

「奥に何が待ってるかわからない…」

「まあ、ちょっと不安になる場所ではあるよね」





順に、ティーダ、ユウナ、あたし。
この場所を知っている人間からすれば、不穏な気持ちにはなるだろう。
此処はそう言う場所だから。





「俺たちも行くッス!飛空艇で留守番なんてごめんだ」

「そうだね。ここがザナルカンドなら、奥に何かいるかもしれないし…そんなところにジェクトさんを置いて行っちゃうわけにはいかないよね」

「うん。アーロンも、何かもやもやしてるんでしょ?それならそれもスッキリさせちゃおうよ」





ジェクトさんだけ置いていくわけにはいかない。
アーロンも何かしら心に引っ掛かりがある。

それなら飛空艇に戻る前に、まずここを探索しよう。

あたしたちはそう言った。
するとそれを聞いたアーロンの顔はやっぱりどことなく暗くて、それにちょっと申し訳なさそうにも見える。

あたしはアーロンに歩み寄り、その顔を覗きこんだ。





「なーにしけたツラしてんのさ?」

「…ナマエ」





ふふ、と笑みを見せた。

わかるよ。尋ねてはいるけれど、わかる。
この場所では思う事がたくさんありすぎること。

でもそれをひとりで抱え込まないで、そんな顔してないでよって、言いたいのはそういう事だ。

するとアーロンはぽつりぽつりと零し始めた。





「このザナルカンドはおそらく俺の意志の力が喚び出したものだ」

「アーロンの意志の力?」

「無意識とは言え、俺の不注意で危険な場所を喚び出してしまった…」





なるほど…。
申し訳なさそうだったのはそういうことか。

でも別にこちら的にはそんなこと責めるつもり欠片も無い。

それを教える様にあたしはティーダとユウナに振り返った。
するとふたりも明るい言葉を並べてくれた。





「無意識でやったことを責めてもなんにもならないッス!」

「浮かない顔しているから心配していたんです。だけどアーロンさんの思い出のザナルカンドなら…ちょっと希望もあります」

「アーロンの選択あってこその俺たちの選択だもんな」





アーロンは何も言わず、あたしたちをこの地へと導いた。
そしてこの場所にたどり着いた時、あたしたちはアーロンの選択を目にして、自分たちの本当に望む選択をした。

確かに10年前の変わらぬ現実は辛くて苦しいものだったけれど、でもそれは決して無意味なものでは無いんだよ。

その言葉は、アーロンにも少し届いたようだ。





「俺の選択あってこそ…か」

「ユウナレスカに立ち向かったのも、究極召喚を拒んだのも…アーロンの経験があって選べたことだ」

「俺はここを失敗の地だと思っていた。今でもそう思っている。だが、新しい世代のお前たちは違うんだな」

「少しは元気出た?」





ニッと笑うティーダ。
その笑みにはアーロンも少し釣られたみたい。





「そうすぐには割り切れはしない。だが、覚えておこう」





まだ吹っ切れるはしない。
だけど、その選択は無駄ではなかったのだと、あたしたちには意味がある事なのだと、そうアーロンに伝わったなら良かった。





「安心しろよアーロン、ここからは俺たちも一緒だ」

「安心…か。心強い、と言っておこう」





フッ…とアーロンの表情に少しだけ余裕が戻る。
あたしはそんなアーロンを見上げて、トン…と軽くその堅い胸板を叩いた。





「同じ世界にいるもの。それなら、この瞬間に傍にいない理由なんてないよ」

「…そうか」





あの時は…ひとりで残されて、抱えて、苦しかっただろう。

あたしは、そんな背中に寄り添えなかった。
ただ傍にいて、一緒に考えたり、支えたり、痛みを分けあったり、そう…したかった。

今はそれが出来る。傍にいられるんだ。

そう伝えて、あたしもまた笑顔を向けた。



END
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