逸る気持ちを抑えて


あたしたちは安息の大地を守るために闇のクリスタルを救おうとした。

でも間に合わず、クリスタルコアは神竜に食われた。
そしてそれは別の何かとして生まれ変わり、今あたしたちを世界に留めている。

あたしたちはスピラを含め、元の世界に帰る事は出来なかった。
皆、まだこの世界に…安息の大地に囚われたまま。

だけどこの場所は安息の大地には変わりないけれど、また…新たな世界でもあった。

そこで目覚めたあたしたちは、一度バラバラになってしまった。
だけど、再び、少しずつ再会を果たしはじめている。

比較的元居た世界が同じ人とは再会しやすいらしく、ティーダやユウナとはすぐに再会することが出来た。

新たな飛空艇も手に入れた仲間たちもいて、それに拾って貰えたあたしたちはだいぶ移動が楽になった。

だけど、そうして再会出来つつある中で…引っ掛かったこともあった。





「同じ世界の仲間が集まってるのに、ジェクトとアーロンだけ見当たらないけど」





今、あたしたちは現在集まっている仲間内での情報を共有するために甲板の上で話をしていた。
その時、あたしたちのグループを見たヴァンにそう言われる。

それが、あたしたちにとっての引っ掛かったことだった。





「それが、どこ探してもいなかったんだよな!どこかでフラフラしてると思うけど」





答えたティーダにあたしやユウナも頷いた。

比較的元居た世界の仲間が集まりやすい。
だけどあたしたちが目覚めた大地では、アーロンとジェクトさんだけ見つけることが出来なかった。

ふたりは死人だ。でもきっと、まだこの世界にいるはず。

というより、死人だからこそ、あえてこちらを探す必要は無いと向こうが思っているのだろうなと思う。
あのふたりならそんな事を考えそうだと、そんな考えは読めた。

別に再会を拒んでるわけじゃないんだろうけどね。





「…あっ!?」





するとそんな時、突然ユウナが飛空艇の外を見て声を上げた。
あたしは振り向く。





「ユウナ?…あ」





どうしたの、と聞こうとして、でもその言葉は消えた。
だって聞かなくても驚いた理由がわかったから。

今、この飛空艇の飛ぶ下に広がる地形…。





「ナマエ…あれって!」

「うん…ティーダ!ちょっと!」

「ん?なんスか?」

「ほら、あれ!」

「見て、下!あの地形は…」





ティーダにも声を掛け、あたしたちはその場所を指差した。
それを見るとティーダの表情も変わる。





「本当だ!見覚えがある!セッツァー!停めてくれ!」





ティーダは飛空艇の操縦をするセッツァーにそう呼びかけた。

そこに広がっていた地形は、スピラにあった場所。
そしてあたしたちにとって…ちょっと、ううん、凄く特別な場所。





「噂をすれば…ジェクトさんがいそうな場所だね」

「アーロンも見つかると良いけど」

「……。」





ユウナとティーダがそう話す中、あたしはじっと黙ってその場所を見つめていた。

目下に広がるその場所…。
その名は、ザナルカンド遺跡。

そこに、ジェクトさんとアーロンはいるのだろうか。
もし…そうだとしたら。





「…早く、探さなきゃ」

「ナマエ?」

「どうしたんスか?」





ちょっと、気持ちが逸った。
ユウナとティーダに声を掛けられても、止まない。

きゅっ…と拳を握りしめる。

アーロンもジェクトさんも強いし、見つからなくてもそこまで気持ちが焦るようなことって無かった。
そりゃ、早く会えたらいいなって無事を確認したい気持ちはあったけど、でも、きっと大丈夫だって思えていた。

だけど、ザナルカンド遺跡なら…意味が全く変わってくる。





「…アーロン」





そっと、呟いた名前。
傍にいるふたりにも届かないくらい、小さな声だけど。





《アーロンの、傍に…いたかった…っ》





あたしは願ったんだ。

全部結果論で、届かない過去。
でもね、思ったの。

あの日、あの時、ただ…貴方の傍にいたかったと。



END
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