鎧袖一触


強敵が次から次へと現れてくる。
倒しても倒しても湧いてくるみたいに。

言うなれば、ボスラッシュ。

あたしたちは今、そんな厄介な状況下に置かれていた。





「ああもうっ、鬱陶しい…!」





多分、こいつを倒せば終わり。
結構倒して、残り一体になって、割と削ったけどもう増える気配がない。

だからきっと、今目の前にいるこいつを倒せばきっと片が付く。

やっと見えた終わりにちょっとホッとした。
もう疲れて一刻も早く息をつきたい。

そう、わりと…もう限界は来ていて。

呼吸が乱れてる。
はあっ…と吐いた、一瞬の隙。

そこに、その残った一体…兵器ヘビーガンナーの銃口があたしに向いた。





「っ…」





吐いた息を最後に、呼吸が一瞬止まる。

あ…避けなきゃ…。
重たい足に力を込めて、その場から飛び出そうとする。

だけどその時、ヘビーガンナーの前に眩い光が現れた。

これ…アレキサンダーの、光…。
それは見覚えのある、よく知っている輝き。

あたしは眩しさに、少し目を細める。





「目に物見せるッ!!」





すると聞こえた勇ましい声。
それはすぐ傍で聞こえて、はっとして振り向けば隣にホープがいた。

彼はそのままあたしの一歩前に出て、掲げた手に魔力を込める。

すると光が一気に敵に降り注ぎ、ヘビーガンナーを跡形もなく消し去る。

倒し、た…。

その光景を見て、一緒に戦っていた皆もドッと息を吐く。
安心して座り込んだり、汗を拭ったり。

そして、トドメを刺したホープはくるっとあたしに振り向いた。





「ナマエさん、大丈夫ですか?」





そう聞いてくれて、微笑むホープ。
まるでさっきの厄介な状況が嘘に感じられるくらいのいつもの優しい顔。
だからちょっとだけ面を喰らったけど、あたしはすぐに頷いた。





「う、うん…ありがと、ホープ。ちょっと焦った…」

「ふふ、はい。役に立てて良かったです」





するとそう言いながらホープはあたしに近付いて来て、「連戦だったから念のため」と手を取って回復魔法を唱えてくれた。
体力的にはきついものがあったけど、然程傷は負っていない。だから「平気なのに」と言えば、「一応ですよ」と彼はまた笑った。

なんだか、よく笑うな。
楽しそうと言うか、嬉しそうと言うか?

その顔を見ていて、あたしはふとそんな印象を覚えた。

勝てたからかな?ホープがトドメを刺したから?

鎧袖一触。
さっきホープが決めた、必殺技。

意味は、容易く打ち負かすとか…そんな感じだったっけ。

トドメの一撃としては、本当お見事で、その名に恥じない圧倒的な力を見せつけた。





「目に物見せる…だっけ。随分勇ましい事言ってたね」





さっきの、あの光景を思い出す。

まずいかも…って、血の気が引いたあの瞬間、傍にいてくれたホープ。
一歩前に出て、瞳に映った背中は小さくて、でも頼もしくて。

するとホープはあたしの手を握ったまま言う。





「ナマエさんを狙うなら、容赦はしないって事ですよ」

「えっ」





じっと見上げて、吐かれたそんな台詞。

それを聞いたあたしは、多分目を丸くした。
それで多分…照れた、と思う。

すると顔を覗きこまれた。





「…もしかして、照れました?」

「…何でたまにそういうことサラッと言うかな…」

「図星ですか?」

「うっさいやい!」

「いって!」





照れ隠し。手を解いて、思わず脳天にチョップを喰らわせた。
小さいとこいう時凄く良い。…いや何処に価値を見出してるのかって話だけど。

…ホープだってよく照れたりするくせに、たまにこういうとこあるよなあ…。

はあ…と、ついため息が出る。
そうして見た彼の顔は、やっぱりなんだか楽しそうだった。





「…ねえ、ホープ。なんでそんなに機嫌良さそうなの?」

「えっ?機嫌良さそうですか、僕?」

「うん。なんかさっきから楽しそうと言うか、嬉しそうと言うか…そんなことない?」

「ああ…まあ、確かに嬉しくは…あるのかも」

「うん…?」





どうやら彼自身にも自覚と言うか、心当たりはある模様。
なんで?と首を捻れば、彼はあたしを見つめる。

…ん?

見つめられ、更に首を傾げる。

するとホープは眉を下げて小さく笑い、またあたしの手を取った。





「自分の手で守る事が出来るって、やっぱり嬉しいなって思って」





そう言ってホープははにかむ。

この世界に来て大人の記憶を取り戻した時、ホープは言っていた。
今ならライトを、あたしを…未来を、自分の手で守ることが出来ると。

ちゃんと手が届いて、自分自身の手で、出来る。

あたしは握ってくれるホープの手を見つめた。

さっき…守ってくれた。

この人は…自分のことを、必死に守ってくれようとする。
誰かにそんなに思われるって、なんだかこそばゆい。

でも、嬉しくて、すごく…あたたかい。





「…ありがと、ホープ」





あたしはお礼を口にした。
そのお礼の意味は色々。

助けてくれたことと、そしてその気持ちに向けて。





「はい、どういたしまして」






そう伝えれば、彼はまた嬉しそうに笑った。


END

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