敵対組織の工作員
「それでさ、リディアとローザに鞭と弓矢の使い方教えて貰ってたんだ。そんなに珍しい武器ってわけじゃないのにあたしたちの仲間では誰も使ってる人いなかったでしょ?だからなんか妙に新鮮でさ〜」
「ああ、確かに俺たちの中には居なかったな…それにしても、本当に武器の使い方とか覚えるの好きだよな」
「うん!好き好き!楽しいよ」
安息の大地と言われるこの世界にきてもうどれくらい経っただろう。
あたしは今、外を歩きながらクラウドとふたり、軽い雑談をしていた。
今話しているのは、この世界で出会った仲間たちの戦い方について。
この異世界では色々な人と出会う。そうして誰かと出会うたび、この人はどんな武器を使ってどんな戦い方をするんだろうと、そんな興味が湧く。
異世界の知らない武器を使う人もいれば、良く知っている武器でも面白い使い方をする人もいる。
あたしはそういうのを見るのが楽しくて、話を聞くことも大好きだった。
「で、それでリディアがさ、」
「ああ、…ん?おい、ナマエ」
「ん?」
「あそこ…」
「え?」
話の途中、急にクラウドが何かに気を留め、あたしの後ろに指をさした。
ん?と思い振り返ると、そこには何人かの仲間が集まっているのが見えた。
後ろ姿だけど…あれは、ヴァニラ、ケイト、ワッカかな?
「なにかあったのかな」
「行ってみるか?」
「うん」
集まっているからには多分何かあったのだろう。
ちょっと気になったあたしたちはどうかしたのかとその集団の方へ行ってみることにした。
「みんなー」
「どうしたんだ?集まって…」
近づいて、声を掛ける。
そうして覗き込めば皆はひとりの男の人を囲んでいるようだった。
…って。
そこに居た、その男の人。
その姿を見た瞬間、あたしとクラウドはギョッとした。
というか向こうもギョッとしてた。
「ク、クラウド!?ナマエ!?」
「ああ!?」
「レノ!」
互いに声を上げた。
って、いやいや…はあッ!?
皆が囲んでいたその男…そいつは赤髪で、黒いスーツに身を包んでいて。
今、クラウドが口にしたその名前は。
そこにいたのは人物は、あたしたちの知るタークスのレノだった。
「クラウドとナマエの仲間だったの?何聞いても全然答えてくれなかったんだよ」
あたしたちの反応を見たヴァニラがそう聞いてきた。
再会出来て良かったね〜!みたいな。
その笑顔が可愛いから、思わずウンと頷きそうになる。
けど違う!
それは違うんだよヴァニラ!
「いやいやいや!違う違う!!全っ然仲間じゃないから!!」
「え?」
あたしは腕でバツを作ってブンブンと首を横に振った。
その様子にヴァニラはきょとんしてた。
うーん…まあ確かにこういう状況なら仲間っていう発想になるのかもしれないけどさ…。
今までってだいたいそうだったし。
でもこいつは違うから!
「敵対していた組織の工作員だ」
誤解が進行する前にクラウドが手短にその関係性を皆に説明してくれた。
うん、さすがクラウド!手短な上にわかりやすい!
「敵対?!っつーことは…!」
敵、という言葉を聞いたワッカはレノと少し距離を取る様に一歩後ろに下がった。
うんうん。そうそう!
警戒しておくに越したことはないよ!!こいつとはそう言う感じの関係だから!
危機感を覚えてくれて何よりである。
でも、うーん…まあ、ね。
あたしは決して近づく事はせず、そのままの距離でじっとレノを見た。
まあ、レノたちってオンオフはキッチリしてるイメージはあるんだけどね。
そもそも神羅が無いこの世界だと、その辺ってどうなんだろう。
いや警戒はするけどさ。
するとどうやらクラウドも同じような事を思ったらしく、あたしたちは自然と顔を合わせた。
「ねえ、クラウド…」
「…ああ。どうだろうな…それはこいつの任務次第だ」
「じゃあ聞いてみる?ちょっとレノ!あんた何でここいんの!」
「相変わらず元気だなあ、ナマエ」
「元気ですけどなにか!?」
なんかくつくつ笑われた。
なんか、なんか…イラッ!!!
あたしが不快オーラを隠すことなく放出してやれば、レノは相変わらず笑いながらいやいやと手を振った。
「そこは安心してもいいぞ。今のところ、あんたたちとは関係ない」
「ほんと〜に〜ぃ???」
「ナマエちゃんからの信用度ゼロだぞ、と」
「信用あるとでも思ってんのアンタ!?」
「へへっ、だな。疑うのも無理はない。ま、知ってる奴がいて安心したぞ、と。異世界で争うのは避けたいからな。またどっかで会おうぜ」
レノはそう言って特に何もすることなくあたしたちに背を向けた。
神羅側とは、関わる必要が無いのであればそれが一番だと思う。
だから去っていくのなら、あたしは何も言わずにいようと思った。
「待った!」
だけどひとつ、呼び止めた声。
レノの足が止まる。
呼び止めたはケイトだった。
ケイトはじっとレノを見ながら言った。
「なーんか怪しいのよね…敵の工作員なら監視しといたら?」
「そういや相棒がいるって言ってたな。つーことはひとりじゃないぞ」
ワッカもケイトに賛同した。
どうやらあたしとクラウドが来る前にも何か話していたらしい。
レノの相棒…か。
となれば浮かぶ人物はただひとり。
ルードもこの世界に来てるってことか。
…ん?
けど、ちょっと待って。
監視って事は、つまりだよ…?
え、と思ってあたしはクラウドを見上げた。
「えと、クラウド…一緒に行動する、感じ?」
「…そうだな。こいつらが闇雲に動くとは思えない。ナマエはそう思わないか?」
「…思う」
「だな」
「…わかった、クラウドがそう言うなら」
「ああ。レノ、悪いが俺たちと来てくれ。不慣れな場所ならあんたにとっても好都合だろう」
「わかった。それで構わないぞ、と。てことなら、ナマエ、ヨロシクな〜」
皆の意見に従い、クラウドはレノに同行するよう声を掛けた。
レノもそれに同意し、あたしにひらひら手を振ってくる。
あたしは思いっきり顔をしかめてやった。
いや、わかる、わかるよ!?
監視してた方がいいってのはさ!
でもね、こうあたしはレノとは相性がいいとは思えないわけね?!
「あ、ナマエ。ポケットに飴入ってたけどいるか?」
「いらん!!」
「そりゃ残念。餌付け失敗だぞ、と」
「ああ?!」
なんだこのやり取りは。なんか既視感あるぞ。
確かこんな会話をウータイでもしたような気がする。
あたしは変わらずに不機嫌オーラ大放出。
するとそんな様子を見ていたヴァニラが小首を傾げてこう言ってきた。
「なんかナマエ、あの人と仲良し?」
「はい!?全っ然!!全っ然良くないよ!?」
ブンブンブンブン、思いっきり首を横に振る。
敵対組織って言ったよね!?
なんでそれで仲良し!?
するとワッカがそれを見て笑う。
「なんかアレだなあ、いっつもクラウドとかに接してる感じでは犬みてえだなって思ってたけど、今は猫が毛を逆立ててる感じか?」
「お、そうそう。引っ掻いてくる猫を懐かせる感じだぞ、と」
「顔中引っ掻いてやろうかおまええええ!!」
なんかノッて入ってきたレノ。
ほらほらほら!こうなるじゃないか!
なんかやっぱりレノとは相性がよくない!イラッとモヤッとが募るこの感じ!
一緒に行動するとなると、これがしょっちゅうってことじゃん!?
ええ、ええそうよ!あたしはクラウドに対してはブンブン尻尾振りますよ!大好きだもん!
でもレノに懐く日なんてぜーったいこない!
あたしはレノにべーっと舌を出す。
そしてくるっとレノに背を向けてクラウドに愚痴った。
「うう、やっぱあたしアイツ嫌だあ…」
「……。」
振り向いてレノを指差して見たクラウドの顔。
その顔はちょっとしかめられていた。
…はっ!!
こ、これは!呆れられている…!?
「う…ご、ごめんなさい…」
「え…?なんで急に謝るんだ?」
「え…?呆れてない…?」
「呆れ?…てないけど。急にどうした?」
ううう…レノが絡むと毎回こんなんになる…。
そう思っておずっと聞いてみたけど、クラウドは軽く首を傾げてた。
…これは、大丈夫そう…?
でもなんか、いややっぱりなんか…。
あたしはちょっとズーン…とした。
するとレノはクラウドを見てフッと笑った。
「本当、相変わらずだな、と」
「……。」
相変わらず…?
そう笑うレノにクラウドはさらに顔をしかめた。
そんな様子にレノはまたくつくつと笑ってた。
「ナマエは仲良さそうだけど、私たちはどうしたらいい?」
「仲良くないって!?」
とりあえずレノの同行は決まったけど、敵対組織の人間なら…とヴァニラがその接し方をクラウドに尋ねていた。
でも最初の一言、それ余計だよ!?仲良くないよ!?
またもブンブン首を横に振るあたしの横で、クラウドはみんなに冷静に答えていた。
「工作員と言っても荒っぽいこともする連中だ。マーテリアが呼んだ以上、戦力として扱おう」
確かにタークスは戦闘能力も高いから、普通に戦力にはなるはず。
クラウドがちらりとレノを見れば、レノ自身肩をすくめながらも否定はしなかった。
「はー、まさかレノと…あとルードもっぽい?タークスまでこっち来るなんて思わなかったよ」
「まぁ、考えてみれば可能性としてなくはない話ではあったな」
「はー、ティファ達もびっくりしそー…」
ひとまずレノの事を他のみんなにも伝えるべくあたし達は一度飛空艇の方へ戻ることにした。
道中はクラウドとふたりで色々話しながら。
神羅って括りの中では、多分タークスは話が出来る方なのだろう。
命令には忠実だけど、それが無ければ戦闘することもなかったり、まぁその辺はきっちりしてるしね。
宝条とかそんなんじゃなくて良かった…とは思う。
でもねー…やっぱりこう、こう、ねっ…!!
「はあー…まぁ確かに味方として戦ってくれるなら良いかもだけどさー」
「あんたレノに好かれてるよな」
「好かれてる!?おちょくられてるの間違いでは!?」
「おちょく…どのみち気に入られていなければ構われることは無いんじゃないか?」
「ええー…」
「…ふ、ははっ…露骨に嫌そうな顔だな?」
「そりゃそーよ!!」
まったく!クラウドまで何を言うか!!
むすーっと不機嫌丸出しにしてみると、クラウドは軽く口元に手を当てて笑った。
クラウドが声を出して笑う。
そんな姿にちょっとキュンとしたのは、惚れた弱みというかなんというか…。
それで少し機嫌が良くなったあたしは、ホントにすごく単純だろう。
END