たとえ世界が違っても
「…これほどの傷を負って尚、消失を許されない…か…」
利害の一致、だったのだろうか。
この世界を支配し、破滅へと導こうとするアーデンに手を貸したシーモア。
あたしたちはそんな彼と戦い、そしてシーモアは膝をついた。
「死の無い世界に救いは無い。安らぎなど無い…」
「消えたいのか。異界送りの無いこの世界でも…」
「スピラでは永遠になるって言ってた。何考えてるかわかんないッス」
まるで消えたいみたいな口振り。
そんなシーモアにアーロンやティーダがそう言う。
するとシーモアは膝をついた状態でふたりを軽く睨んだ。
「美しい思い出として残るものは過去の誤りを理解することは無い。このような身を生かした神々。そして、その理を維持する偽りの王。…傲慢な!」
美しい思い出として残る…。
シーモアから見たアーロンやティーダは、そう見えるのだろうか。
そして今の自分自身をどう見てるのだろう。
でも、そうして歪みを選んだのはこの人自身だ…。
死による救いを押し付けてる。
確かにこの世界の神様の行動やアーデンに対して思うことがないは言わないけれど。
傲慢…か。
「…よく言うのね」
「同族嫌悪だろ」
それを聞いたあたしはティーダとそうため息をついた。
「おい、理を維持するってどういう意味だよ?」
その時、ノクトがそう聞いた。
するとシーモアは少し意外そうな顔をする。
「おや…そちらの戦士から説明を受けていないのですか」
シーモアが目を向けたのはゴルベーザだった。
ゴルベーザは快くこちら側に付いてくれたスピリタスの戦士のひとり。
他の視線も自然とゴルベーザに集まり、それを察したゴルベーザは簡潔に説明をしてくれた。
「現在、安息の大地を維持しているのは闇のクリスタルコアだ。大地がアーデンに支配されている以上、戦士が重傷を負っても消失しないのは…」
「アーデンのせいなのか…」
この世界のルール…現在、その理を握っているのがアーデン。
自分の世界の敵ということで、ノクトは何とも言えない表情をしていた。
「なら、その男を倒した後はどうなる?俺たちはそれぞれの世界に帰るのか?」
「安息を必要とするものはここに留まり、そうでない者は元の世界に還る…。安息の大地の本来の姿に戻るだけです」
クラウドが尋ねると、今度はシーモアが答えた。
元の姿…。
アーデンを倒せば、この世界があるがままの形に戻る。
「アーデンを倒す。そうすればあんたも眠れるだろ」
「…そのように祈りましょう。私は敗残者。その力でも必要であればこれまで通り座標でお呼びなさい」
それだけ言い残すとシーモアはその場から消え、去っていった。
「スピラに帰る日の事など、改めて考える機会も無かったが」
ティーダと共に先頭でシーモアに向き合っていたアーロンはみんなに振り返りそう言った。
確かにアーロンはスピラに戻ったら…なんてことを考えて戦ってはいなかっただろうなと思う。
ずっとこの世界にいるとは思ってない。いつかは…とは思いつつ、でもやっぱりいつかだ。
明確にそのゴールが見えていたわけではなかったし。
「記憶も取り戻せるんだろうな」
「世界の歪みは正され、輝きはあるべきところに還るだろう。マーテリアとスピリタスは本来の力を取り戻せば世界を立て直すと」
「じゃ、それが目標だ」
クラウドにゴルベーザにノクト、皆が話す。
目的は、アーデンを倒すこと。
その目的はそのまま。
でもちゃんと、意味を持って定まっていく。
「しばらく休憩もできる?」
「そのようだな。詳しくは明かされなかったが。戦士に償いをしたいとマーテリアは思っているようだ」
ティーダが聞けば、ゴルベーザは頷いた。
みんなそれぞれに事情がある。
その希望を叶え、思い、考える時間もとれるであろうと。
「安息を望まなければ元の世界の理に従い、それぞれの命もまた本来の姿に戻る、か。いずれにせよ、希望になりえる話だ。皆に伝えると良いだろう」
そしてアーロンはそう言った。
皆それぞれ望むことは違う。
だけど、エースたちのように元の世界に居場所がないことに今思い悩んでいる子たちにもまだ時間を作ってあげられる。この世界を望むことも出来るみたいだから。
クルルやガラフのように、この世界で再会できた大切な人との時間を惜しむことも然り。
クラウド達は頷き、それを伝えるべく一度、皆のもとへと戻っていった。
「…ノクト、玉座に戻るって言ってた。それも皆に伝えるのかな」
その時、そうして戻っていくノクトの背中を見て、ティーダがぽつりと呟いた。
あたしとアーロンはそんなティーダに目を向けた。
「それはそう、じゃないかな…?」
「今のノクティスならそうするだろうな。なぜだ」
「ここで仲良くなった奴ら、寂しがるだろうなって。変だよな。皆事情は違ってさ、自分の世界の事じゃないのに。心配になったり、悲しかったり、理不尽な事にムカついたり…色々喧嘩だってしてきた。それなのに、今も気になるんだ」
ティーダは俯いていた顔を上げ、そう心情を口にした。
ノクトは、エースたちと同じで元の世界ではもう…。
ノクト達の世界イオスを救うためには、真の王たるノクトの力が必要だった。
そしてそれは、ノクトの命と引き換えとなるものだった…。
そしてノクトは、それを受け入れた。
今も…元の世界に戻って、玉座に戻ると言うのは…そういうこと。
だけど、それを寂しいと思う。
ここで仲良くなった人…勿論それは、ティーダ自身も含めて、だ。
「仲間、だろう?」
「そうかな。そういうことでいいのかな」
アーロンがそう言えば、ティーダは軽く首を傾げる。
世界や事情が違っても、この世界で会った仲間。
だから心配するのは自然な事。
「ティーダだって、スピラとは違う人だったけど、スピラで出会った人たちのこと心配してたでしょ?仲間だって、言ってたじゃない」
「…うん」
スピラでの旅だってティーダにとっては異世界みたいなものだったろうに。
仲間が行ったら放っておけない。
あの旅の中で、ティーダ自信が言っていた言葉だよ。
するとティーダはちらりとあたしの事を見てきた。
「あのさ、ナマエは…」
「ん?」
「あー…ごめん。やっぱいいや」
「は?」
ティーダはあたしに何か尋ねかけて、でもやめられた。
何か物凄い不完全燃焼な。ていうかそこでやめたら気になるし!
あたしは顔をしかめた。
「いやいや、意味わからんよティーダくん」
「いや、なんかちょっと…聞いたらデリカシーに欠けてる気がして」
「何!?ちょっとアーロン!ティーダがデリカシーとか気にしてる!」
「ああ、少しは成長が見られるようだな」
「…あんたら、なんでこういう時だけ仲良しなんスか」
デリカシーとか言い出したから、アーロン巻き込んでちょっとからかった。
わりとアーロンも乗ってくれたから面白くてへへっと笑った。
んー、でもデリカシー…。
まぁシンプルには、あたしから見てもスピラは異世界だって話だよね。
「スピラはあたしにとっても異世界だったけど、どう思ったかって?」
「いやまあ…ウン」
おずっと頷くティーダ。
デリカシー、ねえ。
まぁアーロンのこともあるし、アーロンのことを考えるならその状況は少しノクトとも似ていて。
色々思うことがあったっていうこと自体は、ティーダも知っていることだから。
だからちょっと、聞くのはアレかなって思ったんだろう。
玉座に戻るノクトと、それを聞く異世界の仲間たち。
残される方の気持ち、か。
…ティーダは居なくなる側だったしね。
「…あたしは、自分の世界の事じゃないけど、寂しかったし、悲しく思うよ。だけどそれだけじゃない。楽しいこともあったし、たくさん助けてもらって、自分も何か返せたらって思ったりもする。ノクトのことも。ブラスカさんにジェクトさん…アーロン、それにティーダの事もね」
「……。」
「ナマエ…」
あたしは素直にそう答えた。
笑みを浮かべて。だってそう思えるくらいに大切に思えるのは良い事だと思ったから。
一緒に旅した、大切な人達。
もうどうしようもない現実に、苦しくて、悲しくなった。
どうにかしたいって、何度も思った。
「世界が違っても、仲間…だったから」
そう言ったとき、ちょっとアーロンを見た。
目が合うと、ふっと笑ってくれる。
それを見て安心した。
その頷きは、そうだな、って言ってくれていたから。
あたしは、戦闘能力も高くないから足手まといだなって思う事も多い。
異世界って何となく存在と不安定で。
だから仲間だって言ってもらえるのが、自分がその中にいられるのが、凄く嬉しいと思うのだ。
「だから、全力で楽しむのだろう?」
「…うん!」
アーロンが尋ねてくれた。
前にアーロンに言ったこと。
あたしはこの世界を、皆といられる時間を、目一杯楽しみたいって。
しっかりと頷く。
するとそんな様子をティーダは「ふーん」と言って見ていた。
あたしは首を傾げた。
「なに?」
「いや。なんかやっぱ、わかってるんだなって思っただけ」
わかってる…。
そう言われ、あたしはアーロンを見た。
するとアーロンはティーダに言った。
「わかってなどいないさ」
「え?」
「ただ、理解したいとは思うがな」
アーロンはそう言ってフッと笑った。
…知りたいって思うけど、わからないことなんて沢山ある。
あたしがアーロンの事。
きっと、逆も然り。
理解したいと思ってくれている、か…。
「うん」
あたしは小さく笑って、その言葉に頷いた。
そう。全部なんてきっとわからないけど、理解はしたいと思う。
そうすればきっと、一緒にいる時間を、相手の為にもっと大切にできると思うから。
「いずれにせよ、限られた時間だ。みなが納得いくように使えばいい」
そう言ったアーロンにあたしとティーダは頷いた。
その人の時間はその人のものだもの。
それぞれが思うまま使う。
そして何かしら、納得出来ればいいと…そう心から思えていた。
END