褒め言葉


「クポ〜ッ!助けてクポォ〜ッ!」





探索をしていた洞窟の中、ふいに悲鳴が聞こえた。
可愛らしく、特徴的な語尾でその悲鳴が誰のものかはすぐわかる。

それを聞いた時、あたしだけじゃない、その場にいたその悲鳴に全員がハッとした。





「むむっ!?これはモグ殿の悲鳴!」

「大変よ!モグが魔物に襲われているわ!」





辺りを見渡すヤンと、弓使いの為に視力に自信のあるマリアがすぐにモグの姿を見つける。
マリアの指差す先を見れば、じりじりとモグを追い詰めていく魔物の姿が目に入る。

あれ、しかも結構厄介な奴じゃん!





「ええっ、ちょ、モグ…っ!」

「助けるぞ!走れ!」





あたしが狼狽えたとほぼ同時にアーロンがそう叫んで走り出した。
その声を合図に他の皆も一斉に駆け出す。あたしも慌てて追いかけた。





「クポ〜ッ!モグは食べてもおいしくないクポ〜!」





じりじりと詰め寄られ為す術の無いモグがまた悲鳴を上げる。
それは聞こえているし見えているけど、これ、ちょっとまずいかもしれない…!





「いかん!!距離が離れていて間に合いそうもない!!」

「そんな…!モグーーーッ!!」

「ナマエ!届くか!」

「うっ…ごめん!遠くて下手したらモグ巻きこんじゃう…!」





ヤンとマリアが叫ぶ中、アーロンに魔法が届くか聞かれたけど正直この距離だと確実に魔物だけ仕留められる自信が無かった。
でも、このまま何もしなくてもモグがやられちゃう。

本当にやばい!どうしよう…っ!
そんな焦りで心が一杯になる。

だけど、その時だった。





「やっほー!ここまでおいで〜!おーい!デカブツさん!こっちこっち〜!」

「わたしたちがお相手しますわよ!」





洞窟の中に響いた幼いふたつの声。
その声はモグの傍で聞こえた。

タタッと駆け出し、モグと魔物の近くに現れたふたつの小さな影。

え…あれって。





「パロム!ポロム!?」





あたしは驚きながらその子たちの名前を口にした。

小さなふたりはモグから敵の注意を逸らすように軽い挑発を繰り返す。
するとその声や動きに反応し、見事に敵の注意を引いてくれた。





「アーロン!今の内だ!」

「モグを助けてあげて下さい!」





そしてこちらに向かい、そう叫ぶ。
パロムに至っては手を振るくらいの余裕ぶり。

それを見たアーロンは小さな笑みをこぼした。





「フッ、あいつらめ…」





あ、感心してる。
そうわかる感じの笑い方。

ヤンが「わかった。あとは私たちに任せよ!」とふたりに叫べば、アーロンも応えるように太刀を構える。





「ナマエ」

「!、あ、うん、ファイガ!」





名前を呼ばれた。
今度は狙うんじゃなく、太刀に灯せと察する。

あたしはすぐに太刀に炎を放った。

するとその瞬間、アーロンはヤンと共に駆け出し、魔物に斬りかかっていった。




「クポォ…危ないところだったクポ〜…」

「モグさん、大丈夫ですか?」

「この通りピンピンしてるクポ!パロムとポロムのおかげなのクポ〜!」

「えっへん!オイラたちに感謝するんだな!」

「こら!おごり高ぶってはいけません!」




無事、難を逃れるとモグはパロムとポロムの傍を飛びお礼を言っていた。
えへんと胸を張るパロムと、調子に乗るなとそれを怒るポロム。でもふたりとも共通して嬉しそうだ。

緊迫は去って落ち着いたのもあるけれど、そうして笑っているふたりの姿を見るのは何だか微笑ましい。

あたしはよしよしと、ふたりの頭を撫でていた。





「でも、本当にお手柄だったわ。私たちだけではとても間に合わなかったもの」

「ああ。身を挺して仲間を守るなどそう簡単に出来ることでは無い」





マリアとアーロンもふたりをそう褒める。

おお…アーロンが凄くストレートに褒めてる…。
なんて、なんかそんな感想を覚える。いや意味不明なのは百も承知だけど。

でもさ、こうちょっとアーロンって捻くれてるじゃない?
多分そんな事言ったら拳骨飛んできそうな気がするけど。





「…思えば、元の世界でも似たような出来事があったものだ。迫りくる壁に押しつぶされそうになった私たちをふたちは命がけで救ってくれたのだ。自ら石化することによって…」

「そういえば、そんなこともありましたわね…」

「まっ、あんときは必死だったからな〜!」





そしてヤンが元の世界でもふたりが窮地を救ってくれた話をする。
その時もふたりは身を挺して仲間を守った。

そんな話を聞けば、本当に大したものだよなあって気持ちは膨らむものだ。





「すごいわ…ふたりの勇気、私も見習わなくちゃ」

「フッ、将来が楽しみな双子だ…」





マリアは感心し、アーロンも期待するようにまた笑う。





「ありがとうございます!これからもみなさんのために頑張りますわ!」

「なんてったってオイラたちは天才だからな!」

「パロム!おごり高ぶってはいけないと言っているでしょう!」





そしてまたはじまるいつものやりとり。
でも皆から褒めて貰えば、やっぱりふたりの顔は嬉しそうだった。

そうしているとパロムがちらっとあたしの事を見上げてきた。





「でもさ、ナマエねえちゃんは魔法の威力はすげーのにイマイチ生かしきれてないよな〜」

「うるせーですよ」

「いてっ」





なんか急に駄目だしされた。いや図星なんだけど。
あたしは目線を合わせるようにしゃがんで、パロムの額をていっと突いた。

ポロムも「パロム!!」なんて怒りながらポカッとパロムの頭を叩いてた。
ありがとうポロム…!!

まあ、軽いおふざけだ。
こんなやり取りが出来るくらいには仲良くなったよね。

するとそれを見たアーロンが追い打ちをかけてきた。





「フッ…まったくだな。宝の持ち腐れだ」

「アーロンうるさいっ」





あたしはアーロンを見上げ、いーだ!みた感じで軽く睨んでおいた。
前も言われた気がするぞ宝の持ち腐れ!!
アーロンは「フン」と軽く鼻で笑ってたけども…。

でも、まあ…。
そのままちょっと、見て思った。

いやね、マリアは勿論だけど、アーロンみたいなタイプに褒められるのって、やっぱ嬉しいものだよなあ…とは思う。
世辞は無いし、実力はある人だし…。

パロムもさっき「アーロン!今の内だ」って言ったでしょ?
あれってアーロンは頼りになるって思ってるから出たんだろうし。

まあ、実際この双子ちゃんは本当に凄いんだけど。
小さいのにとんでもない魔法の腕してるもんね。

それはまさに天才、と言うのにふさわしい。





「なんだ」

「ううん」





見てたら怪訝な顔された。
本当、失礼なおじさん。

あたしは首を小さく横に振る。

でもま、そう。
たまに褒めてくれるのが、凄く嬉しいんだよなあと…そんな気持ちは知っていた。


END
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -