もやもやきもち


《うーん…スノウはセラがいるし、まさか超年上好きでサッズって事もないだろうし》





元の世界にいた時、ヴァニラさんはそんなことを言った。
僕は今、ふっとその言葉を思い出していた。





「わあ〜クラウドの剣って本当おっきいね」

「まあな」

「ふふふ、あたし絶対持てそうにないや〜」





明るい笑い声を耳に届く。
僕の耳はその明るい声を特別によく拾ってしまう。

その理由は簡単。
それは彼女が僕の好きな人であるからだ。

突然に飛ばされてしまったこの異世界。
僕はそこで彼女…ナマエさんと再会することが出来た。

会いたかったと伝えれば、ナマエさんもまた同じように言葉を返して微笑んでくれた。
見知らぬ場所で不安は大きかったけど、その瞬間僕は凄くホッとした。

ナマエさんの傍に居られることは、僕にとって何より嬉しい事だから。

だけど、そうして再会した今…僕には一つ、悩みがある。





「ナマエは戦いとは無縁な世界で育ったのかい?」

「うーん、まあそうだね」

「でも魔法を使う事は出来るんだね」

「いや〜前は使えなかったんだよ。でもちょっと色々あってね〜」

「そうなのか?でも、平和なのは良い事だね。羨ましいよ」

「セシルも話してると穏やかだよね〜。戦闘だと勇ましくてびっくりするよ〜」





この世界では僕たちと同じように、ここに迷い込んでしまった人たちがいる。
文化はそれぞれ違うけれど、皆いい人達ばかりだからとても心強く思う。

だけどそれは同時に、ちょっとした不安も孕んでいた。

繰り返すけれど、この世界で出会った人たちは良い人達だ。
ナマエさんもあの通り彼らと楽しそうに話している。

でも、それを見ていると…僕は何となく落ち着くことが出来なかった。





《うーん…スノウはセラがいるし、まさか超年上好きでサッズって事もないだろうし》





いつかヴァニラさんが言っていた言葉。
そう、元の世界で旅していたスノウやサッズさん。

まあ、言葉の通りでスノウにはセラさんがいて、サッズさんは息子がいた。

何と言うか…あまり意識した事無かったんだけど、僕ってその事実に結構余裕を持っていたんだなと今凄く実感した。

だって、この世界はどうだろう。
この数分でナマエさんはクラウドさん、セシルさんと話していた。

いや、それは別に悪い事じゃないんだけど…。
ふたりともいい人だし、それに強くて頼もしい。

それを僕自身実感していて…いや、実感して正直凹んだ。

ナマエさんは、僕といるとホッとすると言ってくれた。
この上ない凄く嬉しい言葉だった。

でも、僕は年下だし、全然強くなんかない。
お世辞にも頼りになるとは言えないであろうことは嫌でもわかっている。

だけど、この世界には格好良くて強くて頼りになる人がたくさんいて…。

うん…。
正直、物凄く気が気じゃなかった。





「な〜に、手の届くところにいれば俺が守ってやるさ!頼りにしててくれよ!」

「ええ〜!本当、ジタン?」

「もっちろん!ナマエみたいな可愛い子、放っておけるわけないだろ?」

「かわいい…あっは、もうやだな〜!お上手だねえ」

「いやいや!嘘なんか言わないぜ?」

「ええ…じゃあ…あ、ありがと」





今度はジタンさんと話しているナマエさん。
その会話を聞いて僕のモヤモヤは色を濃くした。

く、口説かれてる…。

それを見たら、なんだかズーン…と気分が重くなった。





「ホープ?」

「…え?」





軽く俯いていた。
すると、すぐ傍で名前を呼ばれた。

その声に顔をあげると僕は驚いて目を見開いた。

そこにはナマエさんが立っていた。





「ナマエ、さん…」

「どしたの、俯いて」

「いえ…大したことは」

「そう?」

「…あれ、ジタンさんは?さっき話してましたよね?」

「ん?ああ、ビビのところ行ったよ。ていうか見てたんだ?」

「まあ…」

「あはは!本当口が上手いよね〜ジタンってば」





そう言ってへらっと笑うナマエさん。
その笑みはどことなく嬉しそうだ。多分嫌な気はしていないのだろう。

目の前でこうして話していると、ああやっぱり好きだなあとか思う。
なんだか欲張りかな。例えば手を引いて、僕のものです…なんて言えたらいいのに。

でもそんなこと言えるわけも無く。

…心が凄く近づいた、そう感じた事はあるけど…実際はとても曖昧な距離。
これ以上はなれる気も、でも近づく勇気も無くて…。

だけど…そう、嫉妬だけは顔を覗かせる。





「…ナマエさんは、可愛いですよ?」





口が上手い、そう言った彼女を見上げて僕はそう呟いた。
もしかしたら少しの対抗心だったのかもしれない。

まあ、でも実際に本心だ。

すると、ナマエさんの顔から笑みが消えた。
代わりに浮かんだのは、赤く染まった頬の色。





「っ…な、なに…言ってんの…?」

「……。」





隠す様に手を顔の前に持ってきたナマエさん。

それはさっきとは全然違う反応。
その様子を見た瞬間、心のモヤが少しだけ晴れた気がした。





「ふっ…あははっ!」





軽くなって、そうしたら思わずふっと笑ってしまった。
だけど自分を見て笑い出した僕に、勿論ナマエさんは黙っていない。





「っ、何笑ってんのさ!」

「あはっ…だって、ふふふっ…」

「…ホープも結構調子いいよね。本当絶対あんた将来女の子泣かすよ」

「なんですそれ!僕は思ったこと言っただけですから」

「っもういいよ!」





やめろ!って叩かれた。

ちょっと痛かった。
でもそんなやり取りは楽しくて、なんだか少し、吹き飛んだ。



END

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