どうあったとしても
「巨大な塔でござるな。魔物の数も多いでござるし、一向に頂上が見えぬでござる」
「この辺りの魔物などはまだ雑魚だ…先を急ぐぞ」
「魔物たちをザコ扱いかよ!伝説ってのはダテじゃねえな!」
「アーロン殿は見事な剣の腕のみならず胆力も備えているようでござるな」
「うむ。まったく、共に戦っていますと私の鍛錬にも身が入りますぞ」
この世界で再会してすぐの頃、アーロンは再会したその塔の先を進む道中、ものの短時間で皆からの信頼を得ていた。
ゼルが感心して、カイエンとヤンが一目置く。
確かにアーロンは強い。物凄く物凄く強い。
また一緒に戦って、心強さを感じるのは事実だった。
でも、べた褒めだなあ…。
そんなことを思ってしまうのはそれなりにこのおじさんの事を知っているからかな。
「みんなベタ褒めしすぎ…」
「だーよねー…」
すると、そんなあたしと同じことを考えていたらしいティーダが息をついたので、あたしも合わせて頷いてみた。ティーダは「なー」と応えてくれた。
「ふふ、アーロンさんが一緒に来てくれて、私たち本当に助かりました。こんなところで偶然会えるなんて、奇跡ってあるんですね!」
そしてそれを笑いながらただ純粋にアーロンとの再会を喜ぶユウナ。
確かにこんな高い塔のなかで会えたのは運が良かったような気も…。
そう思っていると、アーロンはゆっくり首を横に振りその言葉を否定した。
「奇跡などそうそう起こりはせん。お前たちがここにいるように俺が此処にいる理由もまた存在する。」
「…どういうことでしょう?」
言い方が回りくどくてわかり辛い。
ユウナも軽く首を傾げる。
するとそこでピンと来たらしいゼルがハッとしたように問う。
「ひょっとしてアンタ、俺たちをずっと尾けてたのか?」
「ほう。見た目によらず鋭いな」
尾けていた…。
その指摘を受けたアーロンはフッと笑う。
「その通りだ。俺はこの塔に来てしばらくお前たちの様子を覗っていた」
そして肯定。
正直それを聞いた時、あたしは思わず「はあ…?」なんて零してしまった。
いやいやだって尾けてたってどーゆ事だって話じゃない。
ティーダはアーロンに文句を言った。
「なんでもっと早く出てこないんだよ!ユウナがピンチになっても良いのかよ!?」
「見極めるためだ。ここはスピラとは違うからな。それに…お前が守るんだろ、ユウナを?」
「そりゃそうだけど…」
自分がユウナを守る。
それは紛れもない事実で、ティーダの決意だ。
言い返され、それはそうなのだが、いやそうだけど…と言い返す言葉に悩んでるティーダ。
その様子にあたしは軽く苦笑いした。
まぁ悔しかな、敵わないよねえ…。
そしてアーロンを見た。
見極める…か。
確かに何をどうするかはアーロンが決める事だろう。
あたしは流れに任せたところもあるけど、皆について行きたい、行こうって思ったのは自分の気持ちだし。
でも、ちょっと…。
あたしはその時少しだけ、胸の奥に引っ掛かりを覚えた。
「旅の目的が誤ったものでないことを確認出来なければ手を貸す事は無かっただろう。もっとも…俺は楽しんでいたのかもしれん。ユウナやティーダが仲間たちと切磋琢磨し、強くなっていく様子を見るのを、な…」
アーロンはそう言ってフッと笑っていた。
ユウナとティーダ…。
親友の娘と息子の成長…。
託された子供達の成長はアーロンにとっても嬉しいものなのだろう。
あたしはふたりと歳が近いからアレだけど、でもきっと今こうして力強く戦っている姿をブラスカさんとジェクトさんが見たら喜ぶだろうなとか、そういう気持ちにはなるから。
「親心…といったところですかな」
「アーロン殿のお気持ち、拙者にはよくわかるでござるよ…」
少し上の世代、人生経験豊富な大人たち、ヤンやカイエンはそれを聞いて納得したり共感したりしていた。
「皆と一緒に世界を救いたい…ここはスピラじゃないですけど私の意志は変わりません。ですからアーロンさん、この世界でも私や皆をよろしくお願いします!」
「新たな物語の始まり…だな」
ユウナの言葉にアーロンは頷いた。
力を貸す。
この新しい旅に同行してくれる。
今はもう、アーロンの腹でもそう固まっている。
だから、もう…良いといえば良いのだけど。
やっぱりちょっと、引っ掛かりがあった。
「なんだ、何か不満そうだな」
引き続き皆が塔を進む足を動かし始める。
その時丁度アーロンと目が合ってそう言われた。
「べっつにー」
「何か言いたげだが?」
「うーん…うん、そーだね。ちょっとした不満、かも?」
「ほう。言ってみろ」
適当に濁しちゃおうかと思ったけど、でも聞かれたのなら少し吐いてみようか。
アーロンも言ってみろって聞きたいみたいだし?
あたしは皆を追い駆けようと動かしかけた足をアーロンに向きなおした。
「もし納得できなかったら、声すらも掛けてくれなかったのかな〜って思って」
そう。モヤッときたのはそれだった。
アーロンはあたしたちを尾けていたと言っていた。
でももしアーロンがこの旅の目的を誤りだと感じていたら。
アーロンはそのまま去ってしまったのだろうかと。
それを聞くとアーロンは小さく笑った。
「フッ…だから拗ねているのか」
「拗ね…薄情なおじさんねって事です!まぁちょっと寂しいなって思っただけ」
「ほう。寂しいのか」
「…そりゃあ、まあ。だって、折角会えたのに」
会いたいなって思ってた。
会えて嬉しいなって思った。
でもそれが一方通行だったとしたら。
…ちょっと、寂しいなって…思った。
無意識に俯いていたらしい。
ふう…とアーロンが息をつく音が聞こえて気が付いた。
う…呆れられた?
ちょっとネガティブ。
でもそう思ったその時、落ちてきた声は優しいものだった。
「…お前に声を掛けるくらいは、したかもな」
「え?」
ふっと顔を上げる。
サングラスの奥にある瞳と目が合う。
アーロンはこっちを見ていた。
「そうだな、お前の返答次第で、どうするか考えた」
「え、あたしがなんで旅してるかってこと?」
「俺が納得出来なかったとして、お前には理由があるということだからな」
「それで納得したら一緒に来てくれたってこと?」
「…納得出来たら、な」
「じゃあ出来なかったら?」
「そうだな…、フッ、そうなったら連れ出しても良かったな」
「…へっ?」
「フッ…まぁ実際は、お前がいる、それで理由は十分だったのかもな」
ちょっとビックリした。
だって連れ出すとかさ?
そんなこと言われるとは思わないじゃん。
でも、声は掛けてくれたのか。
そう言ってくれただけでモヤは晴れた。
…だけど、実際はどうあっても一緒にいてくれたと。
あ、どうしよう…。
そう言って貰えたことが、嬉しくてたまらない。
「機嫌は治ったか」
「だから拗ねてないってば!けど、うん、スッキリはした」
「フン」
「じゃあまあ、これからよろしくね、アーロン」
あたしはそう言って、多分笑った。
自然と零れた笑みだった。
まあ、でも声を掛けてくれたのなら…あたしも色々考えたのかもしれない。
もしアーロンが疑問を覚えたのだとしたら、多分あたしも何かしら疑問を抱いているか、そうでなくともアーロンの話を聞いた時点できっと旅に疑問を覚えただろう。
だって、あたしはアーロンのことを信じているから。
END
だいーぶ序盤の設定の話を今頃書いてしまいました。すみません。
いやアーロンのイベントの話、ひとつだけ書いてないんだよなあ…ってずっと思ってたんです。