牙龍


赤い衣が揺れる。
重量のある太刀を振り下ろし、辺りの敵を一掃していく。

その背中はとても、とても大きく見えて。

多分、あたしは見惚れていたようにも思う。





「片付いたな」





アーロンはそう言い、担いでいた太刀を地面へと刺した。

その場にあった歪みはみるみる小さくなって消えていく。
それは主である魔物を倒した証拠だ。

歪みが無くなるのを見届けたアーロンはゆっくりとこちらに振り返る。
あたしは頷いた。





「うん。ご苦労。褒めて遣わそう」

「…何様だお前は」

「えへへ!」





振り返って視線があって、ふざけてそんなことを言えば、こちらに戻ってきたアーロンにゴンッと頭を拳で小突かれた。

でも、ご苦労様と思っているのは本当だ。
だってほぼほぼアーロンがひとりで片付けた様なものだから。

あたしはと言えば、魔法剣の為の魔法をアーロンの太刀に放っていたくらい。





「いやうん、まあ本当にお疲れ様でした。そんな攻撃喰らっては無かったと思うけど、ケアルする?」

「いや、大丈夫だ」

「ん、なら良かった」





怪我がないなら何より。
あたしはホッとするようにコクリと頷いた。

しかしまあ…こう一緒に戦って、その様子を間近で見ていると、やっぱり強いよなあ…なんて実感する。
ガードとしての旅が終わってから2年、あたしもそれなりには成長したつもりだけど、それでもそう感じてしまうくらいに。

今も、トドメに使った牙龍…主と雑魚も含めて一掃したもんね。

だから本当に月並みな言い方だけど、強いなって純粋に思うのだ。





「でも、ふたりで十分だったね。ってか主倒したのはほぼアーロンだけど。まあ小さな歪みだってモグ言ってたけどね」

「ああ」





とりあえず目的だった歪みは閉じられたし、あたしはうーんと少し体を伸ばした。
いやボスこそアーロン頼りだったけど道中の敵はそれなりに蹴散らしたからね。あとはちょいちょい回復要員的な?

この歪みを閉じに来たのは、あたしとアーロンのふたりだけだ。

なぜふたりなのか。
と言っても別に大した理由では無いけれど。

今日もいつもと変わりなく、飛空艇を降りて皆でこの異世界の探索をしていた。
モグ曰くこの近辺に歪みの気配を感じたらしくてそれを探していたんだけど、その途中で少し脇道に逸れた方にもモグが歪みの気配を感じ取ったのだ。
ただぞの脇道の方はあまり大きな歪みじゃないと。ならぞろぞろと皆で行くことも無いんじゃないかって雰囲気にもなって、そこにアーロンが一言こう言ったのだ。





《俺とナマエで見てこよう》





アーロンの言葉ってばこの世界でもなんだか大きく聞こえる。
だってそれで皆納得しちゃってたんだもん。アーロンが言うなら任せるか、みたいな?
まあモグも多分それで十分クポ、みたいなことは言ってたけど。

とりあえず危険そうだったらすぐ戻るということにはして、その方向で話が決まったと。





《行くぞ》

《えっ、あ、じゃ、じゃあ行ってきます!》





そうと決まればささっと突き進むのがアーロンだ。
あたしはスタスタ歩き出したアーロンに何を言う暇も無く追い駆けた。

いや別に異論は無かったけど。

というかまあ、指名してくれた事はちょっと嬉しかったりして、ね。





「ん〜…じゃあぼちぼち戻ろうか」

「ああ」





歪みは閉じて任務完了。
そろそろ先を歩いている皆を追い駆けねば。

そう思いながらくるっと来た道をくるりと振り返り、タンっと軽く駆ける。

すると、アーロンが後ろからこう言ってきた。





「そう急ぐ必要もあるまい」

「ん?」





あたしは足を止めてくるっと振り返った。
そして小首を傾げる。

いやね、確かに別に急がなきゃってわけでもないけれど。

この旅では人数もだいぶ増えて来てから、目的地までは各々が好きなペースで進むようにしている。
体力に自信がある人とかはすいすい先に進んで行くし、子供たちとかはゆっくり進む。

戦いのときはモグが呼んでくれたりもするし。

だからこうしてのんびり進むことにそう違和感はないけれど。




「のんびり行く?」

「あの大所帯だからな。一息つける時間は貴重だ」

「…ふぅん」





するとアーロンはそう答えた。
それはすごーく何気ない言葉だった。

もう人数は100を軽く超えてる大所帯。

賑やかであたたかくて、別にわずらわしいわけではないけれど、確かになかなか一息をつくっていうと限られてくる場面もあるのかもって。

そう、本当に何気ない言葉。
でもそれを聞いた時、あたしはちょっと胸がじわっとした。

それはつまり、あたしは傍にいても貴方は一息をつくことが出来ると…。

何気ないからこそ。

…ああ、うん。
それって凄く嬉しいかもしれない。

そう感じたら、思わず顔がほころんだ。





「ふふ…」

「なんだ?」

「ううん!」





なんでもないと首を振る。
うん、それにきっと、あたしもそう思っている。





「じゃあ、のんびーり行こっか」





だって心はこんなにも穏やかなのだから。



END


やっとアーロンも真化しましたね。いやあ…長かった。
7070解放がゴールデンウィークだったと思うんですけどあれは何にも強くなってなかったので。(笑)
なかなか強くなってくれて嬉しいです。物理のところは使っていきたいな。

どうでもいいけど牙龍ってタイトルと内容があまり噛み合っていない。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -