もうすぐ会える


それは夢みたいな話。
だけれど今、あたしは異世界にいる。

この世界にいる二柱の神。
そのうちのひとり、マーテリアという女神様に召喚されたのだ。

不安はあった。
だけど、その世界には自分が仕えるべき王子様の姿にあった。
そしてすぐ、友人にも再会することが出来た。
この世界で出会った頼もしい仲間たちも沢山いた。

だから不安は、わりとすぐに拭い去ることが出来た。

そうしてこの世界にも随分慣れてくると、改めて気になることが胸の中に浮かんできた。





「何ぼーっとしてんだよ」





飛空艇の中で流れていく景色を見ていると、我らが王子様に声を掛けられた。
あたしはちらっと王子に視線をくれてやる。

まあ多分、今あたしの考えている事は彼にも共感は得られる事だと思う。

だから素直に、あたしはそれを口にした。





「いや、イグニスとかグラディオはどうしてんのかなあとね」

「ああ…」





やっぱり共感は得られたらしい。
思った通り、彼…ノクトはこくりと頷いた。





「まあ、お前も来て、んでプロンプトも来たし?そのうちこっち来んじゃねーかなって気はしてるけど」

「うん。あたしもそう思う。結構他の皆見てても元の世界の仲間に会えてるし」

「だな」





この世界で旅をして、進む旅にどんどん新しい仲間たちが増えていく。
もう結構な大所帯だし、仲間の誰かの顔見知りってパターンも少なくない。

だから会えたらいいなって、思うのはきっと自然なことだろう。





「ノクトがいなくなって、心配してるだろうね〜」





そして、遣えるべき主が消えて混乱しているであろう向こう側の心情を思う。

イグニスとか、まああくまで冷静だろうけど、すっごい心配してそう。
グラディオもああ見えて、ね。王の盾だし。

すると、ノクトは後ろ頭を掻きながら言った。





「別に、俺だけじゃねえだろ。お前の事も、プロンプトの事も」

「ん、…そーだね」

「特にイグニスは、気に掛けてんじゃねーの。ナマエの事」

「…うん」





小さく頷いた。
確かに、心配してくれてるだろう。

…イグニス、どうしてるかなあ。

そう思いながら景色を見る。
何処かにいればいいのに、なんて淡い期待を抱きながら。
…会いたいな、と、少し恋しくなりながら。

そして、ノクトとそんな話をしたのがまだ記憶に新しい数日後の事だ。
その日、いつものように飛空艇で次なる目的地を目指していた。
だけどその日は、いつもと少し違う変化がひとつだけ起きたのだった。





「あれっ!?ノクト、鳴ってる鳴ってる!」





艇内で雑談をしていた時、突然辺りに電子音が響き渡った。
プロンプトがギョッとして、ノクトの事を指差す。

それはこの世界で鳴るはずの無いスマホの音だった。





「はぁ?俺かぁ?」





もう当分の間聞いていない音だったから、ノクトは訝しそうな顔をした。
とはいっても、これは間違いなくスマホの音だ。





「でもこの音、ノクトのポケットからじゃない?」

「故障かもしれねえだろ。うるせえからちょっと見て見ろよ」





リセやファングにもそう言われ、ノクトは自分のポケットに手を突っ込んだ。

確かに故障の可能性も…。
だってこの世界では電波の送受信が出来ないのだから使えるはずは無い。

あたしも、念のためこの世界で自分の端末に触ってみたけど連絡手段としては意味を持ってなかった。それは確認済みだ。





「こんな時間にアラーム…ん?イグニスからだ!?」





アラームを疑いながら画面を見たノクトはその瞬間に目を見開いた。

そして彼の口から飛び出たのは本来ありえないはずのもの。
え、嘘…イグニスから電話!?

それを聞いたあたしとプロンプトはギョッとしてノクトを促した。





「え、イグニス!?」

「ほんと!?出てみてよ!」





ノクトは言われるまでも無いというかのようにすぐさま通話ボタンを押した。

耳に押し当てたスマホからはどうやら声が聞こえたらしい。

それはノクトの表情がパッと明るくなったことですぐにわかった。

嬉しい顔しちゃって。
その表情を見たら、なんだかちょっとほっこりした。





「嬉しそうじゃん」






どうやらイグニスもこちらの世界に来ているらしい。
合流方法を確認したノクトは電話を切り、あたしの顔を見るとニヤッと笑ってそう言ってきた。

どの口が言ってるんだか〜って感じ。

でもまあそうだね。
純粋に、嬉しいって思う。

うん。凄く、凄く嬉しい。

これから会える。イグニスに。
そう思っただけで、心が一杯に満たされていくみたいだ。





「うん。めっちゃくちゃ嬉しい」





思わず口にしたく成る程。
だからあたしは、きっと目一杯の笑顔でそう答えただろう。


END
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