偽りの神


この世界に現れた、あたしたちの世界であったコピーの存在。
コピーはジェノバの能力。だとすれば、その後ろには必ずセフィロスの姿があるはず。

そう踏んだあたしたちは、セフィロスの行方を追い調査をしていた。

そして掴んだ手掛かり。
それは、セフィロスがマーテリアの神の座を奪ったという話だった。

セフィロスは、この世界の神に成り代わろうとしている。

今現在、マーテリアが機能していないのにそれでもこの世界が維持されているのはスピリタスの力と、あたしたちマーテリアの戦士の強い意志の力によるものらしい。
だからセフィロスはコピーを使ってあたしたちの心を惑わした。

そうなればやはりセフィロスを倒さなきゃならない。
そしてマーテリアを探し出す。

セフィロスが支配する世界なんて、絶対に御免だから。





「あれは!」





クラウドが声を上げた。

クラウドはなんとなくセフィロスの気配を感じることが出来るみたいだった。
その直感を頼りに進み、そうして彼が指差した目の前には、次元の歪みの中に消えていくセフィロスの姿があった。

あたしたちは残った歪みに駆け寄った。





「これ、飛び込むけど…いいよな?」

「罠でもいい。行こうぜ」

「皆一緒なら大丈夫。だいたい、此処まで来て引き返すなんて選択しないよ!」





飛び込むことを一度皆に確認したザックスの声にノクトとあたしはそう肯定を返した。
他の皆も同じように頷いてくれる。

さあ、行こう。

あたしたちは迷うことなくセフィロスを追って歪みの中へと足を踏み入れた。





「セフィロス!!」





ザックスが叫んだ。

歪みが繋いでいた先は、以前マーテリアがいた神の座だった。
大きなクリスタルの前に佇むは静かな笑みをたたえているセフィロス。





「マーテリア…いないね」

「本当にマーテリアを追い出したのか…」





あたしとクラウドは辺りを見渡した。
でもやはりそこにマーテリアの姿はない。

セフィロスが、マーテリアに成り代わる…。
改めて考えて凄くゾッとした。





「神は私だ。何者かが私を選ぶのではない。私が世界を選定するのだ」





セフィロスはあたしたちに向かいそう語った。

まったくもう。
相変わらず意味不明な事で!





「わけのわかんないこと言いやがって。やっぱりお前もモンスターなんだな」

「クックック…モンスターはお前だろ。出来そこないのソルジャー」





言い返したザックスにセフィロスは怪しく笑った。

馬鹿にしてるみたいでカチンとくる。
どこが出来そこないだ!って喉まで出かけた。

でもザックスの目に迷いが無いから、ここで言葉を返すのはザックスだ。





「…そんなんで俺は迷わない!夢や誇りがまだある!お前の理屈を押し付けんな」

「ひとり運命を知った気分はどうだ?」

「うるさい。お前にはもう何も奪わせない。俺の夢、未来、仲間…大事な物、全部守る、救ってみせる」





ザックスはひとつひとつ、自らの大切な想いを確認しながらセフィロスに向かい合った。
だけどセフィロスはその様子をやはり滑稽だとでも言うかのように嘲笑う。





「憐れな男だ。すべてはすでに失われたもの。クックック…お前はもう思い出の一部。星に還るべき存在」





思い出の一部…。
セフィロスは正宗の剣先を真っ直ぐにザックスへ向けながらそう言う。

それを聞いた事情を知らないイグニスやノクト、プロンプト達は顔をしかめた。
その意味は…あたしたちは、確かに言葉にしたくは無い。





「憧憬の拠りどころ、失われた過去の道しるべ、時の止まった、叶う事の無い夢…」





静かに、ゆっくりと…少しずつ抉る様なセフィロスの言葉。
その冷たい瞳は真っ直ぐにザックスを射抜いてる。





「恨んでいるのか?この安息の大地で過去を清算できると思っているのか?」

「…セフィロス」





その時、クラウドがセフィロスの名を呟きながらぐっと拳を握りしめたのが見えた。

でも、直後に見たザックスの瞳を見て、あたしは大丈夫だと確信した。
だって彼の目には光が消えていなかったから。

だからあたしはソードにそっと手を触れた。
いつでも構えることが出来る様に。





「クラウド!あいつをまた倒す!手伝ってくれるな!ナマエも、な!」





そしてザックスはそうあたしたちに尋ねてきた。

クラウドは頷いた。
迷うことなんかない。それを感じて、大剣を構える。

そしてそれは勿論あたしもだ。





「当たり前だよ、ザックス!」





触れていたソードを、ぎゅっと握る。
そしてクラウドとザックスに並び立ちサッと構えて見せた。

その時のあたしの顔は、きっと強気に笑っていたと思う。

そしてその顔は、セフィロスの目に留まったらしい。
どう映ったのだろう。セフィロスは視線をザックスからあたしへと映した。





「…娘。随分と余裕なものだな」

「へえ、貴方から見てそう見えるの?」





笑ったまま、強気に聞けた。どうしてだろう。
それはきっと、隣にクラウドがいて、ザックスがいるから。

不思議。
でも、なんだか何も怖くない。





「そうだね、余裕あるかも。貴方を、絶対止める。あたしはザックスを支えるよ」

「フッ…信じている、か?」

「……。」

「失った過去は戻らない。夢は途絶えた。それは揺るがぬ真実だ」





セフィロスは笑うのだ。
信じると言う、その想いを。

それは虚勢であると。

でも、あたしは気づいたのだ。





「あたしは、信じてるよ。ザックスのこと。それにクラウドのこと」

「ナマエ…?」





クラウドが振り向いた。
あたしはクラウドを見上げて、頷いた。





「確かに、知らないものを肯定することは出来ない。でも、そんなの必要ない。あたしは、あたしが見たものを信じるだけ。信じてる。一緒にいた時間と、その時見たことを」





元の世界の話。

クラウドが自分の存在に怯えた時、あたしはそれを拭えなかった。
それを打ち消す答えを、あたしは持っていなかったから。

何も出来なくて、無力だと思った。

でも、それはあたしがするべきことじゃなかった。
あたしはあたしで、自分が見ていたクラウドを信じればよかっただけ。

一緒に話して、笑って。
その時、ちゃんと感じてたでしょう。

クラウドの優しさを。





「あたしはクラウドのこと、ザックスのことも信じてる!ここで過ごした時間だって本物だよ。ね、ザックス」





そして、ザックスに笑い掛けた。
するとザックスは笑みを返してくれた。

その視線は、光を宿したままセフィロスに向かう。




「いいか!よく聞けよセフィロス!俺は誰の代わりでも無い。俺には俺の夢がある。夢を見るための心が、今、ここにある。戦う理由はそれだけだ!」

「虚勢だな」

「やってみればわかるだろ!」





何も揺るがない。
その声に味方するのはあたしやクラウドだけじゃない。





「手伝う。だよな、イグニス」

「問題ない」





ノクト、イグニス、プロンプト。
異世界の仲間も力を貸してくれる。





「いくぞ!」





多くの支えを手に、ザックスはその剣を構えた。

偽りの神様。
その座、本当の神様に返してもらいます。

負けない。絶対に。
そんな思いを確かに胸に、あたしたちはセフィロスに立ち向かった。



END
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