静かな信頼
敵なのか味方なのかよくわからない無口な人物がいる。
今、仲間内でそんな話が少しずつ広がっていた。
新しい誰かが来た。
そんな話を聞けば、この世界にいる仲間たちは自分の知り合いではないかと多少なりとも気になったりするものだ。
あたしも、その人物を直接見たというデュースから話を聞いてちょっと…いやだいぶ気になっていた。
なんでも、その人は少し獣っぽい姿をしていたと言ったから。
獣で、無口。
なんとなく、自然と頭に浮かんできた人物がひとり。
「あのさ、アーロン…」
「フッ、どれ、見に行ってみるか」
予感がしてアーロンに声を掛けてみれば、アーロンは小さく笑って歩き出した。
…やっぱり、やっぱりそう思う?
あたしもアーロンを追い駆けるように足を動かした。
そうして辺りを少し探していると、何人かの見知った姿を見つけた。
サッズとケット・シー。それに、ジェクトさん。
三人は揃ってどこか一点を見つめていた。
何を見てるんだろう?そう思って自然とその先を視線で追えば、ハッとした。
そしてその瞬間、隣にいたアーロンがいきなりバッと駆け出した。
「え、あ、アーロン…!」
驚いたから思わず声が出た。
でも尻すぼみになった。なぜって止まらないだろうと思ったから。
「んん?ナマエさんやないですか」
「あ…」
その時、ケット・シーがあたしに気が付いて声をかけてくれた。
だからあたしは一度ケット・シーたちの方に駆け寄った。
そして改めて確かめた。
皆が見ていた先にはモンスターがいた。
そしてそこにたったひとりで対峙する槍を持った戦士。
力強く立つ…青い、獣。
若き、ロンゾ族の戦士…。
それはまさにあたしが想像していた通りの人…一緒に旅をした、キマリの姿がそこにあった。
「キマリはあれを追っていた。キマリ、ユウナを守る」
槍を構え、モンスターを睨みつけるキマリ。
するとそこへひとり、傍へと歩み寄った人物がいた。
「ユウナは誰かひとりに敵を押し付けて逃げるような真似はしない…」
「…!」
隣で構えられた太刀にキマリは少し反応した。
助太刀。キマリに肩を並べたのはアーロンだった。
「お前もガードなんだ。知っているだろう?」
「ここは知らない世界。知らない敵。何が起きるかわからない」
「そうだな。ひとりでよく戦ってきた。だが、ここからは俺たちも一緒だ」
静かな会話。でも確かに感じられるのは信頼だろうか。
そんな言葉を交わす二人の元へ、あたしたちも駆け寄った。
「キマリ!」
あたしは彼を呼んだ。
振り返る事は無い。でも小さく頷いてくれたのが見えた。
「話を難しくしやがって。要するに倒しゃいいんだろ」
ジェクトさんがやれやれと言うかのように首に手を当てて頭を振る。
でもその言葉が合図だ。その場にいた全員が共に戦うべく武器を構えた。
あたしも、いつでも魔法を唱えられるように気を引き締めた。
そのモンスターはキマリが警戒していただけあって、なかなかの強敵ではあった。
だけど、アーロンがいてジェクトさんがいて、キマリがいて。
そこにこの世界で出会った仲間がいて、負ける気は全然しなかった。
「ふ〜…やっぱりキマリだったかぁ…」
モンスターを倒した後、ユウナの身を案じているキマリはみんなに案内されてすぐにユウナの元へと向かった。まあ早く合わせてあげたいよね。
こっちとしてもキマリが来たこと早く伝えたい気持ちもあるし。
けど、その前に。
あたしはちらっと隣を見上げた。
そこにいたのはアーロンだった。
「アーロンってさ、キマリのこと大好きだよね」
見上げたままニコッと笑って言った言葉。
ものすっごい顔をしかめられたけど。
「おうおう、お前はいったい何を言っている…って言いたげな顔だね」
「よくわかっているじゃないか」
真顔で言われた。
いやまあ、言い方が変なのは認めるけどね。
「まあ…信頼してるよね〜ってハナシだよ」
大好き改め、信頼している。
キマリはあんな感じで無口だし、アーロンもそうぺちゃくちゃと喋るタイプではない。
だからこうふたりでよく話をしてるとかそういうわけではないんだけど、でも確かにふたりの間にはちょっとした信頼関係みたいなのが感じられるのだ。
「キマリは…」
「うん。わかってる。アーロンが最期に会った人、だもんね」
言いかけたアーロンの言葉に頷き、あたしはそう言葉を重ねた。
前に、アーロンは教えてくれた。
アーロンは死の間際にキマリに会ったのだ。
そしてユウナのことをキマリに任せた。
死にゆく者の願いだと、キマリはその頼みを聞き入れた。
だからキマリは、旅の間もずっとアーロンの正体を知っていたはずなんだよね。
でもずっと、黙ってくれていた。
そんな話を聞けば、アーロンがキマリに抱く信頼っていうのがよくわかる気がする。
「キマリに会えて、よかったよね。ユウナも喜ぶよ、絶対」
「…そうだな」
「じゃ、あたしたちも早く戻ろ」
「ああ」
仲間との再会はやっぱり嬉しい。
あたしがそう笑いかければ、アーロンもまたフッと笑って頷いた。
END