変わらない自信


「よう、カイン!あんたのジャンプってどうやって練習してるんだ?すっげ〜跳ぶだろ!?俺も真似したくってよ!」

「竜騎士としての長年の修練だ…一朝一夕に真似は出来ん」





あたしがカインといつものように雑談をしていた時のことだった。

自分もカインと話をしてみたいと言うかのように、ゼルが楽しそうにジャンプについて尋ねてきた。

仲間に加わったばかりのカインについて知りたい。
きっとそんな気持ちが皆あるのだろう。

ゼルが声を掛けたのを皮切りに、数人がカインの周りへと集まり始めた。





「へえ、そういうもんなのか。俺の元居た世界だとクリスタルが色んなジョブ…えっと、力をくれてさ。カインの力とはちょっと違うけどな。俺もジャンプは出来たんだぜ!」

「ふーん…。俺の世界にも色々あったけど、竜騎士って…あったっけ?」

「同じ竜騎士と言う言葉でも世界によってまったく違うんですね。私の世界オリエンスには本物の龍に乗って戦う兵のいる国があったんですよ」





順に、バッツ、ヴァン、レム。
それぞれが自分達の世界での竜騎士について語らう。

その話には正直かなり興味がそそられて、カインよりあたしの方が食いついた。





「へえ〜!本当こうしてみると色々だね!あたしはもう竜とかジャンプとか言えば浮かぶのカインの竜騎士だけどみんなの世界の武術も凄そう!」

「フッ、お前は相変わらずこういった類の話が好きだな」

「うん。好きだよ〜。でもさあ、やっぱ久しぶりにカインのジャンプ見れてあたしもおおっ!ってなったな〜」

「お前は見慣れているだろう」

「それでも凄いものは凄いし、見てて楽しいものは楽しいもん」





カインはあたしやセシルよりもう少し先の記憶を持っていると言う。

あたしはカインとはファブールでの一件があったあたりで止まってる。
んで、その先はこの世界での旅に繋がってるからカインの戦いを見たのはちょっと久しぶりな気がして。

だから確かに見慣れてはいるけれど、カインの戦う姿にどうも胸の高鳴りを抑えられないというか。

まあ、カインを囲んだままやんややんやと皆で盛り上がってた。





「にぎやかな連中だ…。…セシル?」





そんな空気に呆れながらもフッと笑うカイン。
そしてその時、彼はその様子を少し距離を置いたところで見ているセシルの存在に気が付いた。

あたしもカインの視線を追うようにセシルを見れば、セシルは思いつめるように顔を逸らして背を向けた。





「…異世界の仲間たちは、なんの偏見もなくカインのことを受け入れている。それに比べて僕は…。また親友のことを信じ切れずに…」





背を向けたセシルは小さくそう呟いていた。
あたしとカインはセシルの傍に近づいていたから、その声が聞こえた。





「…お前のせいじゃない」





カインはそんなセシルの背にそう声をかけた。
セシルは振り返る。仮面で表情は見えないけれど、落ち込んでいる様子は見て取れた。





「カイン…僕は…すまない…」

「…いいんだ。今の前の記憶の中では俺は裏切り者のままだろうからな」

「だけどそれはナマエだって…。それにもかかわらずナマエは…」

「…ん?」





セシルはあたしを見て、また少し俯いた。

元の世界でカインが自分を裏切った。
そんな記憶で止まっているセシルはどうしてもその疑心がぬぐい切れない。

同じところで記憶が止まっているはずのナマエは普通に接しているのに。

彼は優しい。
だからこそ、そこにそう己への嫌悪が生まれる。





「ナマエ…君はどうしてそんなに真っ直ぐに…」





セシルはそう呟いた。
それは問い掛けのようで、でも己に対するものでもあるかのようで。

でもその声にカインもあたしの方を見てきた。

あたしはうーん、と考えた。





「んー…これ、っていう確たる理由がひとつあるわけじゃないからなあ。多分理由って色々あるよ。あの件ってきっとゴルベーザが何かしたんだろうなとか思うし。それに普通に嬉しいしね」

「嬉しい…?」

「うん。一緒に旅出来て嬉しい」





へらっと笑って見せる。
ふたりは、なんだろ…呆気?いや顔よく見えないんだもん。
でももし見えたら目を丸くしてるとかそんなんじゃないかな?

まあとりあえず、今は普通に話してるじゃない。
だからきっと大丈夫。

それに、あたしは知ってる。
カインは優しいよ。

今もそれを感じる。

操られたのだってきっと、それが根本なんだ。

まあね、あたしはカインの事に関しては色々こうことさらに前向きでいようと思うところがあるから…。

でももセシルはやっぱり自己嫌悪が取れないらしい。





「…どうしても僕がなくしている記憶については教えられない…のか?」

「そうだ。お前自身の手で取り戻さなければ、聖なる光は…輝かない。それに…俺が元の世界でお前を裏切ったという事実は変わらん」





記憶を取り戻せばこの疑心も消えるかもしれない。
そう思ったのかセシルはカインに記憶について尋ねたけど、やっぱりカインから口にするつもりは無さそうだ。

そしてまた最後にちょっと自虐…と。

自分を責めるとこは、似た者同士だよな…だから親友なのかもしれないけど。
あたしは小さく息をついた。

だけど今、この世界においては空気を変える切り札が傍にいくつもある。





「なんか…深刻な話?」

「今は頼りになる仲間なんだからよ!難しいことはナシでいこうぜっ!」

「セシル、平気か?」





セシルが気落ちしている事を察してか、ヴァン、ゼル、バッツがこちらに声を掛けに来てくれた。
皆、心配して支えてくれる、心強い仲間たちだ。





「ああ…心配かけてすまない。大丈夫だ、先に進もう」





セシルは皆の声にそう頷いた。
間に入って、また別の角度から事を考えてくれる皆の存在はきっと今の状況的にはすごく有り難いような気がする。

セシルとカインのわだかまり…。
失った記憶…か。

確かに思い出せれば、変わる事もあるんだろうか。

歩き出した皆。
あたしは皆と共に歩き出したセシルの背中をじっと眺めてた。





「…お前は、本当にずっと…そうだったんだな」

「ん?」





その時、カインの声がした。
振り向けば、カインもまだ歩き出してはいなくて、傍であたしを見下ろしていた。





「そうって?」

「…いや、すまん。気にするな」

「うん?セシルに比べてあっけらかんとしてるって?」

「いや…ファブールで見た俺は、酷いものだっただろう」

「んー。そりゃま否定するのは違う気がするけどさ、でもあたしは今もカインのこと大好きだよ」





にっこり。笑って言える。
ずっとずーっと何度も口にした言葉。
それを今も、変わらず口に出来る。

意味は別に、軽く聞こえていい。

だた、味方であると知っていて貰えれば。

すると、カインは少し黙った。





「カイン?」





あたしは首を傾げた。
なんか、じっと見られてる?なにか考えてるみたいな。





「…そうか」

「ん?うん!」





カインはそう小さく呟いた。
あたしは大きく頷いた。

なんか変な反応?
まあ別にマイナスな空気は感じなかったから別にいいけど。





「俺たちも行くぞ」

「はーい」





カインはあたしの肩を叩き、そう促した。
あたしも返事をして、皆の背中を追いかけた。

…今の、間。
未来で何かあったってことなのかな。

でもきっと、あたしはカインが好き。
それは変わらない。

そんな自信が、あたしにはあった。



END


FF4連載の前半はただ妹の様な延長線上でしか大好きの意味を伝えていませんでしたが中盤で伝えるので、つまりヒロインは告白した記憶が無いけどカインは真意をわかって聞いている、という設定になってます。



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