一緒に守ろう


「キツいけど…よろしくな」





そう言ってザックスのダークイミテーションは輝きを託した。
光はザックスの中に溶けるように消えていく。





「ああ…」





ザックスは目を閉じた。
蘇っていく記憶を、確かめるように、実感するように。





「うーん、そっか。そうだったんだな、俺。色んなこと忘れてたんだなー」





そう口にした背中を、クラウドとエアリスは心配そうに見つめていた。
あたしは、少しだけ離れたところで…その様子を見てた。





「ナマエはいいのか?」

「うん…今は、いいや」





ノクトにそう聞かれたけれど、あたしはただこくんと頷いた。
そう、今は…いい。今は、きっとあたしに言えることって何もないから。

ザックスが思い出したのは、きっと…自分の最期の、記憶。





「思い出したのか、自分のこと…」

「クラウドが知らない事も」





クラウドがおずっと声を掛ければザックスはそう答えた。
そして振り返り、その青い目にクラウドとエアリスの姿を映した。





「へへ…元気だ。うん、クラウドが元気にしてる。生きて、くれたんだな。俺の誇りや夢、ちゃんと大事にしてくれてたんだな。クラウド…ありがとう」





ザックスと最後に一緒にいたのはクラウド。
だからザックスはクラウドが元気にしている姿を見て、嬉しそうに笑った。

クラウドの故郷であった、とある事件のこと…。
あたしは話に聞いただけだけど、かなり凄惨な状況だったと聞いた。
巻き込まれたクラウド、ティファ、そしてザックス…皆ただじゃすまなかった。

だからザックスはクラウド、ティファの無事、エアリスに会えたことを喜んだ。

これが、マーテリアの考えた安息なのだろう。

それからザックスは、思い出したこと、それと一緒に流れてきたダークイミテーションの記憶を皆に話してくれた。
やっぱり今回の黒幕はセフィロスだということ、そして今セフィロスはマーテリアの座に成り代わっている事を。

気丈に、いつもと変わらぬ様子で話してくれた。
でもきっと、思う事は沢山あったんだと思う。

当事者じゃないあたしには、きっと出来ない事だらけだろう。
でも当事者じゃないからこそ、出来ることもあるのかもしれない。

だからあたしはその話のあと、ザックスを探してみた。

言えること、きっと多くない…いや、多分ないかも。
でもただ、気に掛けている事を伝えるのは悪くないんじゃないかって思ったから。





「大丈夫か、忘れてたこと思い出したんだろ」

「俺は大丈夫。自分の心配だけしてろよ」





探していると、クラウドとザックスが話しているのを見つけた。

ああ、やっぱりクラウドも気になってるよねえ。
そう思ったあたしはそっと、木の影に身を寄せた。

クラウドはザックスの心配をして、そんな言葉にザックスはやっぱりいつも通り笑っていた。
でも思い出した記憶を前に、きっとすべていつも通りでは無いから…。だからクラウドは「力になりたい」とザックスに伝えていた。放ってなんかおけない。トモダチ、だろって。

そんなクラウドの気持ちを受け取ったザックスは嬉しそうだった。





「そうだ…こうして喜ぶ気持ち、悔しさ、悲しみ…夢。全部まだここにある。俺のものとしてここにあるんだ。決めた、振り返らない!生きるんだ、今は。クラウドがいる、それにエアリスも…。…あ、やべ。カッコつけるぞ、俺は」





クラウドの気持ちと、言葉。
それはきっとザックスの糧になった。

そう、素直に嬉しいと。

だから少しその表情は軽くなったような気がする。
少し吹っ切れたみたいに。

それを見てたら、なんだかこっちも自然と顔がほころんだ。





「元気が出たならなによりだ」

「ああ!」





クラウドも少し安心したのだろう。
ザックスの笑顔を見て、クラウドはその場を後にしていった。

その背中が小さくなった時、あたしはひょこっと木陰から顔を覗かせた。
すると、それとほぼ同時にザックスに気づかれた。





「ん?ナマエ」

「あれ、こんなにさくっと見つかるとは」

「隠れてたのか?」

「うーん、まあ気づいてもらう為に顔出したけど、こんなに早く気づかれちゃうとは思ってなかった」





そんな風に話をしながら、あたしは木陰を出てザックスに駆け寄った。





「ごめんね、ちょっと盗み聞きみたくなっちゃった」

「ん?俺は別にいいけど。あー、クラウドは恥ずかしがるかもな〜」

「ふふ、じゃあこれで」

「ははっ、おう、了解」





あたしは唇の前で人差し指を立てて笑った。
するとザックスも真似て一緒に笑ってくれた。

やっぱり良い人だよなあと、改めて思った気がした。





「で、どうした?クラウドならもう行っちまったぞ?」

「うん。クラウドじゃなくて、今回用があるのはザックス」

「ん?俺?」

「イエス。俺」





自分の顔を指差したザックスにあたしは頷いた。
するとまあ、記憶を取り戻したことについてなのは察しがついただろう。
ザックスは軽く頬を掻いた。





「ん〜、悪い、心配かけた?」

「うん、そうだね。心配した」

「そっか」

「んー、あのね、あたしなんとなくザックスのこと聞いてたんだ。クラウドたちと旅してる時に」

「ああ」

「で、クラウドとかエアリスがザックスのこと大好きなんだな〜ってのは、こう感じてたわけですよ」

「大好き…かあ。へへ、客観的にそう見えてるってのは嬉しいもんだなあ」





少し照れたように笑うザックス。
あたしはその顔を見ながら彼に尋ねた。





「…ザックスもふたりが好き?」

「え?」





いきなりだから、きょとんとされた。
でもザックスはすぐに笑った。
そして大きく頷き、はっきりと答えてくれた。





「おう!会えてすげー嬉しいよ!」





その答えに、なんだかこちらも顔が綻んだ。
だって本当に嬉しそうに答えてくれたから。

そう。答えはわかっていた。
ザックスも、きっと会いたかったはずだから。

ふたりを見たザックスの顔、ほっとしてた。

マーテリアが考えた安息。
思う事は色々あるのは事実だけど、悪い事だけでは無いと思う。

そしてその嬉しいという感情は、共感だった。





「そっか!あたしもクラウドもエアリスも大好き!」

「お?」





笑って言える。大好きだと。
胸を張って。

でも、今は。




「ね、あたし、ザックスにずっと会ってみたかったんだ」

「俺に?」

「うん。それで、こうして会えて…クラウドとエアリスの気持ち、なんとなくわかった」

「え…?」




これも、共感。

この人を大切に思う気持ち、自分でも接してみて…よくわかった。

明るくて、強くて優しくて。
あたしも、この人のことが大好きになった。

だから、にっこり笑う。





「えへへっ!だからね、あたし今はザックスのこともかなりのお気に入りになっちゃったわけなんだよね〜」

「えっ?」

「うん。だから、もしあたしに出来ることがあったらしたいんだ。そう思うの、クラウドだけじゃない。ううん、クラウドにしか出来ない事もあって、でも色々ぜんっぜん関係ない奴だからこそ出来ることもあるかもしれないから。何でもいいよ。吐き出したい事とか。もしそういうことがあったら、ぜひぜひ、頼ってくださいませ?」

「ナマエ…」





同じ世界の人間だけど、関わりのなかった人。
そういう距離だからこそ、出来ることもあるかもしれないって。

もしそれがあるのなら、力になりたいって思ったから。

すると、ザックスはふっと微笑んだ。





「おう、ありがとな」

「うん!」

「じゃあさ、協力してくれよ」

「お、なになに?」

「大事なもの、守ること。クラウドもエアリスも。他の皆も。それに、ナマエもな!」





ザックスはそう言って笑う。

この人は守ったんだよね。
エアリスのことも、そして…クラウドのことも。

そしてまた、この世界でも大切なものをって、それを願っている。





「うん!もちろん!ザックスのこともね!」

「おう!」

「大事なもの、一緒に守る!一緒に、頑張る!」





にっこりと言う。
ただそこには、少し意味を込めて。

ひとりじゃない。一緒に。

だから、今度はきっと。
何を引き替えにすることも無く。

一緒に頑張る。

その意味の全部が全部伝わったわけじゃないかもしれないけど、ザックスはふっと微笑んでくれた。

笑う門には福来る。
よく、思う事。

ザックスはのってくれた。

きっと、拭うなんてことは出来ない。
だから、せめて振り払えるように。

そして、これから、今出来ることを。

貴方のことも大好きだから、今、この現実を、共に生き抜く。



To be continued
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