記憶を取り戻す覚悟
ザックスのダークイミテーションを基盤としてこの世界に溢れ出したあたしたちの姿を模したコピーたち。
あたしたちはそのコピーたちを止めつつ黒幕の居場所に繋がる手掛かりを探して先を進んでいた。
そしてまた、コピーたちに出くわした。
正直うんざりだ。
だって仲間に瓜二つ敵なんて戦いづらいったらありゃしないもん!
ただただそう思った。
だけど、今回の場合はいつもと何か様子が違い、おかしかった。
今回現れたコピーは、突然苦しみだしたかと思えば禍々しい瘴気に包まれた。
そして、その容姿を仲間の姿からモンスターへと変貌させた。変化するのであれば今まではザックスのダークイミテーションに戻るだけだったのに。
「え、モンスター!?」
「ええ!?なんで今度はモンスター!?」
コピーがモンスターに変わる。
それを目の当たりにしてラグナは声を上げ、あたしも一緒に慌てふためいた。
いやいや、だってそんなん驚くからね!?
でもその中でそれを見たザックスの反応は少し違った。
その時ザックスは何かを思い出そうとするかのように顔をしかめ、そしてあるひとつの単語を叫んだ。
「劣化…!?」
叫んだザックスに視線が集まる。
劣化…。
それは初めて聞くワードだった。
「何か思い出したのか?」
「いや、なんだこの感覚!?思い出せねえのに覚えてる!」
クラウドが聞き、そう答えたザックスは自身の言葉と記憶に困惑しているようだった。
でも、それってつまりはザックスは本来なら今目の前で起きた事象を知っているってことなんだろう。
輝きを取り戻したら、きっと彼はそれを思い出す…。
「あいつは?」
その時、ノクトが何かに気が付いて指をさした。
そちらを見て見れば、そこにはこちらに駆け寄ってくる人影が一つ。
「来たな、よかった」
それはひとりだけ正気を保っていたあのザックスのダークイミテーションだった。
「…闇の世界のザックス、だよね?話ができるんだ?」
エアリスが声をかけた。
するとザックスのダークイミテーションはエアリスの事をじっと見た。
そして次に、クラウドの事も。
「エアリスがいて、クラウドもいる…。女神の安息ってやつか。うーん…」
ふたりを見るそのダークイミテーションの瞳は優しく感じた。
そういえば、あたしはクラウドから話を聞くばかりだったから、クラウド、ザックスに会えて嬉しいんだろうな…って、クラウドの視点から考えることが多かった気がする。
だけど、ザックスから見たふたりっていうのも…。
今はザックスの記憶がないから余計に聞くこともなくて、でもザックスにとってもクラウドとエアリスが元気にしているっていうのは…。
その瞳を見たら、なんだかそんなことを考えた。
「これ、何なんだよ」
「口で説明してもわかんないだろ。俺なんだから」
「そうだけど!お前は覚えてんだろ!?」
ザックスは失っている記憶について自分のダークイミテーションに聞いた。
確かモグはこのダークイミテーションが輝きを所持してるって言ってたよね。
ダークイミテーションはじっとザックスを見ていた。
「俺を倒したらお前は思い出す。だけど………かなりキツイぞ」
かなりキツイ。
その言葉には溜めがあった。
それが余計に、事の苦しさを表しているようで。
そしてキツイという言葉を聞いた時、クラウドの顔が少し強張った気がした。
クラウドはその、最もキツイ部分の記憶を有している…。
それは、もう決して取り戻すことの出来ない現実だから。
あたしはそっと、クラウドの背に触れた。
「…ナマエ」
「………。」
背の温度に気がつき、誰にも聞こえないほど小さく、クラウドはあたしの名前を口にした。
あたしはザックスのダークイミテーションを見つめたまま、クラウドに黙って頷いた。
辛い記憶。あたしは、その場になんていなかった。知る由なんてなかった。
でも今は傍にいる。だからまた苦しいことがあった時、今度はあたしも手伝う、支えになる。
そう思っている人間がいるよと、そう伝えるように。
「忘れたままなんて嫌だ」
そしてザックスはそう言い切った。
どんなに辛くても、そのままでなんていたくないと。
「そう言うよなあ。やっぱり俺なんだな」
そんな答えを聞いたダークイミテーションはそう後ろ頭を掻いた。
なんにせよ、あたしたちがこの問題をどうにかするためには彼から情報を聞かなくては。
「ね、みんな不安なんだよ。教えてあげれないかな」
エアリスが尋ねる。
そうこうしてる間にもまたコピーがモンスターと化していく。
「おいおい、現在進行形でモンスターになってんぞ!どうなんだ、倒していいのか!?」
「だな」
ラグナやノクトは武器を構え、すぐに戦うことが出来るように用心はしてくれていた。
でもそう悠長にはしていられない。
ザックスのダークイミテーションは覚悟するように頷いた。
「わかってる。伝えなきゃいけないよな」
「悪いのはセフィロスなんだろ?ザックスの記憶を持ってるあんたがこんな事仕組むはずがない」
するとクラウドはザックスのダークイミテーションにそう言った。
それは当たり前の、一点の疑いも無い声。
その言葉を聞いたザックスのダークイミテーションは何か思うことがあったらしい。
彼は少し考え、そして「ふーん…」と小さく零した。
「へえ…信頼されてんな、俺」
クラウドがザックスを信頼している。
それははたから見ても、結構わかることだと思う。
クラウドにとってやっぱりザックスは少し特別なのだろうと。
そんな雰囲気は、感じ取れるんじゃないだろうか。
そして、ザックスのダークイミテーションはその気持ちを受け取って…。
「うん、この嬉しいのはやっぱ返さなきゃダメだ」
「悲しいのも悔しいのも全部だ。ほんとは全部俺が引き受けるもんなんだろ」
ザックスはゆっくりと剣に手を伸ばし、構えた。
それは戦い、その記憶を受け取るという覚悟。
「わかった。こいつらモンスターももう、倒す以外に救う道はないぞ。だから…手加減すんなよ!」
そして彼もまた受け渡す覚悟を決めたように目を開き、その背中の剣を構えた。
END