人は快晴を見上げる
イグニスから集合と連絡をもらい、向かった先にはノクトとプロンプトがいた。
だけど、一緒に集合した中にもノクトとプロンプトの姿はあった。
イグニスによると、向かった先にいたふたりが偽物だという。
なぜならそのふたりは本当のふたりは知らない、イグニスしか知りえないことを知っていたから。
偽のふたりは口調をまねてこちらを惑わそうとしてきた。
だけど、もう偽物だと確信しているイグニスやコピーという存在に動揺を見せないクラウドにはその効果はない。
無駄だとわかったコピーたちはその化けの皮をはがした。
するとそこに現れたのは、…ふたりのザックスのダークイミテーションだった。
「偽物がひとりやふたりじゃないのは薄々わかってたけど…」
ザックスがそう呟いた。
その彼の視線の先にいたのは、わいわいと話す仲間たちの姿。
バッツにガラフ、ジタンにクジャ。
それに、エアリスとティファの姿まであった。
でも、それらはすべてこちらを迷わせるために作られた偽物だった。
「中身、全部俺の人形かもしれないんだろ?どうしてこうなるんだ」
自分を模した存在が使われている可能性にザックスは苦い顔をしていた。
これは全部セフィロスが仕組んだこと。
それはもう確定事項でいいと思うんだよね。
だけど不可解なのは本人のダークイミテーションを遣わずにザックスのダークイミテーションを皆に化けさせている事。
「全貌はわからない。…俺の記憶も完全じゃない。セフィロスと…元の世界で起きた実験のせいだと思う」
確信ではないけれど、現状その答えの一番近いところにいるであろうクラウドはそう皆に説明した。
実験…。
その単語を聞いてあたしはちらりとクラウドの顔を見た。
正直あたしは話に聞いただけって感じでしかないんだけど…。
するとザックスも少し気になったらしい。
ザックスはクラウドに首を傾げた。
「実験?なんだそれ?いや…なんだ?この感覚?同じソルジャー・クラス1stだから?いや、もっと関係…あれっ?」
ザックスは軽い混乱を起こしていた。
記憶はない。だけど何か筆禍るような、そんな様子が見て取れた。
だけどクラウドの方も実験に関してこれ以上詳しく言うことはできない。
「知識としてしか知らないんだ。自分の体験は…霧にかかってる」
クラウドは少し申し訳なさそうに首を横に振った。
「ふたりとも記憶が曖昧ならよその世界の僕たちにはお手上げだね。ねえ、ナマエは?何か知らないの?」
「うん…ごめん。あたしは当事者じゃないんだ。あたしがそのことに関して知ってるのってクラウドから聞いた話がほとんどなの」
「そうなんだ…」
オニオンナイトに聞かれ、あたしはそうしか答えられなかった。
元の世界で行われていた実験。
クラウドもザックスも、被験者にされて…。
その昔は、セフィロスだって。
正直理解なんて出来てない部分が大半だもん。
「…ひとつわかるのは、本物のザックスなら絶対にああはならない、ということだ。でも、あの人形は違う。ダークイミテーションはより強い意志に影響されやすいんだろう」
「セフィロスの同僚だった俺の影だからセフィロスに選ばれた?ああもう、わかんね!思い出せねえ!」
クラウドは今の時点で確実に言える事だけを言い、ザックスは思い出せない記憶に頭を抱えていた。
モグにも聞いたけど、モグがわかるのは輝きの気配だけ。
それを持ってたのは、あの正気を保っていたザックスのコピーだけなのだとか。
あとはダークイミテーションは闇のクリスタルコアが作り出し、本来マーテリアにもスピリタスにも属さないもの。
ひとりに付き一体ではなく、あんなに量産されていたことはモグも初めて知ったという。
でも、操られやすい存在をそんなにたくさん量産した世界を壊そうとする者の思うつぼ。世界を守ることに関しては逆効果だ。
「戦おうとしたら、また俺たちを怖がるだろうな…」
「迂回するか?まず倒すべきは黒幕だろうな」
少し気重そうにしたフリオニールにイグニスがそう言う。
「ダメだ。放っておけない」
するとそこ声にザックスがすぐさま首を横に振った。
「たとえ影でも自分があんな風に人の思い出を踏みにじるなんて許せない」
「ザックス…そうか」
自分の影を止めたいと強く言い切るザックス。
クラウドはそんな意志の強い姿を見つめていた。
本当、真っ直ぐな人だと思う。
きっとクラウドは、そんな姿を眩しく感じていて…。
それにあたしも。
あたしも、ザックスの真っ直ぐな姿を見ているの、結構好きだと思った。
だからあたしはザックスに笑みを零した。
「うん!じゃあ、やろう!手伝うよ、ザックス!」
「ナマエ…」
こんな時こそ笑うべし。
あたしはそうザックスに頷いた。
もともと、あたしにとってザックスはクラウドやティファから話を聞くことしか出来ない人物だった。
会ってみたいってどんなに思っても、それは決して叶うことはない…。
でも、この世界で奇跡が起きた。
そして、会って、話して、一緒に旅して…クラウドが優しい目をして話す理由がわかった。
自分でも、それをすごく実感した。大好きになった。
「…おう、サンキュ!ナマエ!」
「うん!」
まるで快晴。
ザックスは、そんな笑顔を返してくれた。
そう。彼がしたいと言うのなら手を貸そうとなんの引っかかりもなく思えるようになった。
でもきっと、ほかの皆だってそれは同じ。
ザックスがそういうなら手を惜しむことはない。
こうしてあたしたちは、ザックスのダークイミテーションたちを対処しながら黒幕を目指すことに決めたのだった。
END