友の光を取り戻す


カインを追ってひずみの中に入れば、カインはそれが狙いだったみたいにあたしたちを待ち構えていた。
そして、その手に握られていたのは槍。カインはあたしたちに向かい攻撃を仕掛けてきた。

そんなもんだから、セシルはかなり困惑してた。
あたしは…そりゃちょっとはビックリしたけど、でもカインの声のトーンとか普通だったから、何か理由があるんだろうって思った。盲目的、と言われればそれまでだけどね。

でも見知った顔だと戦いにくいのはある。
だからここはバッツやスコール、この世界で出会った仲間が手を貸してくれて、上手い具合にカインのことを抑えてくれた。

その結果、カインは膝をつく。
するとその瞬間、あたしたちが入っていたひずみがパッと消えてなくなってしまった。





「あ、あれ!?」

「次元のひずみが消えたぞ!じゃあ、このひずみの主は…」





晴れ渡った視界にあたしがきょろっと辺りを見渡せば、同じように驚いた様子でバッツがカインを見た。
その場にいた他の皆もカインに視線を集める。すると膝をついていたカインはゆっくりと立ち上がり、頷いて見せた。





「俺が作りだしたものだ。俺が倒れればひずみは消える」





そうか。カインがひずみの主だったから…。
突然クリアになった視界に合点がいき、あたしはうんうんと納得してた。

でもあたしたちの旅の目的はひずみを閉じていくことなわけで。
そのひずみをわざわざ作りだしたことにセシルは引っ掛かりを覚えたみたいだった。





「なぜだ、カイン!どうして世界を傷つける!まさか…誰かに操られているのか!?」

「…あんたらしくないな」





どこか焦っているようなセシル。
そんな姿は誰の目からも明らかで、見かねたスコールが少し落ち着くように声を掛けた。





「俺たちにもわかるように説明してくれ」

「事情を聞かせてよ。何かを確かめたかったんじゃない?ね、ナマエも知り合いなんだよね?」

「うん。幼馴染みなんだよ!」





オニオンナイトに尋ねられ、あたしは笑って頷いた。

セシル、結構戸惑ってるし間に入ってくれた皆には感謝だ。

基本的にここで仲間と呼べるようになった人たちは戦いを好き好んではいない。
平和的に解決できるのなら、それが一番だと考えてる。

カインはちゃんと話も通じるし、さっき戦った時も殺意や敵意みたいなものは無かったから皆としても味方になってくれるならその方がいいと思ったのだろう。

するとカインは何かを確かめるように辺りを見渡した。





「あのモーグリは…いないな」





カインが気にしていたのはモグの存在だった。
モグに聞かれたらまずい話…?

とりあえずカインの方もこちらにもともと話をするつもりではあったようでそれが確認出来ると話を始めてくれた。





「お前たちはこの世界で戦っている時、力が抜ける感覚になったことはないか?」

「その点については俺たちも気にしていたところだ。次元のひずみの内部での戦いではその傾向が顕著になる」





カインの話と言うのはこの世界での戦いについてだった。
力が抜ける感覚。答えてくれたのはキングだ。確かにあたしたちはそれを感じていた。





「俺と戦った時はどうだ?同じ異世界の戦士同士だ」

「イミテーションやモンスター相手の時よりそれが強かった…かもな」

「あ!言われてみれば今まで戦った異世界の連中との戦いのときも同じだったかもしれないぞ!」





スコールとバッツが今までを振り返り、納得したように頷く。
それを見たカインはあたしにも聞いてくる。





「ナマエ。お前も先ほど戦い辛いと口にしていただろう。それは相手が俺と言う理由だけでは無かったのではないか?」

「うん。そうだよ。カインが相手で戦いづらいって意味もあったけど、ひずみの中だったからって両方の意味で言った」

「じゃあそれを確かめるために僕たちに戦いを挑んだんだね」





あたしの言動を気にしていた所からも、自分と戦った時にどう感じるかを体感して欲しかったこが伺える。
それを聞いたオニオンナイトもその意図を察したようにカインを見ていた。





「俺もすべてを知っているわけじゃない。ただ…その力を吸い取っているのがあのモーグリだと俺に教えた者がいた」

「それは誰なんだ?」

「今のお前には教えられん」





カインに情報を与えた者の存在を尋ねたセシルにカインはそう言って答えなかった。
セシルは俯く。





「……。僕が…大切な事を忘れているから?教えてくれ…カイン。僕は…何を失ってしまったんだ?」

「その身を持って思い出さねば意味の無いものだ」





セシルが失っているもの。
それは自分で取り戻さなければ意味の無いもの、か。

でもこの世界にいる元の世界の人達って多分カイン以外皆それ失くしてるんだよな。

あたし自身も然り。





「ね、カイン。それって、あたしも忘れてるんだよね?」

「ああ、そのようだな。…取り戻すまで、俺は何も言わん」

「そっか。うん、じゃあ聞かない!思い出す!」





あたしはそう言ってへらっと笑った。
それを見たカインとセシルはなんかちょっと面を喰らったみたいな顔してたけど。

だってカインがそれを思い出して欲しいならそう悪い事では無いでしょうよ?

ていうかなんで忘れてんのって話なわけだけど。





「ナマエ…不安は無いのかい?」

「別に〜。だって不安になるもなにもそれすら覚えてないもん」

「…君は本当そういうところ…。僕も見習いたいよ」

「おう。見習え見習え〜!」





そんな風に話したら、セシルも少し笑った。
笑ってくれたのは良かったと思う。だってセシル、なんか妙に思い詰めた風に見えたし。





「あんたはどうする?その仲間の所へ帰るのか?」





ある程度話が区切れたところで、スコールがこの先どうするのかをカインに尋ねた。
でもそれを聞いたあたしはギョッとした。





「え!?どっか行っちゃうの!?」

「そうしようかと思っていたが…」




聞けばカインは否定しなかった。
な、なんだとう…。

だっててっきりこの先は一緒だね!やっほう!とか思ってたし。

するとそこにバッツが言う。





「おいおい、ナマエはともかく仲間が不安になってるのに放っておくのか?」

「今ナマエはともかくって言った?!」

「だってお前は別にあっけらかんとしてるじゃないか」

「そうだけど!でもともかく!?」





サラッと酷いぞバッツ!
うわーん!と喚けばそれを見たカインは小さくため息をつきながら今も俯くセシルを見た。





「本人に疑われている身だからな。だが…お前の言う通りだ。異世界の戦士よ。今のセシルを放ってはおけん。俺もこの旅に同行しよう」

「カイン…!!」





同行、カインはそう言った。
それを聞いたあたしはキラキラッと目が輝いた自覚がある。

するとカインはまた溜息をついた。





「…こいつのやかましさにも苦労しているだろう。目付け役にもなるさ」

「ちょっとカインさん!?…まあ、一緒に来てくれるならなんでもいいや!」





目付け、とか言われた。
確かにまあやかましくしてる自覚もありますけど!?

でも言った通り、カインと一緒に旅が出来るならあたしは何でもいい。

そう気楽に捉えれば、なんかオニオンナイトにもため息をつかれた。





「なんかこの人と会ってからナマエ、割増しでうるさいね」

「うるさい!?」

「でも、そうしてくれると助かるよ。情報を交換していこう」

「無視…!」





毒吐いた揚句にあたしを無視してカインを歓迎してるオニオンナイト。

なんて子…あたしの方がお姉さんなのに…!
ていうか皆さっきからあたしの扱い酷いなあ…!

スコールもうるさいなって顔してる!目がそう言ってる!

…まあ、カインを迎えてくれるなら別にいいけどね。
皆、カインのいう事に引っ掛かりとか無さそうだし。

ただ、気掛かりを言うのであればあとはやっぱりセシルのことだった。





「…カイン…信じていいのか…」

「裏切り者のそしりを受けても良い。俺は…友の光を取り戻す」





ふたりは互いに背を向けた。
不安と、何処か噛み合わない気持ち。

だけどあたしは、カインのその声に迷いを見なかった。



END
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