頼り頼られ
つい最近、ライトニングたちの仲間だったファングがこの一行に加わった。
なんでも、ファングを一番最初に見つけたのはジェクトさんだったとか。
だけどファングは警戒心が強く、ジェクトさんもこう強面だし色々と相性も悪かったらしく…ちょっと話が噛み合うまでに時間がかかったという話を人づてに聞いた。
そして、そんな関係は今なお少し引きずっている模様。
元の世界からの仲間であるホープとの再会を喜ぶファングの元を通りかかれば、ジェクトさんは少しバツの悪そうな顔をした。
「今までヴァニラを守ってくれてたんだよな。ありがとよ」
ファングとヴァニラは同郷で凄く仲がいい。
他の仲間たちからの話も聞き色々と落ち着いたのか、改めてファングはあたしたちにそうお礼を言ってきた。
「守っていると言う認識はないよ。彼女も皆を守ってくれている…いや、守ると言うよりはお互い助け合っているって感じかな?」
「今はそれでいいさ。だけどヴァニラはあれで頑固なんだ。ちゃんと見てなきゃ危なくてしょうがない。あたしが守んねぇと」
お互い助け合っているだけだからと笑って答えたフリオニール。
フリオニールは人当たりがいいから、ファングも軽く笑みを零す。
でもその言葉からはまだ何となくひとりで何とかしようとするというか、そんな様子が見て取れた。
特に、ことヴァニラに関しては余計に。
「…。過去、お前たちの間で何があったのかは知らないが、お前がそう言うのならきっとそうなのだろう。だが…他人が見ているところなどその一面に過ぎない」
「レオンハルト…。そうだな、そういう意味で深く知っているファングだけにしか守れないものもあるのかもしれないな」
「ハッ、あんまかたっ苦しく考えんなって。守れる力があるから守るんだ。当然だろ」
レオンハルト、フリオニールがそんな気遣いをよこすも、ファングはそれにもそう返す。
確かにファングは結構腕が立つ。
同じ女ながら、あの頼もしさには惚れ惚れしちゃうところだ。
でもひとりで無茶しても良い事ってない。
どうやらファングの無茶しそうな様子はアーロンも気になったらしく、アーロンは落ち着いた口調でファングを諭した。
「それもそうだが…事実がどうあろうとも、今は運命共同体の仲間だ。そこは変わらないだろう。ひとりで守ろうとするな。此処にいる連中を頼れ」
「優先度ってものがあるからな。約束はできねーよ」
「それで構わない。俺たちの考えを知っていればいい」
アーロンって、誰かを諭したり、説得とかするの凄く上手だよなっていつも思う。
相手の気持ちをよく汲みながら、決して押し付けはせず、だけどしっかり聞かせて見せると言うか。
ミヘン・セッションの時に前線に配置されなかったガッタを諭したりとか。
あとドナがいなくなって慌てるバルテロを落ち着かせたのもそう。
で、今回も然りだ。
ファングは後ろ頭を掻き、アーロンの言葉に頷いた。
「…わかってるよ。最初から協力する気だって。ここまでヴァニラと一緒にいてくれてありがとう。こっから先はあたしもヴァニラを守る」
少し、ファングの肩の力は抜けただろうか。
そうだったらいいけど。そう思ってあたしはふっと思わず微笑む。
するとやっと気張る様子が和らいだからか、もしかしたらアーロンの言葉に耳を貸したからか、ジェクトさんがやれやれと首を横に振りながらため息交じりに口を開いた。
「ったく…ホープの仲間だってなら最初に会った時に俺を信用しとけよ」
そこでその場の視線が全部ジェクトさんに集まった。
ジェクトさんを信用…。
その言葉に対し、多分皆言いたい事は同じだろう。
見知らぬ土地で最初に会ったのがジェクトさんだったとしたなら。
「初対面でジェクトを信用するのは……難しいだろうな」
「ん〜、一瞬ちょっと強張るかもってのは否定できないかなあ…」
「なんだとぉ!どっからどう見ても誠実なおじ様だろうが!」
この面子の中でそれを言葉に出来るのはアーロンやあたしになってくる。
口にすれば当然、ジェクトさんは怒ってたけど。
それが可笑しくてあたしは思わず噴き出して笑った。
ああでも、あたしはジェクトさんに初めて会った時、別に怖くなかったけどね。
はじめてスピラに来た時のことを思い出す。
んじゃここはひとつ、少しジェクトさんの株も上げておこうじゃないか。
「まあ、あたしは大丈夫でしたけどね!」
「お前はまた特殊だろう」
フォローしてみたら、すかさずアーロンに突っ込まれた。
で、しかもも折角フォローしたのにジェクトさんからもなんとも微妙な反応を返された。
「つうかフォローいれんなら最初からそれを言って欲しかったぜ…」
「えへ!」
頭に手を当て、へらっと笑った。
まあおふざけ混じりだしね。
でもこれでジェクトさんとファングの関係が少し和らいで、皆にも打ち解ける切っ掛けになれたのなら良かったと思う。
それに、あたしはもうひとつだけちょっとした収穫もあった。
「此処にいる連中を頼れ、か」
「なんだ」
その後、ちょっとアーロンと話してた時にふとそう口にした。
それはアーロンがファングに伝えた言葉。
「ううん、ちょっと嬉しかっただけ」
「嬉しい?」
アーロンは訳が分からないと言うように眉をひそめていた。
此処にいる人達を頼っていいと言う言葉。
その頼っていいという人の中には勿論アーロンも含まれている。
そして寄り掛かっていいのはファングだけでなく、全員に掛かる言葉だ。
そして逆も然り。
寄り掛かる側に、アーロンも含まれてる。
「ううん、頼っていいんだよねって思っただけ」
「…今更な話だな」
「ん、改めて思っただけだよ。でも、頼って当然、守られて当然とは思うなってね!」
「…ほう。よくわかっているじゃないか」
「へへへっ」
それは、前にアーロンが言っていた事。
ちゃんと覚えてるよ。助言だ、ってね。
「…あたしも少しずつ、頼られるようになれたらいいな」
そしてぽつ、と呟いた。
あたしはまだまだ、頼ってと大きな声じゃ言えない。
守ってもらう事の方が全然多いもの。
だけど少しずつ、少しずつ…貰ったものを返せるようになっていきたいと思う。
アーロンも、ここにいる皆を頼ってる。
折角それが聞けたのだから。
「…頼っているさ」
「え?」
ちっぽけな手のひらを見つめていると、小さく聞こえた低い声。
思わず顔をあげれば、ぽすっと大きな掌が頭に落ちてくる。
そしてその手はそのままゆっくり後頭部へと回され、ストン…と軽くアーロンの胸に引き寄せられた。
「…頼ると言うのは、何も戦う力だけとは限らんだろう」
「精神的…心の支えとか?」
「ああ…」
「…なれてるかな」
「お前のやかましさを見ていると悩みが馬鹿らしくなる」
「…はあ!?」
「フッ…冗談だ。半分な」
「半分て…」
アーロンはくつくつ笑ってた。
まったくなんて奴。
ただ、そうしならがポンポンと優しく頭に触れる手があたたかくてあたしはその心地に負けてしまう。
まったく本当になんて奴だ…。
でも、それは絶対的な安心感。
語りかけてくれる声さえ、ほっとする材料だ。
アーロンは優しく言ってくれた。
「…俺は、お前の姿に何度も夢を見た」
「え…?」
「何度俯こうと、ひたむきに前を向く。その姿は…そうだな、眩しく思っていた」
「…そんな大したことして無かったと思うけど」
「褒めているんだ。素直に受け取れ。少なくとも、俺の目にはそう映った」
「アーロン…」
顔は見えない。アーロンの胸に引き寄せられてるから。
ああ、もしかして顔を見せない様に…?
なんだかいつもより思ってること話してくれてるような。
そう感じたら、自然と頬が緩む。
あたしはもう少しアーロンに体を預けた。
それは、頼っているという証。
そしてそれを噛みしめるようにふっと微笑んだ。
END