みんなが傍にいる


ホープはどこにいるだろう。
別に大した理由はないのだけれど、あたしは今、彼のことを探していた。

あてもなく適当に、ただブラブラ歩く。
するとその背中はわりとすぐに見つかった。

でもその傍にはもうひとり、人がいるのが見えた。

どうやらふたりで話をしているみたい。

その様子を見たあたしは、なんだか胸が疼くのを感じた。






「ホープ!ファング!」





疼きに従い、見つけたふたりの名前を呼んで駆け出す。
するとふたりがこちらに振り向いてくれた。






「あ、ナマエさん」

「おう、ナマエもいるんだな」

「ファング〜!久しぶり〜!!」

「っと…ははっ!元気そうじゃねか!」





駆け出したその勢いであたしはファングに抱き着いた。
すると流石はファング。さらっと受け止めて、あたしの頭をぽんぽんと叩きながら笑ってくれた。

この不思議な異世界、遂にファングもこちらに来たらしいというのを話には聞いていた。
でもこの大所帯だし、タイミングも合わなくてまだ会えていなかった。

実は、ホープを探していた理由も少しにそこにある。

ホープにも会えたかどうか聞いてみようかとか、会えてないなら一緒に探してみないかとか聞いてみようとか…そんなことをちらっと考えていたわけで。

でもこうしてふたり同時に見つけてしまった。
なんというか、ツイてるなぁって感じだった。





「いや〜、にしてもファングも合流出来て良かったね〜」

「ああ。今そのことホープとも話してたんだけどよ。なあ?」

「はい」

「もう少し早く合流出来たかもしれねーんだけどな、知らない奴を信用出来なくてよ」

「え?」





再会を喜びながら、ファングがこちらに来たばかりの時の話も聞く。

すると彼女はそう言った。
知らない奴を信用出来なかった。

…って、どういうことだ。
それだけじゃよくわからなくて首を傾げる。

するとその時、足音が聞こえた。
見ればそこを歩いていたのはジェクト。

あたしたちの視線に気が付いた…というか、ファングを見たジェクトは若干顔をしかめた。

…アレ?これは、なにかあった?
それを尋ねるようにちらりとホープを見れば、彼は小さく笑って肩をすくめた。





「今までヴァニラを守ってくれてたんだよな。ありがとよ」





ジェクトの傍にはアーロンやフリオニール、レオンハルトの姿もあった。
ファングは皆の顔を見渡し、そうお礼を口にした。

そして、ヴァニラに対する思いの強さはちゃんと相変わらずみたいだ。





「守っていると言う認識はないよ。彼女も皆を守ってくれている…いや、守ると言うよりはお互い助け合っているって感じかな?」





フリオニールは首を横に振り、彼らしい優しい言葉でそう答えた。
それを聞き、ファングはふっと笑う。





「今はそれでいいさ。だけどヴァニラはあれで頑固なんだ。ちゃんと見てなきゃ危なくてしょうがない。あたしが守んねぇと」





ヴァニラのことはあたしが守る。
それって元の世界からずっとそう。ファングの基本姿勢だ。

あたしとかホープにして見ると見慣れたもんだとは思うわけだけど、他の皆からしてみると結構過保護に見えたりするんじゃないだろうか。

ていうか実際過保護なんだろうけど。





「…ヴァニラが聞いたらなんて言うかなぁ…私だって守るよ!って惚気はじまる?」

「…あはは、まあこれぞファングさんですよ」





だからそう、ホープと小さく笑った。
とは言っても、あたしやホープはその背景にどういったものがあるのか、何となくはわかってはいるのだけど。

皆にも、そう強く想うだけの何かがあるということは伝わっただろう。





「…。過去、お前たちの間で何があったのかは知らないが、お前がそう言うのならきっとそうなのだろう。だが…他人が見ているところなどその一面に過ぎない」

「レオンハルト…。そうだな、そういう意味で深く知っているファングだけにしか守れないものもあるのかもしれないな」

「ハッ、あんまかたっ苦しく考えんなって。守れる力があるから守るんだ。当然だろ」





レオンハルトとフリオニールの声にそんな難しい話じゃないとファングは言う。

ファングは強い。確かに強い。凄く強い。
ルシのあの旅してた時だって一行の主戦力だったもの。

でも、ファングだって脆いところはある。
ちゃんと見てなきゃ危ないって、ヴァニラもだけどファングにも言える事だと思うけどな。

すると、そんな気持ちをまるで代弁するかのようにアーロンが言ってくれた。





「それもそうだが…事実がどうあろうとも、今は運命共同体の仲間だ。そこは変わらないだろう。ひとりで守ろうとするな。此処にいる連中を頼れ」

「優先度ってものがあるからな。約束はできねーよ」

「それで構わない。俺たちの考えを知っていればいい」





強制はしない。あくまで知っていろと。
そう、わかっていてくれるだけでも全然違う。

それを聞いたファングは後ろ頭を掻いた。

そして、小さく頷いた。





「…わかってるよ。最初から協力する気だって。ここまでヴァニラと一緒にいてくれてありがとう。こっから先はあたしもヴァニラを守る」





少し、全体の空気が柔らかくなった気がした。
いや別に険悪ムードだったわけじゃないけどさ。

ファングの肩の力が抜けたなら、それでいいんだ。

すると、ピリッとした感じが抜けたファングにジェクトが一言。





「ったく…ホープやナマエの仲間だってなら最初に会った時に俺を信用しとけよ」





その一言に、全員の視線がジェクトに集まった。

聞く限り、この世界でファングは一番最初に出会ったのがジェクトなのだと言う話だ。
…この人に一番最初に会ったとしたら、かあ。





「初対面でジェクトを信用するのは……難しいだろうな」

「なんだとぉ!どっからどう見ても誠実なおじ様だろうが!」





アーロンの突っ込みに噛み付くジェクト。

もう少し聞いた話。
なんでもファングは出会い頭にジェクトに勝負をふっかけたとかどうとか。

ああ〜…なんか凄く想像つく気はする。





「悪かったよ、あの時は誰が味方かもわからなかったんだ。何よりヴァニラのことが心配でよ。焦ってた」

「お、おう。まあ…なんだ。会えてよかったな」





ファングが素直に頭を下げればジェクトは少したじろぎ、優しい言葉を掛けた。
確かにコワモテではあるけれど、中身さえ知ってしまえば優しい良いおじ様だよね。

あたしはファングニ駆け寄り、トッ…とその背中に抱き着いた。

ファングは少しビックリしたみたい。
でも抱き着いた腕を解く事は無く、ひっつくあたしを見下ろした。





「、ナマエ?」

「ふふ、皆さんどうぞファングのことをよろしくお願いします!」

「…どういう立ち位置だっつの。親か」

「あたっ…えへへ!」





抱き着いたまま、そんな風にふざけて皆にぺこっと頭を下げればファングに小突かれた。

でもファングに会えたこと、また一緒に旅できること。
それを考えると、凄くわくわくする。

皆とも少しずつ受け入れられて、打ち解けていく。

その感覚が素直に嬉しく感じた。



END
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