オヤゴコロ


無事に記憶を取り戻したあたしたちが次にすべきことは勿論前に進むことだった。

この廃墟の街には気になる嵐が見えた。

瓦礫ばかりで道はいくつも潰れてしまっていた。
でもやっと、進むべき道の目処がたった。

そうとわかればその事を仲間たちに伝達しなくては。

少し離れたところでユウナとティーダが話している。
ふたりにも伝えようと歩み寄れば、そこにはふたりの柔らかい笑顔があった。





「おっ、今話しかけないほうが良いよな?」

「見ての通りじゃな」





声を掛けようとしたマッシュ。
彼はその様子を見て一度、邪魔をしない方がいいかと振り返った。

その方がいいだろうとガラフがそれに頷く。





「そうだな、出直すとしよう」

「うん。また後にしよ」





そして、アーロンとあたしも同意した。

ティーダとユウナも、色々あった。

あたしはふたりが一緒にいる未来を願ってた。
だから、今こうしてふたりが笑い合っている姿を見られるのが嬉しい。

穏やかな気持ちになって、思わずふっと微笑む。

するとその直後、背中の方から何やら騒々しい声が聞こえた。





「いいや、アーロン、ナマエちゃん!あのへんで止めさせろ!」





聞こえた声に皆で振り返る。
声の正体はジェクトさんだった。

いや、聞こえた時点でわかったけども。





「見ちゃいられねえ!」





ジェクトさんは仲よく話すふたりの姿に何だかむず痒そうな顔をしていた。

あたしはアーロンとちらりと顔を合わす。

これは、なんだかごちゃっとしそうな予感?
ああ、そうだな。
みたいなアイコンタクト。

だからふたりで小さくため息をついた。





「…見なければいいだろ」

「ですよ〜。ジェクトさん」

「そうは言うけどよっ!息子と大事な仲間の娘があんな…あんな…モゴモゴ…」





なんかもモゴモゴ言ってるジェクトさん。

あたしはまたちらっと振り返ってティーダとユウナを見る。
うん、ほっこり。仲睦まじいって感じ。

だけど親からすると、そんなに気になるものなんだろうか。

まあ、あの旅をしていた頃はジェクトさんの息子とブラスカさんの娘が…なんてきっと皆想像もしていなかったんだろうな、と思う。





「父親の癖に落ち着きのない人だね」





相変わらずモゴモゴそわそわしてるジェクトさんの姿にオニオンナイトもやれやれと呆れた様子だった。
うーん、まあなんか誰から見てもおいおいお〜い的なアレではあるよね。

でもジェクトさん的にはどうにもこうにもやっぱりダメらしい。





「親になったくらいで落ち着けるなら世の中に頑固ジジイは存在しねえよ!」





むしろ逆ギレな勢いである。
ていうか頑固と言うか、そういう自覚はあるのか。





「なんだ、正確にはまだじじいでもないだろ?」





アーロンがフッと笑って言った。

この場合精神年齢って言い方をすればいいんだろうか。
多分ジェクトさんの中身って言うのはスピラで旅をしていた時とそう変わらないと思うんだよね。

だからアーロンの言う通り、まだそう言うには少し早いと言うか。

でも親としてはやっぱり複雑?

するとそこに一声。
今ここにいる面子の中で唯一親の心がわかるガラフが言った。





「ジェクト、悪くないぞ。おじいちゃんと呼ばれるのも。孫はたまらんぞぉ、なんでもしてやりたくなる」

「だぁーっ!そういうこと想像させるな!!」





クルルのことを思い出しているのであろう顔を綻ばせるガラフ。
その幸せそうな表情を見てジェクトさんはまた叫び出す。

でもジェクトさんって素直じゃないけどティーダのこと溺愛してるし、もし孫なんて話になったらちょっと面白いんじゃないかな。





「…案外、じじ馬鹿炸裂するんじゃなかろーか」

「…言ってみたらどうだ」

「…いや、やめとくわー。噛みつかれるの目に見えてるし」





アーロンと小声で話す。
いや絶対顔真っ赤にして「くおら!!」って来るでしょ〜…。

でも可愛がってる様子を想像するのはそう難しい事じゃない気がする。





「はっはっは!ジェクトもまだまだ修行が足りないな!」

「お前らだって子供が出来りゃあわかるようになるての!」

「はいはい、わかったよ。ともかく、ここは離れることにしよう」





マッシュに笑われ、オニオンナイトに諭される。
あたしはオニオンナイトの声に頷くとジェクトさんに駆け寄り、くるっと体を回させて背を押した。





「ほらほら、行きましょ、ジェクトさん!」

「あ、お、おいっ」





ぐいぐいっとその場から離すように背を押して歩き出す。
他の皆も一緒に。

そう言えば、もしブラスカさんがここにいたらなんて言うのかな。
娘はやらん!とかよく聞く話だけど、ブラスカさんってそう言うタイプかなあ…?





「なにをひとりでニヤニヤとしている」

「おおっと…あ、あは、いえいえ〜」

「……。」





想像してたら思わずに顔に出てたらしい。
おかげでアーロンに顔をしかめられたけども。

でもジェクトさんの息子とブラスカさんの娘だもんね。

そんなのわかりきってる今更のことだけど、でもそうか、なんだか皆が顔を揃えたらどうなるのかなって。
そう想像するのは、やっぱりなんだか面白かった。



END
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